A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

大ベテラン2人が素顔で普段着のプレーをすると・・・

2015-08-31 | MY FAVORITE ALBUM
Dr. T / Billy Taylor featuring Gerry Mulligan

ズートシムスとアートペッパーが共演したステージで、2人が即興で行ったブルースの演奏で会場が大いに盛り上がった。その後、続いてステージ上で行われたメンバー紹介の様子も収録されている。このMCを担当していたのはピアニストのビリーデイラー。このJazz Aliveのプログラムのレギュラーホストを務めていたようだ。ここでのテイラーはピアニストではなく、ジャズ界全体の発展に貢献していた活動の一環であった。

スポーツの世界では、体力的に生涯現役を続けることができない。競技者として現役を引退すると、コーチとなって後進を指導し、マネジメント能力があればチームの監督を務める事もある。さらにはそのスポーツ全体の普及と発展の為に協会や政治の世界で活躍することも。

ジャズの世界でもプレーヤーとして活動に見切りをつけて、作編曲やプロデュース業に転身するミュージシャンは多い。その中にはビジネス的に成功を収める者も。
しかし、ジャズを愛するミュージシャンの中には、演奏活動だけでなくジャズ界全体のために、普及や教育・啓蒙活動に熱心に取り組む活動をする者もいる。

このビリーテイラーもその一人だ。このテイラーの肩書は、作曲家、教育者、テレビのコメンテーターと多方面の活動を行いつつも、生涯ピアニストとしても現役を続けた。Dr.Tといわれたように、アメリカでは広くジャズ界全体のに通じた生き字引的な存在であり、ジャズの発展に貢献した存在であった。



そのピアノはというとスイング時代の最後に登場したのでアートテイタムの流れを汲むものであったが、バップムーブメントではパーカーやガレスピーと共に演奏し、実験的な活動にも多く参加していた。50年代のテレビ番組ではジャズの歴史やスタイルを色々なミュージシャンを招いてホストとなって紹介したように、どんなスタイルでもこなすオールラウンドプレーヤーだった。

このようなミュージシャンの演奏は残念ながら日本のジャズ喫茶ではまずはかからなかった。アメリカでの活躍は当時は日本では知るべくもなく、結果的にあまり日本では人気がないという事になる。アメリカでは誰もが知っている有名人でも、日本では無名といわれるピアニストの一人だと思う。

そんなテイラーが晩年なってGRPレーベルから出したアルバムがある。GRPというとデイブグルーシンとラリーローゼンが設立したグルーシン・ローゼン・プロダクションが前身。レーベルとして独り立ちしてから、フュージョン時代を代表するレーベルの一つに育った。このレーベルで育った若手、中堅ミュージシャンは多い。

そのGRPのカタログの中に何枚か4ビートのアルバムもある。これもその一枚になるが、ベテランがこのレーベルで演奏すると多少現代風の味付けがされているかと思うとそうでもない。中身はテイラーの飾り気のないピアノトリオの演奏だ。

それに、ゲストにジェリーマリガンが加わっているのも特徴だ。目立ちたがり屋のマリガンはどこにでもよく顔を出すが、ここではあまりしゃしゃり出ることも無くテイラーのピアノプレーに上手く花を添えている。

I'll Remember April、そして'Round Midnightとスタンダード曲から始まるが、どちらも素晴らしい演奏だ。後者はマリガンのバリトンも冴える。流石大ベテランの2人、変な気負いもなく、スタイルにこだわらない本来の2人のストレートなプレーが聴けるというのも却って新鮮だ。

最後は2人のオリジナル曲が続くが、テイラーの曲Just the Thought of Youではマリガンのソロをフィーチャーし、マリガンのオリジナル曲Rico Apolloでは、反対にマリガン抜きのトリオでの演奏。お互い普段の肩書は脇に置き、お互い張り合う事もなくプレーを称え合うような演奏が良い感じになっている。

