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藤枝MYFCを中心としたサッカー観戦記やサッカーに関する個人的な意見の書き込みが中心です。

彼らの神 (再掲載)

2019年07月17日 22時54分12秒 | その他
「彼らの神」 金子達仁著(文春文庫)(2010年05月22日掲載記事)


先日古本屋で目にとまり購入した本です。なかなか興味深いことが書かれていました。

スポーツは経済活動に似ている。
オリンピックでの国別のメダル獲得数を見てみると、ほぼ人口もしくはGDPの規模に比例した結果になっている。しかしその両方で共に恵まれた規模である日本はスポーツの世界では結果を出すことが出来ない。
なぜ日本は世界で勝つことが出来ないのか?これがこの本で書かれている内容。

結論から言ってしまうと、日本がスポーツに対して金をかけていないことが世界で勝てないことの一番の原因だとこの本には書かれています。以下にこの本に書かれている内容を詳しく紹介します。

【身体能力の差】
著者は、まず先によく「身体能力の差」という言葉が使われるが、身体能力は必ずしも決定的な要素にはならないと言っている。
身体能力の差だけが原因ならば、日本のお家芸である柔道は、世界的に競技人口の増加した現在では、既にオリンピックで勝てなくなっているはずであるし、かつて日本のお家芸で「日本人に最も適した球技」と言われたバレーボールは未だに廃れることなくオリンピックで活躍できているはずだからだ。
スポーツの世界で勝つためには「人口」と「環境」という二つの条件をクリアしなければならない。そしてその二つの条件をクリアしていれば身体能力のハンデは克服できる。

【Jリーグは成功すると信じていた外国人】
かつてJリーグが日本に誕生した時、世界のサッカー関係者はJリーグの成功を信じて疑わなかった。彼らは口をそろえてこう言った「経済で成功した日本なんだから、きっとサッカーでも成功する」と。
当時、誕生したばかりのJリーグに現役のブラジル代表主将だったドゥンガが磐田に移籍してきた時に彼が語っていた言葉が「私が日本へ移籍することに対して金目当てだと陰口を叩くものもいるが、私が日本への移籍を決断した一番の理由は日本の将来性だ。私はこの国は間違いなく強くなると信じていたし、これから強くなっていく国のリーグの創世記に携われることは魅力的なことだった」
しかし、ドゥンガは実際にJリーグでプレーし、日本に対して失望しこのような言葉を残した。
「日本に来るにあたって、日本はサッカーの世界でもきっと厳密な規律のもとで効率化が進められるに違いないと思い込んでいたが大きな間違いだった。経済での素晴らしい成功と共通する部分があまりに少ないのは驚きだった」

【外国におけるプロフェッショナルの意識】
そもそもなぜ「プロスポーツ」が誕生したのか?
外国におけるプロスポーツが誕生したきっかけは、「あそこのチームには負けたくない」という勝利を最優先に求める「民意の高まり」から副業を持つアマチュアにアドバンテージを与えるために生まれた職業である。アドバンテージを有効に使えばより勝利の確率が高くなり、ライバルのチームは遅れてはならないとこれに追随した。
市民クラブの代表的存在ともいえるFCバルセロナは、「レアルマドリッドに負けたくない」という民意の高まりから地元(バスク地方)の数多くのサポートを受けている。しかし巨額の投資をするスポンサーでもバルセロナのユニホームの胸の部分にはスポンサーのロゴは入らない。それでもスポンサーが支援するのはバルセロナが企業の広告塔になるのではなく、FCバルセロナのために力を貸すことは、地域に溶け込むうえで極めて有効な手段と考えられているからである。

【日本におけるスポーツ及びプロフェッショナルの意識】
まず、外国は「村」「都市」といった単位でスポーツが伝播されて行ったのに対して、日本におけるスポーツの単位は「学校」だった。本来「勝利」を最優先に考えなければならなかったスポーツだが、学生と言う本分を持つものをスポーツの主役にしてしまった日本では、単純に結果だけを追い求めるわけには行かなくなった。「スポーツには結果よりも大切なものがある」という考え方が日本の常識となっていった。
日本でプロスポーツ(プロ野球)が誕生したきっかけは1931年読売新聞が企画したメジャーリーグ選抜対全日本の親善試合であり、企業の興行的・人為的なものでファンが存在するものではなく、ファンは開拓するものだった。Jリーグ誕生についてもファンの要望が高まっての誕生と言うよりは、それまでサッカーに携わってきたごく少数の関係者の熱意と、広告代理店の戦略が噛み合ったゆえのプロ化だった。
つまり日本には外国のプロ化のような民意が無かった。
日本人は依然として自分達の生きている世界の主役が自分達であること、つまり「民が主」を自覚しきれていない部分がある。

