森林ジャーナリストの裏ブログ

表ブログに書けない、書く必要もないドーデモ話をつらつらと。

木の伐倒方向

2006-08-27 23:15:12 | 林業・林産業

新月伐採と関連して、木を倒す方向についても一言。

 

私が初めて具体的な林業作業を勉強するために通った吉野では、みんな尾根側に倒す。切り株の上に乗せるようにするのがプロだ。そして何か月か葉枯らしする。すると、まだ生きた葉が水分を蒸散させるから、かなり含水率が下がって、心材の色も黒からピンクに変わる。これをアク抜きと言った。

アク抜きは、吉野材の特徴で、水分の多いスギに必要らしい。他の地域では言わないからだ。面倒だが、アク抜き後のピンクの木肌はほれぼれするほど美しい。

 

しかし、木を尾根側に倒すのは、結構大変だ。通常斜面に生えている木は、谷側に枝を伸ばしていて、重心も谷にかかっているものだ。それを反対側に倒すためには、切り口の作り方などに様々な技量がいる。ロープをひっかけて引っ張るような努力もする。

川上村の辻谷さんは、倒す方向に意味があるのか、と若いころに実験的に谷側に倒して葉枯らしをしたそうだ。しかし結果は、乾燥がものすごく遅かったという。
また谷側に倒すと、木がそのまま斜面を滑り落ちる可能性が高くて、危険だし、木も傷つく。やはり吉野の知恵はすごいのだ、と思わせる。

 

ところが、その後ほかの林業地を歩いて、倒す方向にこだわりのないところが多くて驚いた。どっちに倒したって、重機で運び出す(葉枯らしをしない)のだから構わないじゃないか、と言う人さえいた。すると、倒しやすいのは谷側だ。
意外と、しっかりした林業技術というものは、伝わらないものである。

 

素人考えだが、やはり切り口を下向き(梢を尾根側)にしないと、樹液は抜けにくいのかもしれない。しかし幹の導管は、上に水を運ぶ構造になっているから、谷側に倒しても、梢側を伐ったら、つまり末口を作ったら、案外樹液が抜けやすくなって乾燥しやすいかもしれない。

「新月伐採」に関しても、いつ伐るかよりも、倒す方向や葉枯らしの内容の方が重要な気がするのも、そんな思いからだ。