モダンジャズの激変の時代を最前線で生き抜いてきた2人だが、スイングジャズに根差した2人の演奏の本質はこの辺りにあるのかもしれない。



1. I'll Remember April     G. DePaul / P. Johnston / P. Johnston / D. Raye 6:08
2. ‘Round Midnight  Bernie Hanighen / Thelonious Monk / Cootie Williams 10:31
3. Line for Lyons                     Gerry Mulligan 6:02
4. Cubano Chant                       Ray Bryant 3:47
5. Lush Life                        Billy Strayhorn 6:20
6. Who Can I Turn To            Leslie Bricusse / Anthony Newley 4:23
7. Laurentide Waltz                    Oscar Peterson 4:49
8. You're Mine                        Billy Taylor 2:44
9. Just the Thought of You                  Billy Taylor 7:23
10. Rico Apollo                       Gerry Mulligan 4:04

Billy Taylor (p)
Gerry Mulligan (bs) #2,3,9
Victor Guskin (b)
Bobby Thomas (ds)

Produced by Billy Taylor
Recording Engineer : Jim Anderson
Recorded at Master Sound New York City in 1992

Dr. T
クリエーター情報なし
Grp Records
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幼馴染でも一緒にレコーディングしたのは・・・

2015-08-29 | MY FAVORITE ALBUM


Art'n Zoot / Art Pepper & Zoot Sims

1925年9月1日生まれのアートペッパー、そして同年10月29日生まれのズートシムスは同い年。出身地もペッパーはGardena、シムスはInglewood,とロスアンジェルス郊外の隣町同士の幼馴染、若い頃はよく一緒に演奏をしたそうだ。

ペッパーはスタケントンオーケストラで活躍しソリストとして頭角を現す。シムスもベニーグッドマンのオーケストラでプロ生活を始め、ウディーハーマンのフォーブラザースバンドに参加し有名になったが、それを足掛かりにその後多くのバンドを渡り歩く。

華々しくデビューした二人だが、その後のアートペッパーは長い療養生活をおくることに。実際に演奏活動した期間は限られる。
一方のズートシムスはニューヨークに移り、ジェリーマリガンのコンサートジャズバンドに参加し、アル&ズートのコンビでも活躍した。スタジオワークも多く、多くのアルバムのクレジットで彼の名前を見かけ、亡くなるまで多方面で忙しく活躍した。

スタートは同じであっても、2人のそれぞれが歩んだ道は異なった。そのため、幼馴染の2人が共演したアルバムを聴きたいと思っても、その演奏は見当たらない。
デトロイトやフィラデルフィア出身のミュージシャンは、ニューヨークに出て有名になってからも無名時代一緒に演奏をした仲間達とよく一緒にプレーをし、アルバムも残した。
しかし、ロス出身のミュージシャンはその数も多く、ジャズだけでなく活動する領域も広かったせいか、2人に限らず同郷といってもあまり仲間意識が強かったようには思えない。

ズートシムスは活動拠点をニューヨークに移し、以前にも増して多方面で活躍した。一方のアートペッパーは西海岸に留まったが、活動自体が断続的となった。このような2人が共演する機会を作るのも難しかったのだろう。

70年代の後半、そして80年代にかけてジャズコンサートが全盛を極めた。当時、ジャズフェスティバルが各地で数多く行われ、スタープレーヤー達の夢の共演もよく再現された。しかし、それらの場でもこの2人の競演が実現されることはなかった。

その様な中、ラジオ放送用の公開ライブもよく行われたが、National Public Radioという公共放送にJazz Aliveという番組があった。案内役のティムオーエンスは順次メンバーを入れ替えながら全国を回ってその演奏を電波に乗せた。

1981年ロスでその公開収録が行われたが、9時間に及ぶスペシャルプログラムが組まれた。ジェラルドウィルソンのオーケストラやハロルドランド&ボビーハッチャーソンのグループなど地元のミュージシャン中心に出演したが、そこでズートシムスのオールスターバンドにアートペッパーも加わり、念願の競演が実現した。

