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つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

中津著「ラトビアの涙」を読んで、殺人事件の謎解きをしながら2009年に歩いたリガを思い出した

2018年06月19日 | 斜読

book467 ラトビアの霧 中津文彦 講談社文庫 1991  (斜読・日本の作家一覧)
 北欧を巡るツアーの予習で北欧をキーワードに本を検索したら、その一冊に「ラトビアの涙」があった。エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国は、バルト海を挟んでスウェーデンと向き合っている。エストニア、ラトビアはスウェーデンの支配を受けたこともあったから、ラトビアの本が北欧に分類されてもおかしくはない。

 2009年にバルト三国の首都、ヴィリニュス、リガ、タリンを夫婦二人で旅した。言葉の通じないドタバタな旅だったが、親切に歓迎してくれ、古都の風景を楽しむことができた・・まだ紀行文は書いていない・・。今回の北欧ツアーとは関係ないが、懐かしくなって読んだ。

 中津文彦氏(1941-2012)は1982年に江戸川乱歩賞を受賞、以後、執筆活動に専念し、1985年には角川小説賞も受賞している。松村喜雄氏の解説によれば、1988年、ソ連作家同盟の招きで小松左京氏、中津氏、松村氏ら7名がモスクワ、リガ、レニングラード=サンクトペテルブルクを訪ね、日ソ推理小説シンポジウムに出席していて、中津氏はシンポジウムやリガの体験をもとにこの本を構想したそうだ・・私たちは歩きが基本の観光だからリガでも旧市街しか見ていないが、中津氏は郊外や海岸まで足を延ばしている、推理小説家は好奇心旺盛で、恐れを知らない積極性がある・・。

序章 
1941年の旧満州の首都・新京=現在の長春の新京警察署分室が舞台として登場する。参事官・川端四郎と警察官・稲葉太が、スパイ容疑でラトビア共和国出身のイーゴリ・ベルコーワを尋問する場面から話が始まる。
 イーゴリには、満州鉄道に務める仲野美智代という恋人がいた。嫌疑は、美智代がイーゴリの指示で極秘文書を読み、その内容をイーゴリに漏らした、という濡れ衣だった。
 イーゴリはすさまじい拷問を受けるが、無実を主張する。美智代が呼び出され、美智代も無実を訴えるが、稲葉の鞭が美智代の両目に当たってしまう。このスパイ嫌疑には、美智代に横恋慕していた男がからんでいるが、序章では誰であるかはまだ伏せられている。

 舞台は変わって、1984年、神戸の相楽園の植え込みで、硫酸で両目を焼かれてショック死した稲葉太の死体が見つかる。神戸新報社会部の瀬尾浩一は取材を進めるが、行き詰まる。

夏空のリガ 
 1988年、文芸担当になった瀬尾は、神戸の姉妹都市であるリガとの交流使節団6名に同行してリガに滞在する。メンバーは、団長・池内、市議・長谷高、作家・湊、作家・二村、詩人・山本、翻訳家・相川である。

 p80~などにラトビア人に対する中津氏の好意的な印象、感想が描写されている・・私たちのリガ滞在はたった2日だが、やはり好感を持てた。ラトビア人はつらい歴史にもかかわらず、大らかであり、独立運動で見せたように強固な意志、行動力をももっている・・
 通訳はラトビア美人のナターリアで、瀬尾はナターリアに魅了される。この本の表紙の女性がナターリアのイメージのようだ。
 p119~交流使節団はソ連作家同盟ラトビア支部を親善訪問する。出席者はドミトリー・ウルマニス、アレクサンドル・プルカ、イワルス・ブランスキー、内務省勤務のゲオルギー・ツィルリス大佐である・・日本の松本清張、江戸川乱歩、森村誠一らの翻訳本が人気、なども紹介されるが事件とはずれるので省略・・。
 推理好きでなくても、序章の事件が交流使節団、ラトビア支部の誰か、あるいは何かと結びつくと予想するはずで、中津氏の伏線を行間から読み取ろうとするのではないだろうか。中津氏はさりげなく、イワルスが1984年に神戸、奈良、広島を旅したこと、レオニード、アレクサンドル、ナターリアも1984年に姉妹都市10周年記念で神戸にいたことを述べる。
 

消えた男 
 長谷高が集合時間になっても顔を現さない。やむを得ず、民族屋外博物館やバルト海での琥珀探しに出かける。中津氏によるリガ観光名所紹介である・・私たちは、残念ながら琥珀海岸には行けず、街中の琥珀店で目を楽しませた・・。

 ホテルに戻るが長谷高は消えたままだった。手がかりを探そうと長谷高の部屋に入る。そこで稲葉太と書かれたメモを見つける。瀬尾は、1984年の瀬尾の死と長谷高行方不明との関連が気になり、神戸新報に調査を頼む。
 p190~翌日、神戸新報から、かつて長谷高は豪農、稲葉が小作だったこと、さらに長谷高が満鉄に就職したこと、稲葉の葬儀に長谷高が顔を出したことが知らされる。ここまで読むと全体の構図があるていど読めるし、おぼろげながらイーゴリー、美智代が浮かび上がり、ナターリアの存在も予測できそうだ。

琥珀色の涙 
 p222~にドムスキー大聖堂のオルガン演奏が紹介される・・自由旅行だった私たちはドムスキー大聖堂を見学した記憶があるが、7000本パイプによるオルガン演奏のことはまったく知らなかった、リガを旅する予定があれば、この本を読み、琥珀探しとオルガン演奏を楽しんではどうだろうか・・。

 この章で、事件が解明され、琥珀色の涙が流れる。あとは読んでのお楽しみに。

終章

 中津氏は、殺人事件の推理に、満州国、バルト三国独立などの世界史も盛り込み、さりげなく風光明媚で人柄もよく美人の多いラトビアも紹介している。事件解明を推理しながら、リガの旅を思い出すことができた。(2018.6)  

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