デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

10億円当たったら街のうわさになるだろうか

2016-12-04 09:03:04 | Weblog
 ファイターズ日本一セールもピークを過ぎたころ、地下街の一角に長蛇の列が出来ていた。何だろう?化粧品のサンプルでも配っているのだろうか?男性もいるから違う。ベタ踏み坂だか乃木坂だかの握手会か?年寄りもいるのでこれも違う。中国人の爆買いか?割り込みをする人がいないのでマナーの良い日本人だ。先を進むと宝くじ売り場があった。そういえば高額当選が出た所だ。前後賞合わせて10億円の幟が立っている。

 金さえあれば女だってどうにでもできるはどこかで聞いた暴言だが、誰でも欲しいのが金でニカ夫人の「ジャズ・ミュージシャン 3つの願い」でも圧倒的に「Money」が多い。フィリー・ジョー・ジョーンズとチャーリー・パーシップは「Money,money,money!」と答えたが、コールマン・ホーキンスは三つ目に「To be extremely rich」と寄せている。大金持ち願望とはいえ健康、成功の次なので控え目だ。答えたのは60年代初頭だから69年に肺炎で亡くなる数年前になる。健康に不安を抱えていたのだろうか。音楽的にはテナーサックスの父と呼ばれていたので成功したと思うが、願望の一つに挙げるところをみると物足りなかったのかもしれない。

 ホーキンスの名演というと真っ先に出てくるのは1939年の「Body And Soul」だろう。ダンス音楽としてのジャズを聴かせる音楽に変革した作品で、サックス奏者ばかりか楽器を問わず多くのジャズプレイヤーにメロディ解釈の手本とされている。そして、45年にキャピトルに吹き込んだ「It's The Talk Of The Town」はバラード解釈の最良の教科書としてサックス奏者はまずこれを聴き、学ぶところから出発する。さぁ、演ろうかとサー・チャールズ・トンプソンのイントロに促されて吹きだす一音にまずやられる。デンジル・ベストもさり気なく鼓舞しているのもこれが名演と呼ばれる所以だ。ベストのベストといったところか。

 買わなければ当たらないのが宝くじなので年に数度は買うことにしている。確率からいうと何時何処で買っても同じと思うのだが、どうせ買うなら大安吉日に高額当選が出た場所へと足が向く。そんな日の夢の売り場は件の横目に見た行列だ。札幌市の人口は約200万人でジャンボ宝くじの当選確率は1000万分の1、ということは・・・もし当たったら・・・並びながら胸算用をしていると外国の格言を思い出した。The lottery is a tax on people who flunked math・・・宝くじは数学を落第した人への税金だ。
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The Lonesome Traveler on the Train

2016-11-27 09:08:36 | Weblog
 「ガール・オン・ザ・トレイン」という映画を観た。ポーラ・ホーキンズという作家は知らないが、書店に原作本がうず高く積まれていたのを覚えている。「女性向けのサスペンス小説、大ベストセラー」と恋愛もののような可愛らしい文字のポップが付いていた。さすがに本は手に取る気にならないが、映画となれば興味がわく。タイトルからは行く先を決めず傷心の旅に出る若い女性をイメージするが、大人の男女6人が織りなす愛憎劇で、現実と妄想、現在と過去が入り交ざるスリリングな展開だ。

 映画のタイトルがアルバム・タイトルでも何ら違和感がないジャケットがあった。レイ・ブライアントの「Lonesome Traveler」だ。ブライアントといえばピアノトリオの傑作として知られる1957年のプレスティッジ盤や、幻の名盤と騒がれた59年のシグネイチャー「Plays」、コロムビアの「Little Susie」等で特に日本でも人気のあるピアニストだが、60年代はほとんど話題にならない。レコードも出しているのだが、「Sue」と「Cadet」という地味なレーベルのため輸入盤も入ってこなければ、日本盤が出るケースも少なかった。また、ビッグネイムとの共演も65年のロリンズ「on Impulse」1枚にとどまっている。

