ステルス戦闘機ってなに?なぜ見えないの?解説

2019-04-17 21:55:44 | 軍事ネタ

自衛隊が最新鋭のF-35ステルス戦闘機を導入したり、それがさっそく事故ったり、
ネットやニュースでステルス戦闘機というワードをよく見かけるようになっている。
さてそこで、「そもそもステルス機とはなんぞや?」という解説。


自衛隊にも導入され始めたF-35

1, ステルス機とは

ステルス機とはステルス性能を有する航空機のことである。
ステルス性能とは、目に見えなかったりすることではなく、
一言でいえば「レーダーに映りにくい特性」のことを言う。

ジェット戦闘機は世代ごとに区分がされており、
従来の主力戦闘機のほとんどは第4世代戦闘機と呼ばれているが、
ステルス性能を有する戦闘機のことは一歩進んで第5世代戦闘機とも呼ぶ。


2, ステルス性能の価値

現代の航空戦において、航空機はレーダーによって遠方何百kmも先から探知することができるが、
ステルス性能を有する機体は被探知距離を大幅に縮小、半減させることができる。
基本的にステルス機といえど被探知距離がゼロにはならないのだが、
接近するまで発見されにくくなるだけでも大きなアドバンテージとなる。
またレーダーは鳥などもキャッチしてしまうとキリがないので、一定サイズ以下の飛行物はノイズとしてカットする機能があり、
ステルス性能によってレーダーに映るサイズが小さい機体は、鳥などと誤認されて同様にカットされる。
それで結果的にレーダーには映らないステルス機となるのだ。


また現代の戦闘機同士の戦いでは遠方からレーダーでロックオンし、
射程何十kmの空対空ミサイルを遠距離から撃ち合う形で始まることが主流であるが、
ステルス機の場合は相手から発見されてない場合、一方的に攻撃をすることが可能なので有利となる。

爆撃機の場合は相手国からの迎撃を回避しつつの爆撃が可能となり、
ハイテクな現代戦においてステルス性能というのはことさら重要な項目となっている。


世界で初めて実用化されたステルス機であるF-117攻撃機と、手前はB-2ステルス戦略爆撃機

3, ステルス性能はどうやって実現しているか

まずレーダーの仕組みの話から。
レーダーというのはまず電波を飛ばし、そのレーダー波は何か物体に当たると反射し戻ってくる。
その反射してきたレーダー波の方向や時間から、物体の位置を計算して表示しているのだ。

ステルス性能というのは、このレーダー波をそっくり反射させにくくすることで実現している。
つまり別の方向に受け流したり、跳ね返さず吸収したりして、レーダーには実際よりも小さな物体に映る。
この指標はRCS(レーダー反射断面積)と呼ばれている。
RCSが低ければ低いほど、レーダー波を反射せず、探知されにくいステルス性能を有するということである。


機体形状を工夫することでRCSを低減させることができるが、故にステルス機というのはかなりのっぺりした印象の機体が多い。
それは航空力学とは相反する形であったりするので、戦闘機のような運動性能が求められる航空機には本来向いておらず、
事実、最初に登場したステルス機は爆撃機であった。

しかし近年の技術の進歩によって、コンピュータが電子的に操縦を補佐したり、RCSに最適な機体形状の計算が効率化したりして、
運動性能とステルス性能を併せ持った戦闘機が実現できつつあり、それが第5世代戦闘機と呼ばれているのだ。


ちなみにレーダーやロックオンの仕組みについては過去記事で取り上げたことがあるので、詳しくは以下も参照してもらいたい。
戦闘機のロックオンと空対空ミサイルの仕組みについて - 独りで歩いてく人のブログ


