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次世代テレビ放送はどうなるか? (2)アナログテレビもネットーク化されていた

2011-07-28 | Weblog
ネットワークという言葉はよく聞く言葉だ。そしてデジタル化ではそのネットワーク化が重要な意味を持つ。ところが、そのネットワーク化の意味を曖昧に使っているので、話が見えにくくなることがある。デジタルテレビ放送でも「ネットワーク」が重要だが、何のネットワークかを定義して議論しないと話が混線してくる。

実は、アナログのテレビ放送サービスでも、ネットワーク化は行われていたし、それはビジネス上も重要なファクターであった。それは、何かというと「キー局と地方局のネットワーク化」である。

地上波を利用するテレビ放送は、電波によって放送番組(コンテンツ)が各家庭に配信されるが、その送信アンテナの送信範囲はUHFでもVHFでも限られてくる。したがって、必然的に放送局毎に視聴エリアが限定されてくる。東京でいえは、東京タワーからの電波の届く範囲がそれにあたる。同様に大阪、名古屋、などの都市圏では周辺の県を跨った範囲で、さらに地方に行くと県域に合わせて放送エリアが決められ、そこに放送用のアンテナと放送局が作られていった。

各地方の局はその放送エリアで独自の放送をすればよいのだが、実際にはキー局の番組を入手し、再送信することが仕事の大半であり、独自の番組を制作し放送するのは地方のニュースなど一部の番組に限られてきた。実は、この構造が民間放送をビジネス的にも支えてきたし、結果、国民の生活の中で無くてはならないサービスとして定着したテレビ放送モデルだ。まさに、中央で制作・編成された番組が全国津々浦々で同時に見ることができる強力なメディアプラットフォームそのものだ。逆の言い方をすれば、中央から強制的に全国に番組を送りつけることができるということだ。

これを実現するために、キー局は自局の番組の全国放送のネットワークを構築してきた。公共放送であるNHKはいつの世にもテレビの普及の先頭に立つ任を受け、先行して日本中でテレビを見ることができる環境を整備していった。それに続いて民放キー局も順次地方局を整備し系列に収めていった。

ブロードバンドが未整備の時代、テレビ放送を全国レベルで瞬時に行うためには、無線によるマイクロ波のネットワークが放送局間のネットワークを可能にし、独占状態を作り上げることができた。今では、この基盤も光ファイバーによる有線通信に切り替わっているのも時代の流れである。

実は、技術的に全国統一放送がやり易い衛星放送が誕生した時、本来であれば地上波によるネットワークと衛星放送によるテレビ放送は一度競争をやらなければならなかった。しかし、無用な競争を避けるために、BSは天候によって不都合が生じることが多いとか理屈をつけ、公共放送の全国版に使うのは不適当と位置づけた。また、地上波キー局は自らBS局を持つことにより、自らを守るために正面衝突を避けた。結局。これは問題の先送りでしかなかったと思う。

現在の民間放送の5大ネットワークの現状は以下の通りだ。



東京に住んでいると、いつも見ている番組は日本中何処に行っても見ることができる思いがちである。テレビ東京系列は都市圏に限られるし、他の系列でも実際には系列局のない県もいくつか残っている。地方によっては東京の番組を見れないということだ。テレビがまだ花形だった頃は、新局が出来ることがカロリーアップといって、多少視聴率の取り合いはあっても、全体視聴の伸びが見込まれた。経済的に右肩上がりの時代は、全国の系列が整備されていることが、局間のスポンサー獲得の競争でもアドバンテージになった。
しかし、いつしか地方局を増やすことのメリットがディメリットを上回ることがなくなった。今ではスポンサーにとっては、不要な地域が系列に入っていることが番組提供のディメリットにもなる時代である。

日頃テレビを見ていると当たり前のようであるが、全国同一番組ネットワーク、これがマスメディアというものである。これは民放だけでなく、そもそも国策としてNHKを推進した構造である。テレビだけでなく、新聞や雑誌もそのような経緯で生まれてきた。国レベルで世論形成を簡単に出来る道具ほど権力者にとって便利なものは無い。これまでの歴史の中で、国家権力を持った政権がメディアを手中に収め、権力を行使するためのプロパガンダの手段としてマスメディアを使ってきたのは、このような構造故の必然である。
今あちこちで「マスメディアの時代」の終焉が言われだしたのと、世界規模で「これまでの政治体制の崩壊」が起りつつあるのも相互に深く関連があるからだ。

実は、この構造に広告業界も上手く乗じて、テレビ広告ビジネスを確立させてきた。当初は、全国に配信する番組にスポンサーが一社提供でつき、番組の人気、知名度の浸透に合わせてスポンサーを開拓した。我々の子供の頃は、プロレスといえばM電機、てなもんや三度傘といえばXXXクラッカーといったように。社名や商品を全国レベルで認知させるには、テレビ広告は長い間圧倒的な影響力を持っていた。結果としてスポンサーがナショナルブランドに育つ実績も上げ、巨額の広告費を生む仕組みに育っていった。

しかし、この地上波のデジタル化の流れは一変した。既存の放送設備をデジタル化対応に一新するために、各放送局はそれぞれ多額の投資を必要とした。ビジネスモデルの変更の無い中でのリニューアルはコスト負担だけが後に残る。キー局は自らの利権を守るためには仕方がないにしても、地方局は「キー局と地方局のネットワーク」自体の存在価値が揺らぎ始めている中での決断である。先行き経営的な不安はまだ払拭できていない。

生き残りをかけた地方放送局の再編がこれからスタートする。これまで、アナログ時代は利権を最大限享受できたキー局を核とした系列といわれた地方局ネットワークが、本格的なデジタルのネットワーク化の時代を迎えてかえって足枷になっているとは皮肉なものだ。
テレビ業界が、「ネットワークの括り」が変化するのに気がつくのが遅かったのかもしれない。
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