5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

ご賞味ください

2016-07-08 22:33:31 | ことば
お仲間の韓国人Jさんが珈琲小説を書いた。

和訳をして仲間に配布して読後の感想を訊ねているのだが、MTさんが第一号メールをくれて、短文だが「ご笑読ください」とあった。

全文をJさんに送って、彼が韓国語に訳したこの部分をみると「笑わないでください」とされている。

「笑って読め」というのも文字通りだとどこか変だ。韓国語にはこういった「笑」の使い方はないのだろう。

金田一春彦先生の「ことばの歳時記」に「ご賞味ください」という一文がある。

最初に先生は「日本人には他人に笑われるということを恥とする考えが古くからある」とい云い、「そんなことをすると世間様から笑われるぞ」と親は子を叱ったとある。

だが、最近は親が子を叱ることはしなくなったようだし「世間様」のあり方もずいぶん変わってしまった。

まさに中元の時期だが、こういう時には「どうぞご笑納ください」と云った。「つまらないものだから笑って収めて欲しい」ということで、日本的な言い回しである。

ところが近頃(昭和47年頃)ではこれを「どうぞご賞味ください」と使う人がいる。これだと言葉は丁寧だが「旨いと思って食べて欲しい」と押しつけがましい西洋的発想の表現になる。

多くの日本人はこれを知らずに使っているはずだ。これは「ご笑味ください」と書くべきを間違ったことから始まったのだろうとする言語学者もいるのだというが、なるほどである。

金田一先生がこの文を書いたのは半世紀も前。今では贈る自分をほめる「ご賞味」を使う人のほうが間違いなく多数派だろう。

SNSの時代に「ご笑味」と書けば、誤解されるのがオチだ。韓国式に「笑わないでください」と云った方が受け取りやすい日本人が増えているのかもしれない。ちなみにMTさんは元気な後期高齢者のおひとりである。



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