 そんな不遇の60年代でもこのアルバムはジャズ喫茶で人気があった。カデットの前作「Gotta Travel On」あたりからジャズロックだのコマーシャルだのと批判もされていたが、芸術としてのジャズ論を離れるといつの時代もリズミカルなものが受け入れられるし、ナンシー・シナトラの大ヒット曲「にくい貴方」という選曲もセールを伸ばすためには仕方がない。クラーク・テリーとスヌーキー・ヤングが参加しているもののホーンアンサンブルだけでソロを聴かれないのは少々不満が残るが、ブライアントのピアノはいつもながらに明朗快活だ。自作曲「Cubano Chant」の輝きが72年のモントルーの大抜擢につながっているのを聴き逃してはならない。

 この映画、主要な登場人物は6人なのだが、展開が早くて相関図が分かりにくいのが難だ。それを見越しているのかチラシに関係が詳しく解説されている。原作を読んでいない方は事前に調べてから観ると謎解きが早いだろう。勿論いきなり映画館に入っても楽しめる。チラシに「初めて体験する衝撃のラストに激震」とある。推理できてもモヤモヤしたままでもラストは戦慄する。げに女は恐ろしい。 
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クイーンのブルー・アンド・センチメンタルを聴いてみよう

2016-11-20 08:30:12 | Weblog
 宮崎正弘著「ウォール街 凄腕の男たち」(世界文化社)に、「10年後大統領選へ挑戦か?」のタイトルでドナルド・トランプ氏が紹介されている。発刊された1989年当時から大統領という目論見があったようだ。同書ではアメリカン・ドリームの体現者として不動産ビジネスの戦略を分析しているが、いわゆる仕手戦の名人でユナイテッド航空やホテル・チェーンのホリディ、百貨店フェデレイテッド等、売り抜けるタイミングの巧みさは舌を巻く。

 さて、トランプといえばドナルド違いでバードの「Royal Flush」にマル・ウォルドロン「The Dealers」、ウェス・モンゴメリー「Full House」、キャンディーズの「ハートのエースが出てこない」と何枚か思いつくが、選挙中から美貌の娘イヴァンカが話題になっていたので、クイーンのジャケットを選んだ。フランシス・ウェインの「The Warm Sound」だ。40年代にチャーリー・バーネットやウディ・ハーマンのファースト・ハードで活躍したシンガーで、この時代の楽団専属歌手が誰でもがそうであったようにスケールは大きい。ベイシー楽団の初期の作編曲家というよりもバットマンのテーマ曲で有名なニール・ヘフティの奥方でもある。

 エピックやコーラルにもアルバムがあるが、このアトランティック盤がベストだ。プロデュースは旦那だけありハンク・ジョーンズをはじめビリー・バターフィールド、ジェローム・リチャードソ、ン、アービー・グリーン、アル・コーンという歌伴の名手を揃えている。しかもメンバーを変えて2回のセッションだ。スタンダード中心の選曲で特にいいのが「Blue And Sentimental」だ。1938年にベイシーとジェリー・リヴィングストンが作曲したもので、当時はハーシャル・エバンスのテナーをフューチャーして大ヒットした。美しいメロディーにマック・デヴィッドが歌詞を付けたのは9年後のことだが意外にもヴォーカルは少ない。それだけにフランシスとヘフティの選曲眼が光る。

 同書で「ドナルド・トランプは、日本の対米投資の変化をいち早くかぎとり、日本のマネーを狙って次の手を打ってくるであろう」と結んでいる。経済と政治は別物だが手強い相手には違いない。選挙中の発言がそのまま政策になるとは考えにくいが、日米同盟、TPP、対ロシア等、どんなカードを突きつけてくるのだろうか。先日の安倍首相とトランプ氏の初会談で日米の信頼がより厚くなることを期待している。
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ジュニア・クックのサーキュレーション・ブリージングに息が止まった

2016-11-13 18:22:46 | Weblog
 1961年の正月にアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズが来日した。蕎麦屋の出前持ちがモーニンを口笛で吹いていたという伝説も生まれたファンキーブームの到来である。フロントにモーガンとショーター、ティモンズとジミー・メリットがバックという豪華メンバーだ。次の来日は63年で、このときモーガンに変わって先週話題にした「Big Apples」に参加しているフレディ・ハバードが初来日している。