この公演は予算も多く、その模様はマルチトラックでの録音も行われ後にアルバムとしてもリリースされた。そのお蔭で、ズートシムスとアートペッパーの共演がアルバムとして初めて世に出ることになった。

CDへの収録は編集され曲順が実際のステージとは異なり、全貌が収められている訳ではない。実際のプログラムの順序は、ズートシムスのカルテット、そしてバニーケッセルが加わったクインテットの演奏が先行し、そこにアートペッパーが加わって2曲演奏した。
その後、CDには収められていないが、ピアノのビクターフェルドマンのソロを挟んで、今度はアートペッパーがチャーリーヘイデンを伴って再びステージに登場し、オーバーザレインボーを演奏、リズム隊が残ってボビーハッチャーソン達が登場する構成であったようだ。

したがって、実際に2人の共演とはいっても2曲だけのものではあったが・・・・。

先行したズートシムスの演奏は実に快調。バニーケッセルが加わったイパネマの娘も実にアグレッシブな演奏だ。その勢いでアートペッパーとの共演に臨むが、2人の熱い演奏が見事に残されている。シムスが盛り上げたステージに、真打ペッパーが登場という形だ。

このような形で2曲だけではあったが、幼馴染の2人の演奏が後世に残された意義は大きい。この時2人は56歳。翌年6月にはペッパーは世を去り、それを追うようにシムスも85年には亡くなってしまう。最初にして最後の共演アルバムとなった。

1. Wee (Allen's Alley)               Denzil Best 7:39
2. Over the Rainbow    Harold Arlen / E.Y. "Yip" Harburg 10:28
3. In the Middle of a Kiss             Sam Coslow 8:51
4. Broadway   Lew Brown / Buddy DeSylva / Ray Henderson 6:29
5. The Girl from Ipanema  N. Gimbel / Antonio Carlos Jobim 10:31
6. Breakdown Blues          Art Pepper / Zoot Sims 10:01

Zoot Sims (ts) #1,3,4,5,6
Art Pepper (as) #1,2,6
Victor Feldman (p)
Barney Kessel (b) #4,5
Ray Brown (b)
Charlie Haden (b) #2
Billy Higgins (ds)

Produced by Tim Owens
Recording engineer : Paul Blakemore
Recorded live at Royce Hall,University of California, Los Angels on September 27 1981

Art 'N' Zoot
クリエーター情報なし
Pablo
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時代の変化と共に、今まで慣れ親しんだ魅力とは別の魅力が見つかるものだ・・

2015-08-23 | CONCORD
Live at Village West / Ron Carter & Jim Hall

原油価格の下落が止まらない。一年前は100ドルを超えていたのが先週末はついに先物価格は40ドルを割った、一体どこまで下がるのやら。一時のピークと較べると1/3近い価格だ。産油国にとっては実入りがそのまま1/3になっている訳なのでこの急落は深刻なはずだ。

この下落の原因はロシアの経済制裁の一環という話もあるが、長引けばアメリカにとってはシェールガスビジネスの存亡にも影響する。最近の下落の原因は中国経済の行き詰まりが原因との話もあるが、昨今の相場の上下には、需給関係だけでなく政治を含め色々な思惑や要素が絡んでいる。今後どう推移するのかは素人には分からない。
我々消費者にとっては、単純にガソリン価格が安くなる恩恵が嬉しいが。

自分は、昨年車をディーゼル車に替えた。ゴルフに行く回数が多いので、走行距離は年間で2万キロ近く、ガソリン代もバカにならない。以前はガソリンを「がぶ飲み」する大型SUVのアメ車に乗っていたので、最近の車の省燃費技術は感動的だ。ハイブリットでなくとも、平均燃費は15km/ℓ以上、前の車の倍は走る。

特にディーゼルだと軽油の価格の安さも一段と魅力だ。この前100円/リットルを切ったと思ったら、先日は93円まで下がっていた。この軽油の価格だが、店によってレギュラーガソリンとの価格差に大きく幅があり、自分が入れる店では30円近くある。この価格差も不思議だが、ガソリン価格自体、店による価格差が昔より大きくなったように思う。利用者の店の選別に価格以外の要素が加わっているのかも?