4, ステルス戦闘機のデメリット

強力で万能に見えるステルス戦闘機にもデメリットは存在する。

まずは運用コスト
RCS低減のために特殊な電波吸収材でコーティングされたステルス機は、性能を維持するために出撃のたびに整備を要する。
この電波吸収材自体の費用や、メンテナンスの手間などで運用コストが嵩みがちである。
例えばアメリカ空軍においてF-22ステルス戦闘機の1時間飛行によるコストは約68,000ドルで、F-15Eの2倍、F-16の3倍の飛行コストがかかるという。
しかし最新型のF-35ステルス戦闘機は約半額の32,000ドル程度に抑えられてF-15Eとほぼ同額であり、
また航空整備士によるとF-35の洗練された機体設計と電子機器はメンテナンス性も従来機の半分程度の手間であるというので、
メンテナンス性についてはある程度解決されつつある問題なのかもしれない。

次に適材適所という面。
実際のところ航空任務にはステルス機でなくても良い任務が存在する。
領空侵犯に対するアラート任務などが代表的だろう。(より専門的に言うなら領空ではなく"防空識別圏")
例えば航空自衛隊などは領空に接近する外国機に対して戦闘機をスクランブル発進させるが、
横付けして警告し、場合によっては威嚇射撃なども実施する。
こういった任務だと目視内にまで接近するためにステルス機である必要がなく、運用コストの安い従来機が適しているし、
他にもステルス機でなくても良い任務というのはいくらでも存在するのだ。

次に搭載能力の問題。
ステルス性能を最大限に発揮するためにはRCS低減に適したシルエットでないといけない。
あまり角ばったりしないことが条件のひとつだとされているが、
つまり通常の戦闘機のようにミサイルや爆弾を主翼や胴体下に吊るして運搬すると、その分ステルス性能が低下するのだ。
これの対策としてステルス機は機内のウェポンベイ(兵装庫)に武装を格納するのが基本だが、
そうすると機外に吊るして運搬できない分、兵装搭載量は減少する。


F-22ラプター

5, 今後のステルス戦闘機

アメリカ空軍は現在3種のステルス機を運用している。
B-2戦略爆撃機と、F-22戦闘機と、最新型のF-35戦闘機だ。(F-117攻撃機は2008年に退役済み)
F-22ラプターは世界最強のステルス戦闘機として名高くも、
制空戦闘に特化しすぎてる故に使い所がほとんどないが、(大国間で戦争が起こらない限り不要なのである)
ロシアや中国などはF-22に対抗できるステルス戦闘機の開発に躍起になっている。

F-35はF-22よりも汎用性を重視しあらゆる任務に対応でき、
今後は日本を含め世界中のアメリカの友好国にセールスされ普及していく戦闘機である。


ロシア空軍はF-22への対抗としてSu-57、通称Pak Faを2018年から配備しており、既に実戦投入もされている可能性があるという。
中国空軍もステルス戦闘機としてJ-20を既に配備しており、F-35に対抗する輸出型としてJ-31も現在開発中である。

日本の航空自衛隊も2025年以降の実用化を目指してF-3ステルス戦闘機の開発を表明しており、
他にもヨーロッパなどいくらかの地域でステルス機は研究開発されている。


任務内容によっての費用対効果の観点から全作戦機がステルス機になることはないだろうが、
軍事先進国の主力戦闘機がステルス機に置き換わっていくことはほぼ間違いなく、
今後はアンチステルスレーダーなどのシステム開発も盛んに行われ、
いたちごっこの様相を呈していくだろう。

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防空の盾、イージス艦について解説

2018-12-05 21:26:46 | 軍事ネタ



よくニュースでイージス艦 という言葉を見る。
アメリカ海軍や海上自衛隊が配備している強い軍艦、
という認識はもはや誰にでもあるのかなと思うけど、
「でも結局イージス艦とはなんぞや」 という人向けの簡単な解説。


1, 個艦防空と艦隊防空

まず軍艦の種類として汎用駆逐艦(DD)ミサイル駆逐艦(DDG) がある。
(海自の場合は駆逐艦を護衛艦と呼び替える)

汎用駆逐艦は一般的な戦闘艦で最も数が多く配備されているが、
対空能力としては基本的には自艦に放たれたミサイルに対してのみ、
短距離対空ミサイルで迎撃する、これを個艦防空能力 という。

