yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

五木著「金沢さんぽ」は見えないところで変わらず生き続ける金沢のエッセイ集

2018年06月14日 | 斜読

book465 五木寛之の金沢さんぽ 五木寛之 講談社 2015 (斜読・日本の作家一覧)
 2018年5月に金沢を訪ねた。予習の本を探しているとき、五木寛之(1932-)著の金沢を舞台にした本を何冊かみつけた。その一冊、「風花の人」を持参し、新幹線で読み始めた。情景の描写はさすが五木氏と思ったが、内容が馴染みにくかったので読むのを止めた。金沢から戻って、復習になるかなと思い「金沢さんぽ」を読んだ。

 五木氏は1953年に始めて金沢に泊まり、その後結婚して金沢にしばらく住み、横浜に移り住んだあとも金沢を訪ねている。p6~まえがきに、・・金沢という街について・・たくさんの文章を書いてきた・・私が新人としてデビューしたのは金沢で暮らしていた時期・・金沢をもう一つの故郷のように感じる・・見えないところで変わらず生き続けるものもある・・ここにおさめられた文章は・・その時どきの私の本音を写している・・金沢という街の背後に隠された艶やかな気配を伝えたい・・と記すように、五木氏の人生観が短い文の中に込められている。

 エッセイの多くは金沢の街を背景にしていて、私も金沢訪問中に同じ場所も歩いたが、観光は滞在時間も限られ、見方も表層にとどまりがちになる。この本を通して、街の背後に隠された気配をうかがうことができた。まさに復習になった。

もう一つの故郷
 最初のエッセイ「わが金沢」で、・・p14 老婦人のみごとな平静さ・・に腹を立てながらも、・・p15そんな頑固さに惹かれた・・、その一方、・・p19過去の金沢の幻を追い求めて旅をするのは愚かなこと・・伝統は現在に生きてこそ意味をもつと金沢の美への鋭い感覚に気づき、・・p19 金沢に移住しようと決心したのは・・頑固な、もっと古い日本の街に住みたいと思った・・p20京都はやさしさの陰に冷たさがある・・金沢には表面的な冷たさの背後にやさしさがひそんでいる、と記している。文人のするどい感覚が金沢を第2の故郷と感じさせたようだ。
 以下、「古い街の新しい朝」「12月8日の夜の雪」「去年の雪いまいずこ」「内灘の風景」「1月は文学書の季節」「Jくんへの手紙 極楽とんぼのころ」のエッセイが続く。

 以下エッセイのタイトルを列挙する。
古い街、新しい風
 「金沢主計町の名なし坂」「暖冬や北前船の夢のあと」「時代はメリー・ゴーランド」「木菟軒ボクトケンまた旅日記」「梅雨明け列島旅だより」「2003年馳走の雑録」「金沢への旅録」「8月末の金沢」「古い街に吹く新しい風」
ふりむけば鏡花
 「風に吹かれて北陸路」「金沢で四方山ばなし」「北の都にともる灯」「サクラ咲いたか旅模様」「画家と作家の間には」「人間の運命と歎異抄」「養生と宗教の間には」「泉鏡花賞の季節に思う」
加賀百万石の面影
 「金沢は御堂を中心にして生まれた寺内町」「砂金洗いの沢から金沢に」「一向一揆は祭政一致だった」「隠されたこころが熱くなる歴史」「加賀百万石のイメージの下にある“もう一つの金沢”」「敷石を剥ぐと、そこに自由の海と輝く大地が」「内灘砂丘フェスのこと」「百寺巡礼の途上にて」
北陸ひとり旅
 「秋ふかし北陸路の休日」に続く「びっくり本線日本海」でも、・・p179金沢は品が良い、穏やかで落ち着いた雰囲気・・と県民性をあげながらも、金沢に惹かれる気持ちをうかがわせている。
 続いて、「ふりむけば日本海・・・」「夜行寝台列車で金沢へ」「富山土産は薬と鱒寿司」が並ぶ。

 「金沢さんぽ」から五木氏の独特の人生観に触れることができるし、随所の伝統に頑固でありながらも新しい美を採り入れようとする金沢人の気質がにじんでいる。私が訪ねたときは修学旅行シーズンで、加えて外国人観光客が列をなしていたから、有名観光地は観光客であふれていた。しかし、一本、道を外れると静かな金沢が佇んでいて、「金沢さんぽ」に描かれる金沢人の気質の片鱗を感じることができる。(2018.5)

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