経済成長、そしてモータリゼーションの発展と共にこれまで成長を遂げた石油業界だが、いつの間に斜陽産業の生き残り戦略を競う業界になってしまったようだ。車そのものも昔は排気量の大きさが車のグレードを表す代名詞のような位置付けであった。最近はハイブリット車全盛になったせいか、エンジンの大きさはどうでも良くなってしまった。
世の中の価値観の変化は知らず知らずの内に確実に進んでいるということだろう。

さて、ジャズの魅力はいくつもあるが、コラボレーションもその一つ。マイルスとギルエバンスのようなプレーヤーとアレンジャーのコラボもあるが、本命は2人のプレーヤーの真剣勝負だろう。
アル&ズートのようなレギュラーグループもあれば、前回紹介したコルトレーンとハートマンのような意外な組み合わせもある。どのような組み合わせでも、コラボレーションによる魅力はそれぞれ単独の演奏では味わえない。

そしてジャズのエッセンスもいくつかあるが、スイング時代からバップ時代引き継がれた物にジャズ独特のノリがある。いわゆる4ビートの心地良さだ。聴き手にとってもそのスイング感がたまらない。
そのジャズのスイング感も8ビートやラテンのリズムとのハイブリットにより多様化していった。

ジムホールというギタリストがいる。スタジオワークも多かったので色々なプレーをこなすが、彼のプレーはいわゆるバップオリエンテッドなスインギーなギターとは違ったスタイルだ。
若い頃レギュラーメンバーとして参加したジミージュフリーやチコハミルトンのグループも同様にメインストリームとは少し毛色の変わった路線を歩んでいた。ジムホールの演奏がピッタリだったのかもしれない。そしてジムホールとビルエバンスとのデュオアルバムは、お互いが目指すジャズを共有できた作品だったと思う。
その後も、ソニーロリンズのグループに加わり、アートファーマーのグル―プなどにも加わった。どこでやっても、誰とやっても派手さは無いが常に存在感があり、単なる伴奏ではなくコラボレーションを楽しんでいるようなプレーが魅力である。

デュオでの演奏も多い。そして、聴く前からこの2人であればいい結果を生むだろうと想像できるのがロンカーターとのデュオだ。
ギターとベースというと、いつもは脇役であることが多い楽器の組み合わせだ。お互いに派手さが無いだけに、余程自己主張が無いと退屈な演奏になることもある。事実、ライブでそのような演奏に遭遇したこともある。

ところが、この2人の演奏は奥が深い。ソロをとっている時もバックに廻っている時もそのプレーぶりは変幻自在、次々と繰り出されるフレーズやリズム感は実にスリリングだ。
このアルバムは、ジャズウェストというクラブでのライブ録音。演奏も会場もライブの割にはおとなしく感じるが、やはりスタジオとは違う会場の熱気が伝わってくるから不思議なものだ。

自分は元来スインギーな演奏が好み。だが何故かジムホールのアルバムは特にファンという訳ではないのに何枚も持っている。どこかに自分にも気づかない、そして語れない魅力があるのだろう。
ジャケットの2人の写真の後ろ姿が印象的だ。普段見慣れない所に魅力があるのだということをアピールしているようで。2人の演奏も普段気付かないところに魅力があるのだろう。
たまには、このようなジャズもいいものだ。



1. Bag's Groove                      Milt Jackson 4:11
2. All the Things You Are       Oscar Hammerstein II / Jerome Kern 5:38
3. Blue Monk                     Thelonious Monk 5:07
4. New Waltz                        Ron Carter 6:02
7. St. Thomas                       Sonny Rollins 4:27
8. Embraceable You            George Gershwin / Ira Gershwin 6]37
9. Laverne Walk                     Oscar Pettiford 5:13
10. Baubles, Bangles and Beads       George Forrest / Robert Wright 5:02