それに対してミサイル駆逐艦は、強力なレーダーと長距離対空ミサイルを装備し、
自艦だけでなく艦隊全体に対して放たれたミサイルや航空機を迎撃する。
これを艦隊防空能力 という。

つまり艦隊防空を担う対空特化艦のことを従来はミサイル駆逐艦と称したが、(大きいサイズの艦は"ミサイル巡洋艦(CG)"とも)
イージス艦とはこれらミサイル艦にイージスシステムを搭載した艦のことを呼ぶ。


2, イージスシステムとは

イージスシステムとは防空能力をさらに強化したシステムである。
日米のミサイル艦は長距離対空ミサイルとしてスタンダードミサイルSM-1を搭載していたが、
従来のミサイル艦ではイルミネーターという照準器1基につき1発のSM-1しか誘導できなかった。

このイルミネーターは通常だとミサイル艦ごとに2基ずつ搭載していたので、
つまり従来のミサイル艦は同時に2発までの対空目標を同時に処理できるということになる。

しかし1970年に実施されたソヴィエト連海軍最大の演習"オケアン70"において、
ソ連海軍は90秒以内に100発の対艦ミサイルを集中的に着弾させる飽和攻撃を実演してみせた。
これはアメリカ海軍にとって脅威として受け止められた。

つまり当時のミサイル艦の艦隊防空として同時対処能力2発というのは不十分に思われたので、
イージスシステムの開発が進行した。


あたごのVLS、このフタの中にミサイルが格納されており、発射時は垂直に飛び出る

3, イージスシステムの防空能力

イージスシステムは新型多機能レーダーAN/SPY-1を装備し、
フェイズド・アレイ・レーダーにより反応速度は大幅に短縮され、
それを中心に艦内の武器システムは全てコンピューターにより連結管制された為に即応能力も向上し、
新型長距離対空ミサイルSM-2は慣性航法装置を導入したことにより同時対処可能数も増大され、
それに伴いミサイルランチャーも2連装式から垂直発射機構VLSを装備することによりに同時発射可能数も増え・・・。

わかりやすくいうと、それまでのミサイル艦に比べ、
空中目標追跡数は同時に200以上同時対処能力は12~16発
また従来艦だと武器管制は全て人がやっていたが、
コンピューターによる自動管制により最善の攻撃法を選択し実施することで、
それまでの伝達や判断に依るタイムラグを大幅に短縮し即応能力が向上し、
ミサイルは2連装ランチャーだと2発ずつしか撃てなかったものが、(それ以上誘導できないので必要がなかった)
VLSのセル数分だけ同時に発射できるようになったので従来よりも同時発射可能数が大幅に増えたという感じである。

ギリシャ神話のイージスの盾からとられた名称どおり、
従来のミサイル艦に比べ艦隊防空能力が大幅に向上した。


4, 最新型のイージス艦では

イージス艦の同時対処能力は12~16発という記述で、従来よりは多いと言っても、
想像してたよりも少ないという印象を抱く人もいると思う。

ここの仕組みについて解説しておくと、
従来式のSM-1ミサイルだと誘導から命中までイルミネーターがずっと目標を照射し続けなければいけなかったため、
同時対処可能数はイルミネーターの艦搭載数、つまりほぼ2基という形になっていた。

イージス艦に搭載されるSM-2ミサイルは、慣性誘導といってイルミネーターではなくAN/SPY-1レーダーがおおまかに目標の位置を指示する。
それに従いSM-2は飛翔して目標に接近し、命中する直前の数秒間だけイルミネーターが直接誘導を行う。
このおかげでたくさん同時に撃てるようになったわけだが、
命中する瞬間だけは従来と変わらずイルミネーターごとにミサイル1発ずつしか誘導できないため、
イルミネーター搭載数以上の同時弾着は今までと同じく無理ということになる。

しかしイージスシステムは高度のコンピューター処理により脅威度を判断し順位をつけ、慣性誘導中のSM-2に対して、
高脅威のものから優先して命中させ、数秒ずつずらして次の目標へイルミネーターを照射するために、
この仕組みにより結果的に同時対処能力が向上しているのだ。


