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許されざる者


監督 李相白
出演 渡辺謙、柄本明、佐藤浩市、柳楽優弥、小池栄子、惣那汐里

 クリント・イーストウッド監督主演の同名の名作西部劇の日本版リメイクである。舞台を明治初期の北海道に設定してのリメイクであるが、この映画、時代劇ではなく、立派な西部劇となっていた。どこまでも広がる荒野。開拓地にできた集落。食いっぱぐれの荒くれ男たち。日本映画で西部劇を創ろうとすれば、明治の北海道は最適だろう。
 ストーリーはイーストウッド版オリジナルとほぼ同じ。かって、さんざん人を殺めてた男が、剣を捨て、荒野でひっそりと暮らしている。かっての仲間がやってきて、賞金首をいっしょに追おうという。貧しい主人公は子供のため、賞金稼ぎをする。そして町を暴力で支配する警察署長と対立する。
 銃を剣に、保安官を警察署長に変更しただけで、ほとんど同じシナリオといってもいいぐらい。ただ、この映画とイーストウッド版では大きく違う点がある。主人公の設定である。イーストウッド版の主人公ウィリアム・マニーはならず者だった。悪いことをして散々人殺しをして、改心して真人間になった。それに対して、この映画の釜田十兵衛も人をたくさん殺めてきたが、ならず者ではない。ちゃんとした幕臣。侍であった。幕府方の人間として薩長の人間を殺めてきたわけである。いわば戦争で仕事として殺人をして、旧幕府の人間として新政府の役人に追われて、北海道の荒野に逃れてきたのである。マニーと十兵衛では事情が全然違う。
 イーストウッド版に比べて、重厚で非常に暗く骨太な映画になっている。この映画の底に流れるテーマが、敗れた者の哀しみということだ。このテーマはイーストウッド版にはない。
 戊辰戦争に敗れた旧幕府がたの人間が、勝者の薩長の明治政府がたに追われる。北の最果てまで逃げてきても、また剣を取らざるを得ない。大きな哀しみをたたえている。このように過去の歴史を背負っているぶん、この映画の重厚さが際立っている。
 だからこの映画のタイトルは「敗れし者」とした方が、よりテーマを具現化しているのではないか。「許されざる者」では十兵衛が悪いことをしていることになる。十兵衛はマニーと違って、もともと悪人ではない。ただ幕臣であったというだけ。佐藤演じる署長がいっていたではないか。
「記録というものは、勝った方を善、負けた方を悪とするものだ」幕府は負けて薩長が勝ったのだ。
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