Ron Carter (b)
Jim Hall (g)

Produced by Retrac Productions and Jim Hall
Recorded live at Village West, New York City, November 1982
Recording engineer : Jim Anderson

Originally released on Concord CJ-245

Live at Village West
クリエーター情報なし
Concord Jazz
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良いものは完全コピーではなくエッセンスを引き継いでスタイルに・・・

2015-08-21 | MY FAVORITE ALBUM
Kevin Mahogany & Tony Lakatos / The Coltrane Hartman Fantasy Vol.1

オリンピックのロゴマークの盗作疑惑が思わぬ展開をしている。当事者のデザイナーもサントリーのトートバッグは完全にアウトというのを認めた。それも自らの部下が行ったことで、自分には責任の無い様な言い方をしている。クリエイターというよりプロデューサー化しているデザイナーの本音であり実態だろう。

昔のデザインワークは、パーツであるコピーにしても写真にしても、そしてイラストにしても、それぞれが職人芸による手作業で作られたものであった。それを組み合わせて全体の構成を担当するデザイナーも基本的自ら筆をとる絵心の持ち主であった。僅かな色合いの違い、数ミリのバランスの違いにも拘りをもっていた。
全体のデザインはもちろん、写真やイラスト一つ作るにも自分のイメージに合うように具体的な指示を出すのが当たり前であった。

デザインワークはマックを使うデジタル化で大きく変った。素材はすべてデジタル化された。写真やパーツ作りを含めてすべてがコンピューター画面上の作業となった。
アナログ時代を経験したものであれば、作業がデジタル化されても頭の中はアナログであった。しかしデザインを始めた時からマックで作業することが当たり前になると、レイアウト自体もあまり考えずに試行錯誤が可能、いわゆるコピー&ペーストから始まる修正作業がデザインワークとなる。

今のようなインターネット時代に入ると、デザインに必要な素材やテンプレートは世界中に溢れている。新たに考えるより、イメージに合う物を探した方が手っ取り早い。そして、いつのまにか自らのクリエイティビティーを鍛える機会を逸してしまう。
今までも何か印象に残っているデザインを思い浮かべ、新たにデザインをおこすことは多かった。作業的にもそのデザインをトレースすることはあった。これは今回のような寸分違わないコピーとは本質的に違う。
このようなコピペに長けたマック使いをデザイナーだと思っていると、今回のような事は起こるべくして起こるということだろう。

ジャズの世界でも名演といわれる演奏は、何らかの形で他のプレーヤーに影響を与える。最初はコピーから始まっても、一人前になるためには単にコピーではなく自分の物にしていかねばならないということだ。前回紹介した、ルーソロフのスケッチオブスペインのようなコピーものは例外中の例外だ。

ジョンコルトレーンとジョニーハートマンの共演アルバムがある。ジャズボーカルの世界では女性陣と較べて圧倒的に劣勢な男性陣だが、このアルバムも男性ジャズボーカルの中では数少ない名盤として有名だ。また、ジョンコルトレーンの歌伴というのも珍しい。このコラボレーションが価値を高めているのだろう。



インパルス時代のコルトレーンが大きく変身を遂げている中で、突然このアルバムや「バラード」などコルトレーンの別の顔を見せたのも不思議であった。変身を続けたコルトレーンにアンチであっても、これらのアルバムのコルトレーンを好むファンも多かった。

このコラボが生まれた理由というと、当時コルトレーンが自分の演奏スタイルに合うマウスピースが見つからず、しっくりこずに演奏をしていた時、止む無くこれらのコルトレーンのバラードプレーのアルバムが生まれたのはプロデューサーのボブシールの都合であったという話もある。
世の中、何が幸いするか分からない。

続編を楽しみにしたファンは、もし2人が次に共演をしたらどんな曲が良いかと想いを馳せたと思う。しかし、そのような経緯で生まれたこのハートマンとコルトレーンのコラボは一時のものであった。
次の作品を待っていたのは聴き手だけでなく、演奏する側のミュージシャンでも同じであった。本人達がやらないのであれば自分達がと、チャレンジしたいと思う歌手は多かったと思うが、ハートマンの黒人特有のクルーナー唱法というのはなかなか誰でも真似ができるものではなかった。