そして長距離対空ミサイル・スタンダードシリーズの最新版SM-6 では、
今までのSM-2のセミ・アクティブ誘導方式と違い、完全なアクティブ誘導方式となり、
レーダーの慣性誘導により目標に接近した後は、SM-6自身の(シーカーという)により直接目標を捕捉し命中まで追尾する。

つまり艦搭載のイルミネーターによる照射が不要となるので、これにより飛躍的に同時対処可能数は増大すると思われる。
その気になればSM-6搭載数=同時対処可能数となり、100発搭載していれば100発同時に迎撃できるようになるだろう。
日本も2020年に就役予定のまや型ミサイル護衛艦にはSM-6を搭載予定である。




5, ミサイル防衛

日本のイージス艦の任務は艦隊防空だけではない。
弾道弾の迎撃任務、通称ミサイル防衛(MD) も担っている。
核ミサイルなどに対してMD用ミサイルであるSM-3を発射して迎撃を行うが、
命中精度は依然低いとされる。

これに関しては気が向いたら別記事にて。


6, まとめ

従来のミサイル艦は同時対処可能2発、イージス艦は12~16発。
最新型ミサイルSM-6が搭載されればよりたくさん同時対処可能になる。

スタンダードミサイルの種類:
SM-1 従来式ミサイル艦用の長距離対空ミサイル、セミアクティブ誘導方式。
SM-2 イージス艦用の長距離対空ミサイル、慣性誘導方式がついたセミアクティブ誘導方式。
SM-3 弾道弾迎撃用の大型対空ミサイル、宇宙まで飛ぶ。
SM-6 SM-2の発展型、アクティブ誘導方式によりイルミネーター不要となった上に、省略したが多彩な機能がある。


現在のアメリカ海軍の駆逐艦と巡洋艦は全てイージス艦であり、
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦22隻
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦65隻 (76番艦まで就役予定)
ズムウォルト級ミサイル駆逐艦1隻 (3番艦まで就役予定、正確に言えばイージスシステムの発展型を搭載)
現在88隻のイージス艦が就役している。

海上自衛隊はイージス艦の保有数はアメリカに次いで2位であり、
こんごう型ミサイル護衛艦4隻 (こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい)
あたご型ミサイル護衛艦2隻 (あたご、あしがら)
まや型ミサイル護衛艦 (2隻、2020年以降に就役予定)
現在6隻のイージス艦が就役中、将来的には8隻体制となる。


ちなみに気になるお値段は、こんごう型が約1500億円、まや型は約1800億円。
イージス艦ではないあきづき型護衛艦が約750億円なことを考えると、
イージス艦は一般的な護衛艦よりも2倍以上のお値段になる。

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いずも空母改修、そのメリットについて解説

2018-11-29 04:13:02 | 軍事ネタ

「いずも」空母化やF35B導入、防衛大綱に明記へ=関係者 - ロイター
https://jp.reuters.com/article/izumo-f35b-idJPKCN1NW0PL


今週世間を賑わせた2つの自衛隊ニュース。
いずも型護衛艦の空母改修F-35B戦闘機を100機追加検討 について。


いずも型護衛艦F-35B戦闘機
いずも型護衛艦とは2015年から就役している最新鋭ヘリ空母であり、1番艦「いずも」と2番艦「かが」が日本の防衛任務に就いている。
全長248メートル、最大幅38メートル、満載排水量26000トンは海自史上最大の護衛艦であり、
そのサイズと形状からして「いずれは戦闘機を運用するのではないか」 とはかねてより噂されていた。

前級のヘリ空母であるひゅうが型護衛艦「ひゅうが」と「いせ」が2009年に就役し、そして数年後にはこのいずも型2隻と、
短期間に4隻もの全通甲板式ヘリ空母を連続で就役させてきた流れがあるので、
ヘリ空母に国民の目を慣らさせておいてから、軽空母に改修する今の流れは予想できたし、
今回のいずも改修で軽空母の運用実績ができたら、次は始めから戦闘機搭載型空母を建造するのだろう。