 そのハバードを最初に聴いたのは72年のこと。ジュニア・クック、ジョージ・ケーブルス、ベースにAlejandro Scaron、レニー・ホワイトを引き連れてバンドリーダーとしての公演だ。ハバードの艶やかな音とキレのあるフレーズに唸ったものだが、この日一番衝撃を受けたのはクックのプレイである。B級だの、垂れ流しだの、閃きがないだのと散々酷評されてきたテナー奏者だ。ホーレス・シルバーのレコードで聴く限りブルー・ミッチェルといいコンビだが、決して先を行くプレイではない。その印象で生に接したものだから座席から飛び上がるほど驚いた。まず音がデカい。指の動きが華麗だ。

 そして、息継ぎなしで長いフレーズを吹くサーキュレーション・ブリージングに圧倒された。生を聴いて知ったテクニックだ。シルバーの元を離れてからも引っ張りだこで多くのレコーディングにクレジットされるとともにリーダー作も何枚か吹き込んでいる。そのなかから1988年のスティープルチェイス盤「The Place To Be」を選んだ。ミッキー・タッカー、ウェイン・ドッカリー、リロイ・ウイリアムズという名手をバックに悠々と吹いている。特に「Over The Rainbow」がいい。美しいメロディーだけで成立している曲はたとえアドリブの素材に選んだとしてもメロディーを大きく崩さないのがルールである。そしてアドリブも美しなければ曲が生きてこない。

 ブレイキーと入れ替わるように62年の正月にシルバーが初来日した。勿論クックがフロントだ。このライブの音源は残されていないが、72年のようにクックはステージであるったけのテクニックを披露したことだろう。当時観た方は小生同様、レコードとはイメージが違う演奏に驚いたことと思われる。クックの生を知る人はクックを高く評価するだろう。クックを貶す人がいれば生を聴いてから語れと言う。
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名ジャズ・プロデューサー木全信さんが遺した名盤

2016-11-06 11:01:32 | Weblog
 飽きずに「枯葉」かい?と戻るボタンをクリックするか、秋色の風景を切り取ったジャケットに惹かれてページを開くか、どちらだろう。ネタが涸れてくるとこの手を使う。有名曲だけに来年の秋まで続くほど録音は多い。先週話題にしたシンディ・ブラックマンとアルバムタイトルが同じなら録音も1989年と同じだ。更にCDの発売元こそ違うが日本の企画で、こちらのプロデューサーは木全信さんである。

 ニューヨークを中心に活躍する気鋭のメンバーを集めた「Big Apples」というプロジェクトだ。マイルス、フレディ・ハバードに次いでトランペット・シーンを牽引するロイ・ハーグローヴ。キャノンボール・アダレイの再来と騒がれたヴィンセント・ハーリング。ジャズ・メッセンジャーズという登竜門をくぐったピアニスト、ドナルド・ブラウン。ストックホルム生まれながらアメリカの響きを持つベーシスト、アイラ・コールマン。どんなスタイルでも叩けるドラマー、カール・アレン。そしてハバードがゲストという豪華なセッションだ。一体ギャラは幾らかかったのだろうと要らぬ心配をしてしまう。作ろうと思えばリーダーを変えるだけで6枚のアルバムが出来る面々だ。

 全10曲でメンバーのオリジナルとスタンダードが半分ずつとバランスがいい。オリジナルといっても理論よりスウィングを優先した乗りのいい曲ばかりだ。セッションでここぞとばかりに頭でっかちの七面倒くさい曲を持ってくるのがたまにいるが、シーンを先見する実験的な勉強会ならまだしも気楽な録音でそれは無用というもの。木全さんの意を酌んだ曲作りは好感が持てる。タイトル曲をはじめ「'Round Midnight」、「Lullaby of Birdland」、「What's New」 とテーマは崩さずアドリブで勝負というのも王道だ。「In the Still of the Night」はテンポを速めにとっており、ニューヨークの夜の喧騒を醸し出している。

 CD時代になり日本の企画ものが増えた。ミュージシャンに録音の機会を与え、日本人好みのジャズを提供するのは素晴らしいことではあるが、金太郎飴のピアノでは聴く気にもなれない。300枚以上のジャズアルバムを制作した木全信さんだが、似たような作品であっても狙いは全く違う。その木全信さんは今年7月27日に78歳で亡くなられた。著書「ジャズは気楽な旋律」(平凡社新書)というタイトルにジャズ愛がつまっている。
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シンディ・ブラックマンをバックにハナモゲラ語で枯葉を歌う

