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童門著「加賀前田家の処世術」は前田利家ほか当主、重鎮の教える10の処世術を解説

2018年06月08日 | 斜読

book464 加賀前田家の処世術 童門冬二 北国新聞社 2011
 2018年5月、金沢を歩く予定をたてた。金沢は代名詞のように加賀百万石といわれる。
 加賀百万石は前田利家(1539-1599)に始まる。前田利家は豊臣五大老の一人であり、数々の戦功を上げ秀吉の信頼も厚く、秀吉没後は徳川家康と対峙するが和解している。
 利家夫人まつ(1547-1617)もNHK大河ドラマででも取り上げられたほど・・私は見ていない・・文芸、武芸に通じ、秀吉夫人ねね=高台院とは昵懇で、利家没後、人質として江戸に暮らすなど波瀾万丈に生きた。
 利家・まつがいまの金沢の礎をいかに築いたか、秀吉、家康とどのように渡り合い、百万石を維持したかなどが知りたくて、加賀百万石で検索したら、この本がヒットした。

 童門氏の本は初めて読む。1927年生まれ、東京都庁で要職を歴任、退職後、作家活動を開始、上杉鷹山、銭屋五兵衛、前田利家などに関する著書がある。
 歴史好きが高じ、執筆活動に入ったのであろう。副題に「武士が教える、生きる知恵」とあり、始めにに代わる「知恵に勝る武器はなし」にも豊臣秀吉の先輩であり、徳川家康とも微妙な関係にあった前田家は常に進退が緊張し、家存続のために並々ならぬ苦労をした、その苦労は家臣を含め代々続いた、と記している。
 「北國文華」の連載から、以下の10の処世術をまとめたのがこの本である。
 
 当初の私の関心とはずれるが、当たらずとも遠からずと思い読み通した。
 やはり童門氏の狙いは、現代にも通じる生きる知恵、処世術に的を絞っているので、私の関心である金沢の礎、加賀百万石の功績、歴史的意義、力量、文化とは離れていたが、前田家が処世術に長けていたことが百万石の維持につながり、優れた文化を今に伝えたともいえる。
 加賀百万石の傍証にはなった。処世術として読めば、定年した人には今さらだが、現役ばりばりの人には大いに得ることがありそうだ。

 p9処世術その1 困っているものには手を差し伸べよ・・前田利家 では、前田利家の人柄、生き方、処世訓がていねいに描かれている。
 いきなりp9遺言は詳しい長文にから始まるが、それはp10部下を救うためであり、あらかじめp11トラブルの種を摘み取る、p13問題になる書類をチェックし改めさせておけば死後のもめ事を避けることができる、利家はそこまで見通していたそうだ。
 ほかに、p15利家が評価する部下の基準、p17戦国きっての算勘の達人、p18かぶく真の狙いは情報収集、p20忠義つくした積もりが「追放」、p23浪人時代の人間観察、p25藤吉郎のアドバイス、p27どっち選んでもつらい選択肢、などが紹介されている。p29の「世の中は 霰よの 笹の葉の上の さらさらさっと降るよの」は利家の人生観である。

 p33処世術その2 部下の性格を利用せよ・・前田利家では、利家が部下の実力を最大限に引き出すことに長けていたことを紹介している。p33平和向きと乱世向き、p35勝家と秀吉、どっちを取るか、p37怒らせるのがいちばんいい、p39大声で助言は、助言にあらず、p40旧主の悪口を散々に、p41主人を利用とした正重、p43部下に疑念を抱かせない、p44命令に背いて褒められる、p46情けのない奴は嫌いだ、p48親の意見だからこそ聞けない息子、p49監視されてはよい仕事はできぬ、が簡潔に述べられている。

その3 仕事が一級のものは気配りも一級・・前田利常
その4 絶対的な命令も人の道に反するな・・前田綱紀
その5 実行できる策は、討論から生まれる・・前田治脩
その6 ケチと倹約は違う・・前田利保
その7 戦士は戦場を求める・・中川光重
その8 きょうの敵は明日の味方にも・・奥村永福
その9 力を発揮できるチャンスを逃すな・・前田長種
その10 改革は顰蹙買ってもためらうな・・村井長生

 繰り返すが、生きる知恵、処世術を参考にしようと思う人にはお勧めだが、金沢を知りたい、加賀百万石の歴史をひもときたい人向けではない。
 また立場が変わればものの見方、判断基準が異なることがある。父が偉人であれば、父と苦難をともにした取り巻きからも息子に過重な期待がかかる。強大な敵の脅威が迫っているときと、平安で生産性を上げたいときには政策は異なる。
 結局は状況を的確に読み、部下を適材適所に活用することが基本であろう。(2018.5)

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