弾道ミサイルについてと、MDに関して

2010-10-23 20:00:13 | 軍事ネタ

→ 巡航ミサイルについてと、自衛隊の保有に関して

前回に書いた上記記事のコメント欄で、
弾道ミサイルと巡航ミサイルの区別について説明できなかったので今日はそれをテーマに。
巡航ミサイルそのものの解説については上記記事を参照してください。


ナチス・ドイツ軍のV-2ロケット

弾道ミサイルという兵器は、第二次世界大戦中にドイツ軍が開発したV-2ロケットから始まった。
巡航ミサイルの始祖となったV-1飛行爆弾と同じく、連合軍に制空権を握られている中で
イギリス本土やフランスなどを爆撃する長距離攻撃手段として開発されたV-2は、
約1,000kgの弾頭に射程距離は300kmで、第二次世界大戦中だけで3,000発以上が発射された。

パルスジェットエンジンによりほぼ水平に航空機のように飛翔するV-1は時速600kmと低速で迎撃が可能だったが、
V-2は液体燃料ロケットにより一度ほぼ直上に発射され、宇宙空間に到達してから目標地点へ落下する為に、
超音速で飛来し落下するV-2を迎撃することは当時では不可能だった。
V-2による攻撃を阻止する為には、発射基地を制圧するしかなかったのである。


試験発射されるICBM、LGM-118A「ピースキーパー」

現代の弾道ミサイルは射程距離を大幅に延伸し、大陸間弾道ミサイル(ICBM=InterContinental Ballistic Missile)
の最大クラスとなると地球上ならばどこでも攻撃範囲に収められるようにまでなった。
弾道ミサイルと巡航ミサイルには様々な特徴の違いがある。

巡航ミサイルの特徴としては、主に
・ほぼ水平に飛翔し目標地点へ突入する。
・無人航空機のようなもので、飛行経路の可変などが可能。
・命中精度が高く、精密攻撃が可能である。
・低速であるので捕捉されれば迎撃されやすい。

のようなものであるが、対して弾道ミサイルについて説明すると、


弾道ミサイルはほぼ真上に発射され山なりに弾道を描き、一度宇宙空間を経由してから高高度から高速で目標地点へ突入する。
また巡航ミサイルと違い発射時にしか推進しない為、飛行経路の可変などはできない。
発射時に目標地点までの距離・方向・角度などを調整し、あとは慣性によって飛翔するのみなので、
巡航ミサイルが無人航空機なら弾道ミサイルは巨大な大砲のようなイメージである。

基本的に命中率は低い為に、ICBMクラスのものとなると核弾頭を搭載するのが普通で、
目標地点から数kmずれても強大な破壊力によって被害を与えられるようにしている。
しかし命中率に関しては最近ではかなり改善されており、それに伴い搭載される核弾頭の出力も低く抑えられる傾向にある。
またイラン・イラク戦争で両国家が応酬し合った短距離弾道ミサイル「スカッド」のように、
短距離のものならば核ではなく通常弾頭で使用される場合もある。

一度宇宙空間を経由してから落下するという性質上、突入時は加速度的に高速となる。
長距離を飛翔する大型のミサイルほど速度は増し、迎撃の猶予時間と手段が限られてくる故に、
現代の最先端技術をもってしても弾道ミサイルの迎撃は困難である。


弾道弾迎撃ミサイル「THAAD」の試験発射

近年ではアメリカと日本でミサイル防衛(Missile Defense=MDと言われる。) システムの開発に取り組んでおり、
ニュースでもやっているので知ってる人は多いと思われる。
パトリオット・ミサイルやスタンダード・ミサイルなどの従来の対空ミサイルを対弾道ミサイル迎撃用に改修したものがあり、(それぞれをPAC3とSM3という。)
PAC3は地上から、SM3はイージス艦から発射することができ、日本のMDの要となっている。
最近ではTHAADのように弾道ミサイル迎撃専用に設計された新型ミサイルも登場した。

