ウクライナ騒乱について

2014-04-16 17:45:23 | 軍事ネタ

皆様ご存知の通り、2ヶ月前より、ウクライナで騒乱が起きてる。
推移を眺めてきたが、沈静化するどころか、
今月に入ってから新しい局面を迎えてますます激化する様相を見せた。

昨年にウクライナのヤヌコヴィッチ大統領が、かねてより交渉が進んでいたEUとの連合協定の締結を見送り、
それに対して親欧米派の野党や市民が反発、今年2月に抗議デモを起こしたというのが件の始まり。
これは政府による弾圧も虚しく暴動に発展し、とうとうヤヌコヴィッチ氏は国外に逃亡せざるを得なくなった。
ヤヌコヴィッチ氏は親露派とされていた。

そのデモ集会はソチ・オリンピック開催中の出来事であり、
ロシアがオリンピックをしている隙に親露政権が暴動に倒され、
親欧米派の暫定政権が成立したというのは、
欧米の支援があったものと見ることができる。


余談だがロシアは2008年の北京・オリンピックの最中にも、
プーチン大統領が開会式に出席している隙を狙ってグルジアに奇襲攻撃を仕掛けられ、
グルジア戦争(南オセチア紛争)が勃発したのであるが、
オリンピックの度によく事件が起こる国なのだと感じる。




さてウクライナといえば、1991年のソ連崩壊によって独立した諸国のひとつで、
NATO加盟国とロシアに挟まれた位置にあることから、戦略的に極めて重要な地域であり、
冷戦終結後もNATOとロシアの間で度々論争されてきた国である。

数年前よりウクライナのEU接近、そして加盟の可能性が取りざたされており、
これがとりわけロシアにとって問題とされていた。


数年前に振り返れば、2007年にアメリカがポーランドとチェコにMD(ミサイル防衛)を配備する旨を発表。
するとロシアはそれに対して猛抗議した。
MDは戦略弾道ミサイルを撃ち落とす為のものであるので、
ロシアの目と鼻の先にそんなものを配備されては、
ロシアの戦略弾道ミサイルが封じられてしまう。

ロシアの戦略的な攻撃力を大きく減じることに成功するので、
極端な話、アメリカがロシアと戦争した場合にとても有利な要因となるのだ。
当時、当ブログでも書いたね、懐かしい。 → 緊張の欧州


もしこのMDがウクライナに配備されたら?
そしてモスクワやコーカサスにほど近いウクライナにNATO軍が配備されたら?
もはやポーランドとかチェコどころではなく、喉元にナイフである。

つまりロシアとしてはウクライナのEU接近を止めたい、
逆にNATO側はウクライナをEUに寄せることができれば大きなアドバンテージとなる。
このように今回の騒乱というのはつまるところ、西側と東側による地勢的優位の奪い合いだ。
これをもって新冷戦という人がいるのも納得するところである。


今回の騒乱と暫定政権の発足に対して、ウクライナ内のクリミア自治共和国は反発していた。
クリミア半島にあるセヴァストポリ軍港はソ連時代から、現在ではロシア海軍の黒海艦隊の母港であり、
ロシアにとって極めて重要な軍港であるので、ソ連崩壊後もウクライナより租借されていた。
なのでクリミアとロシアの関わりは深く、また住民も半数以上がロシア人であり、
ウクライナ内で最も親露的な地域であったので、クリミアは親欧米派の暫定政権を認めなかったのだ。

そして2月末よりクリミア内では謎の武装集団とやらが目撃されるようになる。
この統率された武装集団は空港や警察署、議会などを占拠し暫定政権による弾圧を阻止した。
当初ロシアは関与を否定したが、つまるところこの謎の武装集団とやらはロシア軍そのものであった。
クリミア全土がロシア軍に掌握され、住民投票が決行、その結果を以て、3月18日にクリミアはロシアに編入された。
最も重要な地域は確実に押さえたといったところだろう。


そして冒頭で今月に入りますます激化している と書いた通り、この情勢はまだ終わっていない。
ウクライナには国土を東西に分けるドニエプル川がある。
この川よりも西側か東側かで親露感情がだいぶ違うらしいのだが、東側は住民のロシア人比率も高く親露的であるのだ。
その東側に於いて数日前より、暫定政権に反発する抗議団体が警察署や空港を占拠しており、
そして親露感情が高い地域であるので、警察署員も彼らを取り締まらず署を明け渡したりしている。
彼らはAK-74などで武装し、その武器はロシアからの支援と見る向きもある。