2016-10-30 09:51:30 | Weblog
 先週、延々と「枯葉」のヴォーカルを聴き続けたせいか門前の小僧ではないがカタカナ英語とデタラメ仏語で歌詞を少しばかり覚えた。ならば音痴を省みず物は試しにピアノトリオをバックに歌ってみようかと収録されているアルバムを思いつくまま取り出してみる。エヴァンスにケリー、ティモンズ、ピーターソンにジャマルとありアマル。その中に「Autumn Leaves」をタイトルにしたものがあった。

 一見、ピアニストのアルバムにみえるが、女トニー・ウィリアムスと呼ばれた女性ドラマー、シンディ・ブラックマンのリーダー作だ。録音された1989年当時、行方均氏が興した「somethin'else」や増尾好秋氏がプロデュースした「Jazz City」という日本のレーベルが新録を次々とリリースしていた。それに続いてクラウン・レコードが発足させたのが「Ninety-One」で、ウォレス・ルーニーの「What's New」に次ぐレーベル第二弾になる。ルーニーにしてもこのブラックマンにしても日本人好みの選曲ではあるが、オリジナルで固めるより聴きなれたスタンダードのほうが親しみやすいし、セールを優先するなら当然といえる。

 ピアノはその頃マーク・コーエンと名乗っていたマーク・コープランドで、ベースはチャーネット・モフェットだ。これにシンディとなるとかなり灰汁の強いトリオでスタンダードを切り刻んでいるのではないかと不安になるが、制作者サイドの意向が働いたのかメロディを大きく崩すこともなくドラムをプッシュするでもなく歌心に富んだ落ち着いた演奏だ。ホーンのバックだとどうしてもトニー流のシンバルを強調したスタイルになるが、ここではピアノのメロディーラインを活かすべく抑えて叩いている。本来のお転婆シンディを聴けるのはコルトレーン作の「Moment's Notice」で、縦横無尽のドラミングが気持ち良い。

 一流のピアニストをバックに、♪フォーリンリーブスドリフバイマイウィンドウとか、♪オージュヴドゥレタンクテュトゥスヴィエヌと歌ってみたものの哀しいかな音痴はハナモゲラ語の鼻歌にしかならない。音痴は一に音程がとれない、二に声が出ない、三にリズムがとれないのが原因と言われている。音程の悪さとリズムの乗りの遅れは治しようがないが、声だけは札幌ドームで鍛えているので出そうだ。一つだけ解決した。
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ボブ・ディラン、枯葉を歌う

2016-10-23 09:22:53 | Weblog
 えっ!ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞。これには驚いた。先週話題にしたビートルズほど聴いていないので詩を味わうまではいかないが、ディランの作詞は高く評価されているのは知っている。改めて羽振りのよかったミス・ロンリーが転落する「ライク・ア・ローリング・ストーン」を「読む」と、確かに「転がる石のように」に生きることを肯定すべきか否か聴き手の解釈に委ねられる。文学といえば文学だ。

 ディランは自作曲しか歌わないのかと思っていたが、何と2015年にシナトラのカヴァー集「Shadows In The Night」を出している。それも「My Way」や「Stranger In The Night」、「Fly Me To The Moon」といったオジサンのカラオケ定番ではなく、トップの「I'm a Fool to Want You」をはじめ「The Night We Called It a Day」に「Full Moon and Empty Arms」、「Where Are You?」と渋い曲が並ぶ。余程のシナトラ・ファンでなければ直ぐに収録アルバムを思い出せないだろう。どの曲もシナトラのイメージが強いのでジャズシンガーのカヴァーはそう多くはない。そんな曲を選ぶところがディランらしい。

 そのなかに1曲だけ大スタンダードが収められている。この時期にピッタリの「Les Feuilles mortes」だ。えっ?知らない。おっと失礼、原題で紹介してしまった。ジョニー・マーサーが英語の歌詞を付けた「Autumn Leaves」だ。幻想的なイントロから独特のしゃがれ声で詩を朗読するように歌っている。♪The falling leaves drift by my window・・・侘びや寂びを勝手にイメージするせいだろうか聴きなれた歌詞が違って聴こえた。そして絵が浮かんだ。「風に吹かれて」が収録されている2作目のアルバム「The Freewheelin'」のジャケットである。ディランの声は秋の冷たい風だからこそ感じ取れる肌の温もりに似ている。