しかし、上記で説明したように弾道ミサイルは大気圏への再突入時に加速度的に高速となり、ICBMクラスとなると終末速度は秒速8kmにも達する。
秒速8kmという速度を他のもので例えると、以下のようなスピードということになる。
高速ライフル弾の約8倍、標準的な現代戦闘機の約10倍、音速の約23倍、新幹線の約100倍。

このようなスピードで突入してくる物体を迎撃するのは困難であり、弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃墜する困難さを、
「拳銃から発射された弾丸を散弾銃で打ち落とすようなもの」などと例えられたりもし、
現状のMDでは依然高い迎撃率は見込めないものとなっている。
しかしソ連で開発された「スカッド」のような短距離弾道ミサイル(SRBM=Short-Range Ballistic Missile) などに対しては、
ICBMほどの速度にはならない為に試験においても実戦においても高い迎撃率を示した事例はある。


またMDの手法としてABL計画というものもあり、弾道ミサイルが高速となるのは落下時である為、
比較的低速の上昇段階のうちに航空機からレーザーを照射し破壊するというもので、実用化に向けて開発が進行している。
このABL計画については以前に当ブログでもニュースとして記事にした為にそちらを参照。
→ 対空レーザー迎撃実験、ABL計画


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6 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-10-24 09:16:41
SM-3の迎撃成功率八割、二発を同じ目標に撃つから成功率96%ってどっかで見たなあ。
PAC3もヘッドオンならそれなりに成功するだろうけど、それ以外は厳しそうだ。
日本もTHAAD欲しいね。


ABLは二回目の実験失敗しちゃったね。
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Unknown (Unknown)
2010-10-24 10:00:34
V-1はパルスジェットエンジンの独特の爆音からバリバリ爆弾て呼ばれてたらしいね
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Unknown (ゆっきぃ)
2010-10-24 22:02:27
>>SM-3の迎撃成功率八割のUnknown
SM-3のその迎撃率はSRBM(短距離弾道弾)とか、なにせIRBM(中距離弾道弾)以下だね。
ICBMに対しての有効な迎撃手段は未だにない。

PAC3は射程が短いからなおさら厳しいから、
おっしゃるとおり、終末段階での迎撃手段としてTHAADは欲しいね。
SM-3は中間段階での迎撃手段だから。

>>V-1はパルスジェットのUnknown
独特の音をかき鳴らす様子は、当時の映像として残ってるから、
youtubeとかでも見てみるとわかりやすいね。
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Unknown (パンドラ引退民)
2010-10-24 23:29:28
お初です!hoi3の記事から

弾道弾への傘としてのTHADDと策源地攻撃手段の巡航ミサイルはほしいですね


9条論議が常に付きまといますが、目的が防衛なら手段として攻勢防御に出るのはありだと思うんですけどね・・・
(WW2の通商防衛のために英国がとったUボートブンカーへの空襲的な感じでw)
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Unknown (Unknown)
2010-10-25 03:26:40
きれいな写真だw芸術作品だな
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Unknown (ゆっきぃ)
2010-10-25 19:15:15
>>パンドラ引退民
はじめまして。
パンドラ引退民なのにHoI3の記事からなんだ。

うん、その通りだね。
自衛の為の攻撃を含めての専守防衛、というのが9条であるべきだと思うけど、その時の政治家の解釈に依るところだよね。
ただ近年は自衛隊の海外派遣、空中給油機の導入、新型長距離輸送機の開発、ひゅうが型や22DDHのような大規模な戦力輸送が可能なヘリ空母の配備など、
遠隔地への輸送と補給、ひいては作戦能力を得る方向に向かってることを鑑みれば、巡航ミサイルのような費用対価格面で絶大的に有効と思われる長距離攻撃能力兵器の配備は時間の問題にも思えるね。

>>きれいな写真だのUnknown
兵器はかくも美しきものだね。
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