防衛省がこんな回りくどいことをしたのにはもちろん理由がある。
専守防衛を掲げる日本は攻撃型兵器を持つことはできないとされているので、
空母は遠隔地に戦闘機の威力を投射する兵器なので攻撃型兵器とされ、
太平洋戦争を想起させる艦種でもあり、これまでにその採用は何度も見送られてきた。


そしてF-35戦闘機。
これはアメリカを始め多国間共同開発により生み出された最新鋭ステルス戦闘機で、
制空も敵地攻撃もあらゆる任務をこなせるマルチロールファイターであり、
老朽化している空自のF-4J戦闘機の後継として42機の導入は決定されていたが、
今回の報道によると最大100機もの追加配備を検討しているという。

まあ元々の42機という数が少なすぎたというのはあるが、
日本はF-35共同開発には参加していなかったため、
開発参加国よりも配備が後回しになる見通しだったことも関係していたのだろう。

検討なので確定かはわからないが、100機もの追加配備がされるとなると、
現在の主力戦闘機であるF-15Jの後継をも担うことになる。
F-15Jは初期型と、新型空対空ミサイルを使えるように近代化改修されたMSIP機というのがあり、
依然初期型の数が98機もあるので、100機だとほとんど数的にも合う。
F-15Jの初期型をいまさら近代化改修なんてせずにF-35で置き換える可能性が高い。

もちろん空自の都合だけではなく、F-35は艦載型もあるので、
いずもの空母改修とも連動しての検討だろう。




空母があると何ができるのか

ではさんざん空母だと騒がれているが、これがあると何がどうなるのか。
まあ戦闘機による制空、エアカバーを遠くに運ぶ機材なので、
中国と争っている尖閣諸島などの防衛を目的としているだろう。

日本は本土周辺の防衛戦が主眼なので空母は不要 という論調をよく見るが、
F-15J戦闘機が那覇基地から発進して尖閣諸島上空へ到達するには30分程度かかる上に、
激しく空戦機動をするとなると燃料残量的に前線での滞空時間はたったの10分そこらになる。
滞空時間については空中給油で補完することができても到達スピードについては解決できない。

またもし尖閣諸島に中国軍が上陸した場合、
もちろん自衛隊は奪還作戦を開始するわけだけど、
そのために水陸機動団という新設の専門部隊もあるのだけど、
占領された島への上陸作戦となると当然、航空機による対地攻撃支援が必須である。
しかしその爆撃任務も往復に時間がかかってはこれまた時間単位辺りの延べ攻撃回数が制限される。

つまり航空優勢をとるにも爆撃するにも発進基地が遠いと著しく効率が悪い。
上記2つの問題点は1982年フォークランド紛争 の戦訓でもある。


これが空母があると前線で発進できるので、攻撃の延べ回数も増大するし、
艦隊防空のエアカバーも、哨戒機を巡らせるにもあらゆる点で効率が良い。
さらにF-35は最新鋭のレーダーと電子装備により目が良いので、
哨戒任務の効率が上がれば前線海域での敵状況の捕捉精度も上がる。
まとめると空母はいろいろ使えて有用 ということである。

もちろん戦闘機の空母運用という新たな訓練や、そもそものコスト、
管轄や作戦統合はどうするのかとか、諸問題もあるけど。


くわえて、海自は2週間前の報道では無人攻撃機アベンジャー の導入を検討するという報道があり、
これがあればパイロットの危険や負担なくミサイルを運べる。
また空自は昨年、無人偵察機RQ-4グローバルホーク を3機導入決定した。
どうも最近の自衛隊は空母や無人機といった飛び道具を重視しているように見える。
その反面、陸自にはイージスアショア というミサイル防衛システムの導入を決定したし、
海自にはイージス艦を2隻追加配備することも決定している。
昨年と今年で新しい武装として矛と盾をバランス良く揃えている印象。


それはやはり勢力を増す中国軍に対抗するための陣容だろう。
ここ1,2年で急激に自衛隊周りが活性化しているような気がするので今後も楽しみ。

個人的に気になるのは、現在のヘリコプター搭載護衛艦 の艦種記号はDDH なわけだけど、
戦闘機搭載護衛艦 となった場合の艦種記号がどうなるのか気になる。
アメリカ空母にならえば翼を象形したVがつくのでDDV か・・・?