またこの抗議団体が厄介なのは、ウクライナの前政権の警察特殊部隊ベルクートなどが混じっているようで、
もしかしたらロシア兵も紛れ込んでいる可能性もあり、いずれにせよ素人が銃を持っただけの団体ではなさそうな点である。
これに対しウクライナ暫定政権は、とうとう昨日から対テロ作戦と称して東部に対する弾圧作戦を開始、
この武装化抗議団体と各地で戦闘を展開している模様である。

もはやウクライナ軍もほとんどがロシアに寝返るかストライキを起こしており、
暫定政権の命令をほとんど聞かない状態であるのに。
感情的に考えれば当然だろう、誰がロシア軍相手に勝算の低い戦いをしたがるのか。
それでも暫定政権は極右団体を取り込み、国家親衛隊として組織し暫定的な戦闘部隊としている。
やっていることは末期的であるが、実行力が伴わなければ安定化もできないので仕方ない。


ただこれは危険な動きである。
当初ロシアはクリミアのみを編入するだけに留まり、ウクライナ本土にまでは軍を派遣しないと見られていた。
しかし先月のクリミアでの動きと同じく、弾圧からのロシア系住民保護を名目に部隊を派遣してきたら?
その大義名分を与えてしまうことになるかもしれない。

ロシア軍は現在、ウクライナとの国境に部隊を集結中であり、戦争準備ができている。
もしもこのロシア軍がウクライナに侵入した場合、NATOはどう出るのか?
静観すれば威信は地に落ち、ウクライナはロシアに編入されるか分割されるし、
もし軍事的介入を行えばロシア軍との直接対決となってしまう。
第三次世界大戦を引き起こす可能性も出てくるし、そこまで行かなくても経済的打撃は必至であり、
EU諸国がどこまで腹をくくれるかということになってくるだろう。

ロシアはウクライナの東部弾圧に軍事介入するのか?
それはまだわからないが、もし決行した場合はEU諸国とのチキンレースとなる。
そしてロシアはそのチキンレースに勝つぐらいには腹をくくっているように見える。
軍部隊の集結具合から見ても。
第一EU諸国に比べたら経済的に失うものも小さいので、ハードルが低いと見ざるをえない。


暫定政権は親欧米派とはいえ、クーデターまがいの方法で政権を奪取した。
なので感情的にロシアに肩を持つ人がいるのもわかるけど・・・
冷静に日本の国益からこの情勢を見つめれば、ロシアの勝利は喜ばしくない。

何故なら、ウクライナという地域の争奪戦に於いて強引に軍を進めるロシアに対して、
アメリカはどう出るか、中国は必ずその動向を観察しているだろう。
これでもしウクライナが混乱のままにロシアの独り勝ち状態となってしまったら、
尖閣諸島や台湾にも強引に中国軍を進める選択肢が出てくるかもしれない。
どうせアメリカは口だけで何もしないだろうという先例を作ってしまう。
アメリカ軍という抑止力が地に落ちてしまう可能性があるのだ。
それは日本にとって、防衛上大変よろしくない。

もちろんウクライナと日本は立場が違うので、一概に同じ対応を取るとも限らず、
またクリミア編入を受けて安部首相がアメリカ側に尖閣防衛義務の再確認を迫るなど、
アメリカも防衛義務を表明して中国に対して牽制はしているものの・・・。


日本としては、ウクライナはEU諸国と暫定政権が頑張ってロシアのものにならず、
けれど日露関係が接近しつつあるままに仲良くやっていけたらなというのが理想かな。
安倍ちゃんとプーチン、仲良いし。
ちなみにロシアと仲良くやってても北方領土はまずかえってこないと思います。
別記事で書くかもしれないけど、ロシア海軍の太平洋艦隊にとって北方領土の存在は重要すぎるので。
だからそれは期待しないままに交渉材料として使っていくとして、
それよりも中国を牽制する上で、アメリカからも色々引き出す上で、
ロシアと仲良くなることは日本にとって意味がある。


ウクライナ情勢は今後も注視していきたい。
このままだと内戦の一途に思える。

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