5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

オンドルの欲しい夜

2011-01-30 23:37:40 | くらし
現在(1月30日午後9時)の名古屋地方の気温は0度。顔にあたる冷気がピリッとしているのは、空気が乾いているせいだろう。今夜は冷えそうである。

広島の友人Tの話を思い出した。もう30年以上前のことになるのだが、彼の自宅に泊めたアメリカ人の客が「昨晩は寒くて眠れなかった」とこぼして、早々にホテルに移ってしまったのだという。彼の自宅は豪邸の類なのだが、当時はコタツやストーブを使った局部暖房。今のように空調で家全体を暖めることはなかった為、すでに空間暖房が当然だったアメリカ人にとっては、日本家屋の建てつけの悪さ、寒いスキマ風が耐えられなかったようだ。「馬鹿にするな」と友人は憤慨するが、しょうがない。

これが、若し30年前の冬の韓国だったら、話はだいぶん違ったことになっていただろう。かの地には、有名な室暖房システムの「オンドル」があるではないか。現在のソウルの気温は零下10度(体感は零下18度)。こんな厳寒に石油ストーブとこたつでは、それこそ凍え死ぬことになりそうだ。

長璋吉の「私の朝鮮語小辞典・ソウル遊学記」(河出文庫)は、著者が滞在した1970年前後のソウルの暮らしぶりが垣間見られてとても面白い本だが、「オンドル」についてもかなり詳しく書かれている。

まず、オンドルの構造だが、「焚口を軸にして部屋の床周辺と中央部に数本、熱風の通る煙道を掘って煙突とつなぐ。煙道の上には平たい石、土と灰を載せてセメントで固め、油紙やビニールを貼って特殊な塗料を塗れば出来上がり。火源は高価な薪は使われず練炭が一般的。」だと書かれている。

「コチコチの床にせんべい布団だから腰が痛くて寝てられない」と文句を云いながらも、「オンドルの良さは、下の方から全面的に暖めてくれることだ。韓国語には『体を溶かす』という表現があるが、凍った体をオンドルの暖かい床にぺったりとくっつけて寝転がれば、肉と筋の溶けてゆく感覚がジワリと全身に広がって、効果は神経組織にまでおよぶ。」と、著者自身は結構お気に入りだったようである。

こちらも、少ない韓国旅行経験で、すでに幾度もオンドル部屋の厄介になった。東海の観光温泉ホテルでも、慶南の旅人宿でも、ソウルのユースホステルでも、冬暖かく夏涼しいオンドルの快適さを感じることができた。

著者は、「練炭はオンドルや炊事には欠かせないが、災いのもとにもなっている」として、70年代当時は、練炭中毒のリスクも高かったことをコメントしている。ガス警報機の広告には、吉永小百合が使われていたらしい。

さらに、韓屋の部屋が狭いのは「オンドルの熱効率」を考えた結果だろう。大きな部屋は焚口も二つ要り、コストがかかりすぎる。小部屋の三方は壁で、窓も申し訳程度に小さいのが付いているだけだから、これが「密室的雰囲気」を醸成する。なにかが起こりやすい状況を作り出すのもオンドルの所為でなくてなんであろうと強調する。

そういえば、自分の泊まった各所のオンドル部屋、何処も部屋は狭くて壁が高く、ケバイ床にケバイ壁紙となんともチープだった。長の云うように、「男女七歳不同席」の儒教的なたてまえ倫理とはまるで違った機能をオンドル部屋が持っていたことも間違いなようだ。

それから半世紀、韓国の経済成長に伴って近頃のオンドル事情はどう変わったのだろう。練炭など姿を消して久しく、熱源はガスや石油だろう。都心の高層アパトゥ(マンション)は洋式化し、冷暖房完備になっているのかもしれない。しかし、こんな寒い夜には、やっぱり下着一枚で朝まですごせるオンドルで「体を溶かしたい」なあなんていう韓国人もきっと多いのではなかろうか。

オンドルの無い自宅としては、部屋を締め切り、ストーブを焚いて、風呂から上がったら即蒲団に直行することにせねば。






















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