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戦車の主砲がミサイル化しない理由

2018-05-09 16:58:37 | 軍事ネタ

女子力アップを応援する当ブログ。
誰もが一度は女子高生ぐらいのときに

「戦車ってなんでミサイルにしーひんの?大砲より便利やん」

って考えたことがあると思います。
そんな思春期の女学生にありがちな疑問に答えるこのコーナー、
今日のテーマは戦車の主砲がミサイル化しない理由について。




第二次世界大戦が終結しミサイルという誘導兵器が実用化されると、
航空機や艦船の主兵装は従来の銃砲からミサイルへと置き換えられた。
では同様に戦車の主兵装もミサイルとなるのか?
MBT-70、M551シェリダン、メルカバ、T-64、T-80・・・各国でそんな動きはあった。

まずそのメリットから考えると、ミサイル化のメリットとは、

射程の延伸
命中精度の向上
発射土台が貧弱でも射てる


という点が挙げられる。
しかし実はデメリットも多い。
砲に比べた場合のデメリットは、

速射性が低下する
信頼性が低下する
攻撃力が低下する
コストが高くなる
かさばる
対歩兵制圧能力が低下する


といったところになる。

そしてここからが重要だが、戦車という陸戦兵器の性質上、
実は上に挙げたメリットがメリットとして機能する場面が限定的だったりする。
そういったところを以下に書いてみる。




まず第一のメリットであった射程の延伸だが、戦車砲の一般的な射程はおよそ2kmから3km程度。
これがミサイルになると5km以上も有効射程となるだろうが、
航空機などと違って戦車は地を這う兵器である。
つまり視線が低い、3km以上先を見渡すことがほぼないというところ。

特に主砲とミサイルを両方撃てる戦車砲システムのことをガンランチャーというが、
ガンランチャーを開発していた冷戦時は、西側戦車が東側戦車と戦うとしたら、
ベトナム戦争かヨーロッパ戦線が主だと考えられていたのだ。
ベトナムのジャングルやヨーロッパの都市で戦車が数km先を見渡すことはほぼないので、
つまり戦車を長射程化してもそのメリットを活かせる機会が極稀だったということだ。

さらに第二のメリットとして挙げた命中精度の向上だが、これも目標が停止しているか遮蔽物が何もない場合の話である。
対戦車ミサイルは戦車砲よりも初速が遅い、一般的な現代式徹甲弾(APFSDS) が初速1500mなのに比べ、対戦車ミサイルはその5分の1である。
つまり例えば2km先の目標物に対戦車ミサイルを当てようと思えば7秒かかる計算となり、
目標戦車が走行している場合、ゆうに森や壁などの遮蔽物に入り込まれる可能性が高い。
つまり戦車砲と違って弾速が遅いために、遠距離になればなるほど障害物に阻まれるということだ。
本来遠距離戦が得意なミサイルの利点と矛盾してることになる。

ちなみに対空ミサイルなどと違って対戦車ミサイルの飛翔速度が遅い理由は、
戦車という重装甲目標を破壊するための大きな炸薬量を要求されながら、
砲口から射てる小型かつ軽量サイズにしなければならない制限があるため。


デメリットで挙げた速射性の低下もここに関係している。
戦車の搭載する対戦車ミサイルはセミアクティブ誘導かレーザー誘導、
つまりミサイルを発射したら命中するまで母体が目標を誘導し続けなければならない
飛翔速度の遅いミサイルが目標に届くまで自分は動けないし次弾を連射することもできないのだ。
これは総合的な火力、ゲーム的な言い方をするとDPSを低下させるし、また自らをも危険に晒す。


最後のメリットで挙げた発射母体が貧弱でも射てることは戦車自体のメリットではない。
強力な戦車砲を発射するにはその反動と衝撃に耐えられる重く頑丈で安定した土台がいる。
ミサイルは発射時にそのような反動は発生しないので軽い土台からでも射てる。