 受賞には当然ながら賛否の声が挙がった。映画化もされた「私の中のあなた」で知られる作家のジョディ・ピコーは、「私もグラミー賞をとれるってことなの」と皮肉っている。確かに詩は文学賞に該当するが、それにメロディーを伴うと歌になる。ディランはかつて「シンガーであることも大事だし、曲も大事だが、常に一番最初に来るのは、ミュージシャンであることだった」と言っていた。受賞発表後、本人からのコメントがないのはそこにあるかも知れない。
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1968年、ホワイト・アルバムを横目にキリマンジャロの娘に誘惑された

2016-10-16 09:20:18 | Weblog
 たまたま映画通の知人と飲んだとき、ロン・ハワード監督のドキュメンタリー映画「ザ・ビートルズ」を薦められた。エピソードを巧みに編集してるので見慣れた彼らの表情が生き生きして見えたという。公開されているのは知っていたもののどうにも気が進まなくてパスしようと思っていた作品だ。ビートルズが嫌いなわけではないが、何本か観たドキュメンタリー物はざっくり分けてラバー・ソウル以降の後期を中心に編集されていた。

 熱心に聴いたのは66年のリボルバー、67年のサージェント・ペパーズ辺りまでで、68年のホワイト・アルバム以降はLP単位でじっくり聴いていない。また解散後のソロ活動に至っては全くといっていいほど知らないのだ。音楽的に変わったから付いていけなかったわけではない。68年はマイルス年で言うとイン・ザ・スカイとキリマンジャロの娘が発表された年で、小生のジャズの聴きはじめになる。高校の授業が終わると自転車を飛ばしてジャズ喫茶に駆け込み50年代の名盤を聴くか、レコード店で当時流行っていた「恋の季節」や「サウンド・オブ・サイレンス」の合間にジャズの新譜を試聴させてもらう毎日だったので、ビートルズは忘れていた。

 私事はさておき、レノンとマッカトニーが書いた曲はジャズの分野でも多く取り上げられ、ジャズ誌で度々特集が組まれるほどだ。数あるカバーからソニー・クリスのエリナー・リグビーを取り出した。テーマを崩すこともなく、大きくはみ出さないアドリブは一般的な受けを狙ったものだが、ビートルズ・ナンバーはこの方がいい。この「Rockin In Rhythm」や先の「Up, Up And Away」、「The Beat Goes On」といったクリスのプレスティッジ時代は硬派のファンからコマーシャルだと批判されていたが、ポップスのジャズ・カバーからジャズの魅力を知った人は意外に多い。その意味でクリスの一連の作品はジャズ人口を増やした傑作だ。

 この映画の原題は「EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years」という。ライブ活動に重きを置いていたデビューから66年までを中心に編集されているので、初期のビートルズを愛するファンには堪らない。劇中、関係者がインタビューに答えてシナトラやプレスリー、ケネディ大統領をはるかに超える熱狂だったと語っていた。おそらくはビートルズやマイルスを凌ぐアーティストは出てこないだろう。改めて良い時代に生まれたことを感謝したい。
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タル・ファーロウが似合う彼女と彼女の部屋

2016-10-09 09:19:15 | Weblog
 先週話題にした「I Remember You」を聴き比べるため「The Interpretations of Tal Farlow」を取り出した。そう言えば片岡義男さんがエッセイでタルのことを書いていたのを思い出し書棚を探す。「彼女の部屋の、ジャズのLP」。そうそうこれだ。「彼女と彼女の部屋には、タル・ファーロウがもっとも似合っていた・・・彼女はまさに『イッツ・ユー・オア・ノー・ワン』の曲そのものであり、演奏はタル・ファーロウ以外にはあり得ないのだった」と。

