自衛隊の巡航ミサイル保有、JASSM-ERについて

2017-12-10 21:08:23 | 軍事ネタ

Twitterやコメント欄で話題があったので、本日は軍事記事を更新。
航空自衛隊が採用を検討している巡航ミサイル、JASSM-ERについて。

当ブログでは7年前にも自衛隊での巡航ミサイル保有の必要性を書いていたが、
年月を経ていよいよそれが実現しそうなところにきてるのは感慨深い。 → 自衛隊の敵地攻撃能力の保有について
現在の日本にとっては最も安価で確実な防衛手段のひとつである。




1, 巡航ミサイル保有について

まず巡航ミサイルとは、艦船や航空機に搭載して敵地を攻撃するタイプのミサイルである。
専守防衛を唱える自衛隊では創設以来から、このような敵地攻撃用の兵器というのは禁じられてきた。
なので今までは北朝鮮のミサイル脅威に対しては、ミサイル防衛(MDとも)を重点的に整備することで対処してきた。
有名なのはイージス艦とかパトリオットとかそういうの。

しかしここで問題が提起される。
北朝鮮のミサイルを迎撃する為の兵器ばかり揃えていても、迎撃率は100%なのか?
つまりいくらMDに力を入れても、例えば10発の核ミサイルを撃たれひとつでも迎撃仕損じれば甚大な被害を被る。
そして現状のMDの成功率は高いのか。
答えは否である。

これも弾道ミサイルとMDについての解説記事を過去に書いたので、 → 弾道ミサイルについてと、MDに関して
ここでは簡潔に説明すると、核兵器が搭載される弾道ミサイルは宇宙高度から落下してくるので、
その突入時の速度は最も高速なもので秒速8kmに達するものもある。
そのような超高速の物体を確実に迎撃する手段など、現代でもまだ存在しないのだ。


つまり北朝鮮のミサイル脅威に対して現状のまま、「撃たれてから対処する」のでは分の悪い賭けとなる。
それではどうするか。
「撃たれる前に排除する」のが一番だろう。

今までは例えば有事となっても、北朝鮮が撃ってくるまでこちらは対処手段がなく、
2発目3発目となっても撃たれるまで待たなければならないという武装状況だった。(アメリカ軍を除き)
それが巡航ミサイルを配備すれば、完全に撃つ態勢に入っていて位置も判明している敵ならば、
撃たれる前に潰すことが可能となるので、撃たれてから対処するよりもよほど安全な策となる。
これを軍事では敵策源地攻撃とも呼ぶ。

アメリカのように敵基地本格空爆の為に空母打撃艦隊を整備する必要もなく、
単に一発1億円ちょいの巡航ミサイルを保有するだけでリスクは大幅に低減される。
弾道ミサイル一発でも着弾した時の被害を考えると、巡航ミサイルは最も安価な防衛兵器のひとつなのである。


2, なぜJASSM-ERなのか

ここで疑問に思うのが、何故トマホークではなくJASSM-ERなのか?
JASSM-ERは艦載型のトマホークと違い、航空機搭載型巡航ミサイルなのである。
F-15EやB-1Bなどの爆撃機に搭載され運用される。
そして現状、航空自衛隊はJASSM-ERを搭載できる戦闘機を保有していない。

自衛隊はイージス艦も保有してることを考えれば、アメリカ軍のようにイージス艦へのトマホーク搭載が普通であり、
俺自身も過去記事において全て艦載前提に巡航ミサイル保有論を書いてきた。

なぜ航空機搭載型なのか、空自は現状の機体を改修するか、
調達が決定している新型戦闘機のF-35でしか運用できないのに。
理由をいくらか考えついたので考察してみる。


A, ステルス性と射程の問題

巡航ミサイルの弱点は、巡航速度が遅いことであり、基本的には亜音速域での飛行となる。
その為に巡航ミサイルは一度敵に捕捉されてしまえば、高射砲でも対空ミサイルでも簡単に撃墜されてしまう。
それへの対策として、トマホークなどは敵に捕捉されない飛行ルートを設定したりするわけだが、
最新型のJASSM-ERはステルス性能が従来のものよりも大幅に向上しており、捕捉されにくいとしている。
なので今後の現代戦にも対応できるだろうということ。

もうひとつは射程である。
従来では航空機搭載型の巡航ミサイルはそのサイズの制限から射程が短く、
艦載型のトマホークが半径2000km以上を射程に収めるのに対し、
従来のJASSMは半径400km程度の射程しか有していなかった。

それが最新型のJASSM-ERになると半径1000km程度にまで射程が延伸されたので、
日本の運用目的なら射程の問題はほぼ解決され、ステルス性も向上し撃墜されにくいという、
ミサイル自体の性能からトマホークよりもJASSM-ERを選択したという見方。


B, ペイロードと運用幅の問題

もうひとつ推測される理由は、おそらくペイロードである。
ペイロードとは武装搭載量のことで、艦載式トマホークの場合、イージス艦に搭載されることになるが、
日本は近い将来を入れても8隻のイージス艦しか保有しておらず、しかも1個護衛隊群につき2隻ずつの運用となるので、
敵の弾道ミサイルや航空機迎撃のための対空ミサイルを積んでいる上に、攻撃用トマホークも搭載となれば、
搭載量の問題から肝心の対空防御の持続力が低下する問題。
VLS(発射管)のセル数は限られているのだ。

なので数少ないイージス艦にMDも対空も敵地攻撃もとあらゆる負担を押し付けないように、
艦載型トマホークではなく航空機搭載型のJASSM-ERを採用したというのも理由として考えられる。
任務負担の分散だね。

もうひとつは運用幅、まあひいては機動性の問題。
最優先任務としてMDに最適な位置に配置されているべきイージス艦は、
攻撃任務時に最適な位置にいない可能性も高い。
なので航空機運用にした方が攻撃位置の選定や、またその配置につくまでの機動力もあるので運用幅も広がり、
上述した各利点も相まってトマホークではなくJASSM-ERの採用を検討していると言えるのではないか。


以上、今回の自衛隊の巡航ミサイル保有論の考察である。
いずれにしても専守防衛の自衛隊に初めて敵地攻撃能力を持たせることが現実的に捉えられていることは、
時代の変遷を感じる。
全通甲板式の空母型護衛艦の配備も今や普通となり、次に敵地攻撃ミサイルとなれば、
今後もあらゆる武装の解禁が検討されることになるかもしれない。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-12-12 00:01:44
安保法制とかはマスコミ先導のネガキャンが凄いけど、実質ヘリ空母の調達の時は「護衛艦」の一言で通るから面白いよね。
海自は旧海軍の艦名や旭日旗を伝統的に使ってるけどそういうのには左の人はあまり関心が無いのかな。

次はいよいよ島嶼防衛を大義名分に、強襲揚陸型護衛艦「やまと」が配備される番かなw水陸機動団はその布石だと思いたい。

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