なので例えば人間が担いで発射するとか、軽装甲車に搭載するという用途では対戦車ミサイルは有意義だが、
戦車砲を発射できる土台を備える戦車は、戦車砲のままでいいということになる。
戦車砲の方が速い、連射できる、安い、汎用性がある、後に述べるが実は攻撃力も高いというところなので。
戦車砲ほどの強力な火砲を装備できない貧弱な土台にとって便利なのがミサイルということなのだ。




そしてデメリットの話で攻撃力の低下についてだが、まず戦車砲の徹甲弾は単純に運動エネルギー弾であり、
超硬くて重い質量の尖った砲弾を高速で敵戦車にぶつけるというすごく単純な作用で攻撃するものである。
対してそこまでの速度や質量をぶつけられないミサイルは化学エネルギー弾である。
モンロー/ノイマン効果という化学反応を用いて、炸薬によって生じる衝撃波や高温ジェットを特定の方向に集中させて装甲を貫通させる。
これを成形炸薬(HEAT) と言い、ほとんどの対戦車ミサイルはこのHEAT弾である。
HEATは戦車砲と違って速度や距離にかかわらず常に一定の攻撃力が作用するというメリットがあるが、
対策されやすいというデメリットもはらんでいる。

たとえば空間装甲、これは言うなればまずハリボテの装甲に当てさせそこで高温ジェットを消費させ本体には届かせないという仕組みのもの。
また軽装甲車であっても上の画像のように金網を車体に張り巡らせ、
歩兵からのHEAT弾をまず金網で受けて擬似空間装甲とするトリカゴ装甲もある。
次に爆発反応装甲、これは装甲の表面に軽爆薬を仕込むことにより、
HEATが着弾したときに起爆することで高温ジェットを吹き飛ばす方法。
そしてアクティブ防護システム、ミサイルの接近を感知すると散弾を発射してミサイルを爆破する。

このように純粋な運動エネルギー威力でぶちぬく戦車砲よりも対策が色々あるのがミサイルとHEATなので、
戦車砲をミサイルに置き換えると攻撃力が低下する結果となる。(HEAT弾もタンデム弾頭にするなど対策をとってはいるが)


そしてミサイル化のその他デメリットが信頼性の低下だが、やはりミサイル弾体や誘導装置は精密機器なので色々気を使う。
兵器というのは可能な限り単純な構造物の方がいざというときでも作動する信頼性は高い。
コストが高くなることも同様、ミサイルより砲弾の方が安く、特に戦車は継続的に火力支援する場面も多いのでなおさらだ。
誘導装置やミサイルの装填装置、ミサイル弾体は戦車砲システムよりもかさばることもデメリットだ。

また戦車の役割は対戦車戦闘だけではない、対歩兵制圧能力も重要だ。
建物や陣地や歩兵の集団を吹き飛ばしたりだね。
これに関してはミサイルのHEAT弾よりも戦車砲の榴弾の方が圧倒的に分がある。


以上のように、航空機や艦船と違って、ミサイルの持つメリットが、
陸戦兵器である戦車にはさほどメリットではなく、
それ以上にデメリットも目立つので戦車砲のままというところだね。

しかし例外はある。
上記の話は一般的にアメリカやヨーロッパ、または日本などの西側陣営諸国の戦車で述べたが、
まず広大な砂漠を主戦場にするイスラエル戦車だったり、同様に広大な国土の防衛を主眼とするロシア戦車だったり、
そもそも一線級の戦車と違って戦車砲の命中精度がそこまで良くないインド戦車だったりは、
例外的にガンランチャーを搭載し続けてたりもする。

なので一般的ではないがミサイル化のメリットが活かせる環境で戦うことを想定している戦車もある、
ということだね。

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クマは戦場に行った。ヴォイテク伍長について

2018-04-23 23:51:14 | 軍事ネタ

各国の軍隊で働くのは人間だけではない。
ときには動物も軍事行動に従事する。
馬やラクダ、犬などが軍隊で重用されることは珍しくないが、
今日はポーランド軍と行動を共にしたヒグマについて。