 タル・ファーロウが似合う彼女とはどんな女性なのだろう?これがエヴァンスなら少しでも乱暴に扱えば壊れてしまう繊細な少女、マイルスなら凛としたクールな美女、MJQなら10度に首をかしげて微笑む淑女、パーカーなら度胸が据わった姐さん、デクスター・ゴードンなら胸を大きく開けた娼婦となるが。タルといえば音色は太く逞しい。そしてオクトパスと呼ばれた大きな手で複雑なコード進行をすいすいと弾きこなす。そこからイメージするなら男勝りで痒い所に手が届く女性となる。そしてタルが似合う部屋とは丈夫な観葉植物カポックやハンフリー・ボガードのポスターが映える空間なのだろう。

 It's You Or No One、作曲はジュール・スタインで、1948年の映画「Romance on the High Seas」に使われた曲だ。映画では主演のドリス・デイがサミー・カーンの詞を丁寧に歌い上げている。エッセイのようにタルで聴いてみよう。ピアノはクロード・ウィリアムソン、ドラムはスタン・リーヴィ、そして先週も登場したレッド・ミッチェルがここでは本業のベースを弾いている。3分半の短い演奏ながらドラマチックな展開で、美しい女性が更に美しくなり手の届かない存在になるかもしれないという不安と、今一緒にいる満足感が同時に伝わってきた。絃の微妙な響きやピッキングの強弱がその心理を表している。

 ジャケットはタイム誌の表紙や数々のジャズ・レコードのデザインを手がけたデイヴィッド・ストーン・マーチンによるものだ。イラストからギターの音色、それもタルとわかる太い響きが聴こえてくるし、楽器の形の美しさがよく出ている。ギターはそのひょうたん形からときに女性に例えられるほどボディラインは美しい。因みにこのエッセイがまとめられている本のタイトルは、『「彼女」はグッド・デザイン』である。
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レッド・ミッチェルの二刀流は通用するか

2016-10-02 09:33:44 | Weblog
 28日、北海道日本ハムファイターズが4年ぶり7度目のパ・リーグ優勝を決めた。ソフトバンクとの最大11・5ゲーム差をひっくり返しての大逆転である。勝てば優勝の大一番で先発を任されたのは大谷翔平だ。開幕試合で黒星を喫したエースだったがこの日は違っていた。このシーズンの集大成ともいうべきピッチングは力強く美しい。投げては10勝、打っては打率3割超え、本塁打22本の二刀流が最大限に生かされた優勝だ。

 ジャズ界で二刀流といえば持ち楽器の他にピアノが多い。ジャズ・ミュージシャンは基本的にピアノの素養があるので珍しくないとはいえ予備知識がないまま「The Ivory Hunters」を聴くとエヴァンスと対をなすボブ・ブルックマイヤーのタッチに脱帽するし、「Mingus Plays Piano」はベーシストの余芸とは思えぬほど深い味わいがある。この「The Modest Jazz Trio」もそれでジャケット表の情報からはメンバー3人の名前がわかるが、どんな曲を演奏しているのだろうと裏を見て驚く。曲名に次いでJim Hall-Guitar、Red Mitchell-Piano、Red Kelly-Bassのクレジットが飛び込んでくる。

 これは同じRedなので間違ったのだろうか。とはいえRed Kellyという有名ピアニスト2人から拝借したような名前のピアノは知らない。まずは聴いてみよう。間違いなくピアノを弾いているのはレッド・ミッチェルで、レッド・ケリーはハーマンやケントンのビッグバンドで活躍したベーシストとジャズ人名辞典に記されていた。ベーシストに転向する前はピアノを弾いていたというミッチェルはホールの音色を邪魔しない軽いタッチで小気味良くスウィングするし、パーカーが取り上げたことでアドリブの素材として演奏される「I Remember You」では知的なバップセンスものぞかせる。ベースほどではないがソロも構築されているので二刀流で通用したかもしれない。

 今月12日からはクライマックスシリーズのファイナルステージが始まる。その先にあるのは日本シリーズ制覇だ。栗山監督は優勝インタビューで、「ファイターズの選手たちは北海道の誇りです」と答えた。我々ファンも同じだ。声が嗄れるまで声援を送ろう。札幌ドームが揺れるほど応援しよう。そして10年ぶりの日本一が決まった時は抱き合って泣こう。もう優勝パレードの準備は始まっている。
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