現代の航空戦でドッグファイトは起こりえるのか

2011-12-20 22:33:02 | 軍事ネタ



今日は現代の航空戦について。
巷のミリタリー好き同士による会話では、現代航空戦はハイテク機器による戦闘であり、
遠方からミサイルを先に放った方が勝ち、ドッグファイトなど起こりえない、という論調が目立つ。
しかしどうだろうね。

これと全く同じ認識を持っていたのがベトナム戦争前のアメリカ軍。
1950年代の当時は空対空ミサイルが実用化し始め、これにより空戦は遠距離からの誘導弾で勝敗が決し、
第二次世界大戦のように戦闘機同士が激しい空戦機動により絡みあうドッグファイトは発生しなくなると考えられていた。
この概念を軍事学ではミサイル万能論と呼ぶ。




ミサイル万能論に則り、戦闘機は超音速で飛行しミサイルを運搬し発射するだけの役割、
「ミサイル・キャリアー」としての存在が要求され、そのような設計思想でF-106やF-4といった戦闘機が開発された。
しかし蓋を開けてみれば、ベトナム戦争に於いてはミサイルの命中精度はさほど高くなく、
ミサイルを主武装として頼り切った米軍戦闘機はミサイルを撃ち尽くせば逃げるのみ、
対するベトナム空軍の運用するソ連製戦闘機MiG-21などは機関砲を主武装としドッグファイトで強力だった。

結局のところ、このベトナム戦争でミサイル万能論という概念、
ミサイル・キャリアーという設計思想は大きな間違いだったと認識され、
その戦訓からF-14,F-15,F-16,F/A-18といった今も活躍する格闘戦重視の戦闘機が開発されたのだ。
(F-14については主任務は長距離ミサイルによる艦隊防空というミサイル・キャリアーの役割として開発されたが、格闘戦能力もF-15に劣らないほど重視されている。)

そしてその戦訓は未だに尊重されており、最新戦闘機であるF-22はステルス性能が取り沙汰されるが、格闘戦能力も超一流の機体なのである。
F-22は現時点で圧倒的な性能と言われるが、ステルス性以外の運動性・機動性・搭載量などの基本性能も併せて世界最強と呼ばれているのだ。

つまるところ、よく見かける「現代空戦はハイテク機器の戦いなのでドッグファイトは起こりえない。」という考えは、
50年前のアメリカに蔓延していたミサイル万能論の再来でしかない。
世界最高の軍事技術レベルとハイテク機器を有する当のアメリカが、
未だに戦闘機に格闘戦能力を重視していることと矛盾する考え方だ。


実際、世界中の戦争を見れば現代の戦闘機によるドッグファイトは発生している。
第四次中東戦争、フォークランド紛争、イラン・イラク戦争などでは大規模な空戦が行われ、
その中でドッグファイトも頻発し、目視距離内での短距離ミサイルによる撃墜もあれば、機関砲による撃墜記録さえあるのだ。
特に1982年レバノン紛争に於けるベッカー高原航空戦などでは、第二次世界大戦以来最も大規模で苛烈な空中戦が演じられ、
この戦いを通して紛争中にイスラエル軍戦闘機はシリア軍機を85機以上撃墜し、その内の7%ほどが機関砲による撃墜と分析されている。
7%という比率はミサイルを搭載する現代戦闘機では決して少ないものではない。
こういった数々の戦争を分析した上で、各国軍は戦闘機にとって格闘戦能力は必要なものと認識している。


演習でF/A-18がF-22ラプターとドッグファイト、ガンキルした際のHUD画像

もちろん2011年の現在ではより命中精度が高く射程の長いミサイルが登場している。
アメリカ軍のAIM-120やロシア軍のR-77など、最新型の中距離ミサイルは射程が100kmに達し命中精度も高く、
これらの信頼性の高いミサイルが運用される現代ではドッグファイトの発生する確率は1980年代よりも下がったかもしれない。
しかしそれでも尚ゼロとは考えられておらず、最新戦闘機のほとんどは格闘戦能力も重視されているのだ。