第二次世界大戦当時ドイツ軍によって国土を占領されたポーランド政府は、イギリスに亡命し連合軍に参加して抵抗を続けていた。
イギリスの支配地域であった中東に派遣されたポーランド軍部隊は、イランのハマダンにてあるシリアヒグマを拾う。

1歳にも満たないヒグマは猟師によって母親を亡くし行き場を失っていた。
祖国を追われた自分たちと通じるものを感じたのか、
兵士たちはヒグマにエサやミルクを与えてささやかな癒やしとした。
ヒグマはヴォイテク(Wojtek) と名付けられた。




それからヴォイテクはポーランド兵士と共に各地を行動した。
兵士たちとともに憩い、食事をし、同じテントで眠り、歩哨に立ち、敬礼も覚え、
ときには兵士たちとレスリングやボクシングに興じたりもしていた。
ヴォイテクが兵士たちに怪我を負わせたことはなく、
ときには負けてあげる素振りすらあったという。

酒や煙草が好きなところは軍人らしい一面に見えた。
周囲の兵士を見て覚えたせいか、火のついた煙草でないと欲しがらなかった。
幼いときを兵隊の中で過ごしたヴォイテクは、自らを人間だと思っているように感じられたという。
兵士たちもそんなヴォイテクを愛し、彼らの間には絆が芽生えていた。


 

連合軍によるイタリア上陸作戦が開始されると、ポーランド軍部隊もこれに参加することになった。
輸送船で動物を輸送することは禁じられていたため、
ポーランド軍司令部はヴォイテクを正式に伍長として任命し、
ポーランド人と同じ扱いの兵士としてイタリア戦線へと配属した。

有名なモンテ・カッシーノの戦いに於いて兵士たちが物資や弾薬の運搬をしていると、
ヴォイテクは「ぼくもそれ手伝うよ!」といわんばかりに作業をマネし始めた。
それから重い弾薬箱や砲弾などの運搬はヴォイテクの仕事となった。

大人の体格に育ったヴォイテクは人力では難しい重い荷物も軽々運ぶことができた。
45kg分もの弾薬箱や一発10kgの砲弾を何度も往復してトラックから運び出し、
イタリアの足場が不安定な山岳地帯においても落としたことはないという。

ヴォイテクは最前線の爆音や銃声にも怯まずに、
弾薬補給中隊の一員として立派に職務を遂行していた。
こうして彼らは名実ともに戦友となった。


 

ポーランド兵たちはヴォイテクの働きを誇りとし、弾薬を運ぶヴォイテクを紋章にデザインし、
兵士たちは連合軍兵士に自慢するようにあらゆるものにその紋章をつけるようになった。
イタリア戦線を共に戦ったイギリス軍ですら「クマの勇者がいる」とヴォイテクを認めていた。


 

ヴォイテクにとって軍隊と戦争は育った環境そのものだった。
やがて戦争が終結すると、ポーランドはソ連の傀儡である共産主義政権となり、
西側諸国に出兵したポーランド人は本土への帰還を認められず、
ヴォイテクもその対象とされた。

多くのポーランド兵とともにヴォイテクはその後をイギリスで過ごした。
動員解除の後、スコットランドのエディンバラ動物園に入ることになったが、
そこでは酒を飲んだり煙草を吸ったりする自由もなく、
ずっと兵士たちと共に生きてきたヴォイテクにとって馴染むことは難しかった。

動物園に入園してからもヴォイテクはポーランド語にしか反応せず、
たまに元ポーランド兵が訪れて呼びかけると手を振って応え、
元ポーランド兵たちもオリに入ってレスリングをしたり、
ドキュメンタリー番組に出演したりして過ごしたという。
1963年に21歳で死去した。


ヴォイテクはポーランドやスコットランド、モンテ・カッシーノに銅像を残し、
また第二次世界大戦RTSのHearts of Iron4 の実績となったりしてその逸話が今も語り継がれている。

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