そして、月日が経ち1963年のハートマンとコルトレーンの演奏から40年以上経ってから、その様な想いで2人のミュージシャンのコラボが生まれた。
比較的最近のアルバムだが、このハートマンのコルトレーンのコラボを意識し、The Coltrane Hartman Fantasyとタイトルされている。歌っているのはKevin Mahoganyという黒人歌手。相方を務めるのはTony Lakatosというハンガリー出身のテナーである。

2人の普段の演奏を自分はあまり詳しくは知らないが、ここでの2人の競演は看板通り、まさにハートマン&コルトレーンのコラボの再演となった。
内容は本家のコピーではない。曲は新たに選ばれ、良く聴くとハートマンとマホガニーも歌い方も声の質も微妙に異なる。ラコトッシュのテナーもコルトレーンほど高音域が目立つわけではない。しかし、2人のコラボは完全に、ハートマンとコルトレーンの世界そのものだ。このような名演といわれる演奏が再現されるのを待ち焦がれていたファンも多いと思う。

このように一つのオリジナルを元に、色々そのエッセンスを引き継いだバリエーションが生まれると、それはひとつのスタイルとなる。デザインの世界でも、良いオリジナルデザインに自分のクリエイティビティーを加えて自分のスタイルを作り上げていくことが重要ということになる。

このコンビはレコーディングだけではなくライブ活動もしているようだ。Vol.2のアルバムを期待しよう。



1. Any Place I Hang My Hat Is Home
2. Interlude
3. Come Rain Or Come shine
4. I Want To Talk About You
5. If I’m Lucky
6. How High The Moon / Satellite
7. My Little Brown Book

Kevin Mahogany (vol)
Tony Lakatos (ts)
Thomas Ruckert (p)
Hennig Gailing (b)
Martijn Vink (ds)

Recorded at BR Studio Nuremburg, Germany, July 20 &21, 2009
Produced by Bernd Skibbe
Recording Engineer : Carsten Vollmer


The Coltrane Hartman Fantasy V
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完成度の高い作品の再現は完全リメイクしかないが誰でも簡単にできるものでは・・・

2015-08-16 | MY FAVORITE ALBUM
Sketches of Spain / Lew Soloff & Steve Richman Harmonie Ensemble New York

今年の夏は一段と暑い日が続いた。こんな季節に果たしてオリンピックができるかどうか心配になるが、此の時期に開催されるようになったのもテレビの放映が他のスポーツのシーズンと重ならないように調整した結果とか。競技が行われる時間帯も影響を受けるようだ。競技場の建設コストが問題になっているが、本来は選手にとって一番適した季節に行うのが本来の姿であろう。お金がかかるオリンピックになったが為に、スポンサーは大事だが本末転倒がまかり通る世の中には困ったものだ。

8月のこの時期は、御巣鷹山のJAL、広島・長崎の原爆、そして敗戦と、歴史に残る記念日が続くが、これらの歴史上の位置づけも30年以上経って変化し続けている。いかに、今まで事の本質が闇に葬られ、真実が語られずにいるという証左であろう。今になってJALの16時間もかかった捜索時間の不自然さ、原爆の無差別殺人が語られ出すのはいかにも不可思議だが。こちらは政治の問題か・・。

さて夏休みシーズンも終わって、ほちぼち通常の生活パターンに戻る時期。ジャズを聴く時間も徐々に戻したいと思う。

ジャズの世界でもコマーシャリズムに毒されていない、ミュージシャンの本質をとらえたアルバムが昔は数多く作られた。けっしてマイナーレーベルだけでなく、メジャーレーベルでも。
それらは長い年月が経って聴いても、その本質は変わることなく、聴き手にも感動を与えるものだ。ジャズの巨人といわれるミュージシャンの演奏を今でも古さを感じることなく楽しめるのもそのような演奏が多いからだからだろう。