【施設と人口】
日本のトッププロ選手は海外遠征を頻繁に行う。(最近では卓球の愛ちゃんが海外遠征のスケジュールが多忙で大学を中退せざるをえなくなった)海外遠征を行う理由のひとつに日本にトッププロ選手を満足させられるだけの施設が無いという問題がある。2002年のW杯で日本に8つの新しいスタジアムが出来たが、サッカー専用のスタジアムはたった3つしかない。他はみなサッカーだけしか出来ないのはもったいないと言う理由で、観客をピッチから遠ざけることになる陸上用トラックの併設を余儀なくされた。
日本は経済大国であるにもかかわらず、それに見合っただけの投資をスポーツにしてこなかった。だから勝てなくなった。
また、日本は1億人以上の人口を有しながら勝てない。その最もたる例がサッカーと言っても良い。日本の18歳以下でサッカーをやっている選手の大多数が学校の部活動に所属している。平均すると1チームあたり35人という計算になる。つまり24人は試合に出られないわけである。競技人口が多くても実際にプレーする選手の数はもっと少ないものになってしまい、これでは完全に宝の持ち腐れとなる。ヨーロッパの場合は運動する場は学校ではなくクラブである。クラブの場合は移籍が可能であり、試合に出られなければ試合に出られるクラブに移籍することが出来る。
日本ではなぜか劣悪な環境で頑張る選手が美しいとされ、出場の見込みの無いまま補欠に甘んじる選手達が素晴らしいとされてしまう。欧米では、環境を改善しよう、チャンスを与えようという動きはこれまでのところほとんど出てきていない。
日本が経済で成功したのは金と人の力を効率よくフル稼働させたからこそだ、しかし日本のスポーツ界では、経済で成功したその力が十分にスポーツに注がれていないと言うのが現状である。
日本は経済大国である、だが日本の多くのスポーツが経済大国とは思えない環境に置かれていることを、はたしてどれだけの日本人が自覚しているだろうか。

【日本が勝つために】
日本のスポーツが今より世界で結果を残せるようになる為には、日本人がスポーツを文化として捕えるようになる必要がある。文化として捕えるようになればスポーツの運営に携わる人間が白眼視されることは無くなる。維持・あるいは発展のために資金を投下しようという発想も出てくる。逆に言えばそうならない限り、スポーツを文化として捕え惜しみなく資金を投じる諸外国との差は開いていくばかりになる。
第2次大戦後ドイツが急速にスポーツで力をつけてきたが、その要因はスポーツを楽しむ環境の整備だった。国際大会で結果を残せば、若い層はその競技にあこがれる。今までより増えた競技人口を吸収する為には施設を作る必要が出てくる。ドイツは底辺を吸収する施設と頂点を満足させる施設があるから力をつけることが出来た。
果たして今の日本に「ここは世界一」と胸をはれるスポーツ施設がいくつあるだろうか。その数が増えていかない限り日本人の国際大会での苦闘は今後も続いてしまう気がする。

【日本人が信じられるもの】
仮に競技人口が無駄なく試合に出られる環境が整い、施設も充実したとする。ハード面での環境が整い世界との戦いに挑む時、日本人は何を信じて戦ったら良いのだろうか?
国家なり宗教なりに対する意識の希薄な日本人は、国家や宗教に支えを見いだす国の選手といかに渡り合えば良いのか?
「結局のところ自分しかない」
自分を信じる力、信念の強さが重要になってくるのではないか。



最後に個人的な感想
日本が経済大国でありながら、スポーツの世界で結果を残せないのは、日本人がスポーツは勝つことよりも人間育成に重きを置いていることが原因という考え方は確かだと思います。ただ、だからといって学校単位の日本のスポーツのあり方を全否定する必要は無いと考えます。部活動は人間教育が第一の目的となります。それはそれで良いと思います。学校単位のスポーツは精神力であったり忍耐力、社会性などを鍛える面もあり、全てが悪いわけではありません。
現在のクラブのあり方を見ていると、これまでの日本のあり方を排除して外国のものをそのまま日本に持ち込んでいる感じがします。
日本人には日本人らしさがあるので、その日本人らしさを生かした上で(これまでの形をベースとした上で)これまでの日本のやり方で問題となる部分を改善する為に、海外の考え方を参考にするという方法が望ましいというのが私の考えです。
学校単位がベースでも、スポーツが文化として定着することはきっと出来ると私は思います。

2005年12月29日にテレビ静岡にて放送された「馳星周vs金子達仁!!日本サッカーよ強くなれ!激論SP」という番組で金子達仁氏は以下のような発言をしています。
「クラブで世界一を狙うことは、代表で世界一を狙うことよりずっと簡単なこと、それはお金で解決できるから、世界一を本気で狙うクラブが出てきてそれをファンが支える図式が出来てほしい」
「イタリア人やスペイン人からしてみたら、『おいおいパナソニックがクラブを持ってる!?トヨタがクラブを持ってる!?それはレアルマドリ、バルサ、ミラン金じゃ敵わんぞ』と普通は思う」
世界的に見ればそうなんですよね。トヨタが本気になれば世界のクラブからしてみればかなりの脅威となるはずです。その為にはサポーターがクラブにお任せするのではなく、「おらがチーム」を地元が熱心に支えることが重要です。
清水エスパルスサポーターが、ジュビロ戦が近づくと「ジュビロだけには負けることは許されない」というような鬼気迫る雰囲気になるくらいの熱意が生まれてほしいものです。

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