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星新一 1001話をつくった人

最相葉月 新潮社 

 星さんには2度ほどお目にかかったことがある。最初は30年以上昔、確か名古屋であったSFフェスティバルの合宿で。2度目は星群祭で。作品も一通り読んでいる。だから小生なりの星さん像を持っていた。星さん個人に関してはノッポの茫洋としたボソッと面白いことをいうおじさん。作品に関しては、ピーナッツかかっぱえびせん。気軽にちょっとつまめる。口に入れるとおいしい。またつまむ。おいしい。つまむ。やめられない、とまらない。本書を一読後、この星さん像が変わった。知らなかったことがいっぱい書いてあった。
 大藪春彦と星新一に接点があったとは知らなかった。星新一はSFファンの小生にとって大切な作家。大藪春彦は好きな作家。かたやSFショートショート、かたや活劇小説。それに大藪は孤高の作家という先入観があって他の作家との交流がないと思っていた。それが星さんと同じミステリーのクラブに所属し、星さんの結婚式にまで出席している。星さんも大藪も江戸川乱歩に見出されたという共通点は知っていたが、これはちょっとした驚きであった。
 星さんの冗談の面白さはSF界では有名。小生も冒頭で書いたSFフェスティバルの合宿にて生で聞く幸運に恵まれた。ファンダムの噂や、またSFマガジンなどに掲載された豊田有恒や平井和正のエッセイで読んだりして知っていた。この星さんの冗談。星さんのその場の思いつきでポンポン出てくるものと思っていた。実は入念な事前の仕込みと準備の賜物とは知らなかった。
 1001篇目のショートショートを書き上げた星さんは悠悠自適の楽隠居をしておられると思っていた。「その後」の星新一は小生にとって過去の作家だった。星さんには充分に楽しませてもらった。星さんはもういいや。それよりも山田正紀、田中光二といった新たに出てきた作家を追いかけるほうが面白かった。正直言うと星さんのことは忘れていた。知り合いに「星さんが危ないらしいよ」ということを聞いて星さんのことを思い出したぐらいだ。本書を読んで「その後」の星さんがそんなに苦しんでおられたとは知らなかった。星さんを「ショートショートの神様」に仕立て上げたのは読者たち。そういう意味では小生も星さんを苦しめた共犯者の一人だろう。その共犯者としていわせてもらえれば「ショートショート」は星さんの仕事量の中で大きな部分を占めているとはいえ、あくまで星さんにとって仕事の一部であって他の仕事と同列だと思っていた。ところが本書を読んで星さんは、一読者である小生が考えている以上に、ショートショートに対して執念を燃やしておられた。知らなかった。
 本書は星新一の評伝であると同時に日本SFの評伝でもある。40年以上SFファンをやっている小生にとって非常に興味深く有益な本であった。
 なお某誌のブックレビューで「本書がSFプロパー以外の人によって書かれたことを寂しく思う」との感想を述べているSF関係者がいるが、それは見当違いではないか。小生も含めてプロダム、ファンダムに関わらずSF界の人間は星さんに対して、なんらかの先入観を持っている。最相葉月さんは生前の星さんには会ったことがなかったとか。そういう人だからこそ本書のような名著が書けたのだ。別にだれが書いても良い本ならいいんじゃないの。こういう排他的な発言はいかがなものか。


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (藍色)
2009-02-26 15:10:26
先日は、トラックバックありがとうございました。
こちらにもさせていただきました。

トラックバックお待ちしていますね。
 
 
 
藍色さん (雫石鉄也)
2009-02-26 15:44:08
トラックバックしました。ちゃんと届いているでしょうか。
この本は2007年度の日本SF大賞です。
この賞は、時々、納得がいかない時がありますが、
この本の受賞は大納得ですね。
 
 
 
これは読みました (アブダビ)
2015-11-25 01:11:07
読後に感じた意外性という点では、
「梶原一騎正伝」に似てました。
 
 
 
アブダビさん (雫石鉄也)
2015-11-25 09:31:12
これは名著ですね。
 
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