その一人、マイルスデイビスは生涯を通じて演奏スタイルも変化していったが、いくつかの節目となるアルバムがある。カインドオブブルーはその代表的な一枚だが、理屈を抜きにして素晴らしいアルバムだと思う。

その前後にアルバムとしてはギルエバンスとのコラボレーションアルバムが並行して続いてリリースされていた時期だ。レギュラーグループの演奏は58年のニューポートのライブなどがあるが、このエバンスとの共演は普段のレギュラーグループの演奏とは異なる、あくまでもエバンスのアレンジとマイルスのトランペットのコラボレーションで成しえた演奏だ。

エバンスとのコラボは、バースオフクールに始まり、此の時期を経て晩年まで続く。アルバムはどれも素晴らしいが、その中でもちょうどカインドオブブルーの時期の有名なアルバムといえば「スケッチオブスペイン」であろう。
その中でもギターのための曲であるアランフェス協奏曲をトランペットで演じ、哀愁を込めたマイルスの音色がギルエバンスのアレンジに実に溶け込こんだ名演だと思う。

これで一躍有名になったアランフェス協奏曲のカバー(エバンスの作品もロドリーゴのオリジナルのカバーといえばカバーだが)はジャズの世界でその後も何枚も作られている。それだけ曲自体が素晴らしいとは思うが、このエバンスとマイルスの演奏のカバーというと、特にトランペットを主役にすると元の完成度が高いだけになかなかこれを超える作品は生まれにくいと思う。

となると、オリジナルの作品の完全な再現となるが・・。これだけの名演となると、世界的にみれば誰かが何度となくチャレンジはしそうだが、マイルス&ギルの完成度を再現するには勇気がいるものだと思う。日本ではマイクプライスが確かライブでチャレンジしたように思う。
今年亡くなったルーソロフもそのチャレンジャーの一人であり、アルバムになったのは初めてという。完成度の高いオリジナルのスコアをそのまま利用した完全なリメイクだ。ルーソロフは晩年のギルエバンスオーケストラのレギュラーメンバー、エバンスの作品の良き理解者であり、過去の作品でマイルスの代役を務めるには最適な人選だったかもしれない。

バックのギルエバンスのアンサンブルを指揮したのはスティーブリッチマン。オリジナルのレコーディングに参加したトランぺッターのバニーグロウの甥っ子とのこと。レコーディングの前にライブで実現したようだが、ジャズの名演は再現できないものとはいわれているものの、このような名作が代々引き継がれるのはファンとしては嬉しいものだ。

1. Concert De Aranjuez  (J.Rodrigo)  
2. Will O' The Wisp   (M. De Falla)
3. The Pan Piper      (G. Evans)
4. Saeta         (G. Evans)
5. Solea         (G. Evans)

Lew Soloff (tp)
Steve Richman (cond)

Harmonie Ensemble New York
Ed Joffe (fl)
Ralph Olsen (piccolo/clarinet)
Vincent Chancey (fr-hr)
R.J. Kelley(fr-hr)
Doug Lyons (fr-hr)
Kenny Rampton (tp)
Dominic Derasse (tp)
Joe Giorgianni (tp)
Marc Osterer (tp)
Rick Heckman (reeds)
Charles Pillow (reeds)
Ron Jannelli (reeds)
Mike Seltzer (tb)
Earl McIntyre (tb)
Marcus Rojas (tuba)
Stacy Shames (harp)
Francois Mutin (b)
Jim Musto (ds)
Jon Haas (perc)
Erik Charlston (perc/castenets)

Produced by Adam Abeshouse & Steve Richman

Recording Engineer: Adam Abeshouse
Assistant Engineers: Bill Siegmund
Recorded at: Legacy Recording Studios, NY, May 21&25 2008

スケッチ・オブ・スペイン~マイルス・デイビス&ギル・エヴァンスに捧ぐ~
クリエーター情報なし
SPACE SHOWER MUSIC
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