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とつぜん対談 第80回 クレーンとの対談

 きょうの対談の相手はクレーンさんです。クレーンといっても工事現場でよく見かける、腕を長く伸ばして、その先端からワイヤーをぶら下げているタイプ。あれはジブクレーンといいます。きょうの対談相手はそのジブクレーンではありません。床上操作式クレーンといって、工場の天井に設置されていて、天井のホイストからぶら下がったペンダントスイッチで操作するタイプのクレーンです。クレーン運転者が操作しながら荷といっしょに移動するクレーンです。小生(雫石)はこのタイプのクレーンの運転資格を持ってます。
 ここは工場街です。ここに1軒の廃工場があります。きょうの対談相手はここにおられます。

雫石
 こんにちは。

クレーン
 ―
 
雫石
 クレーンさん。いますか。

クレーン
 うう。

雫石
 どこにいるんですか。

クレーン
 ここ。

雫石
 そんな隅っこにいなで、こっちに来てくださいよ。

クレーン
 右のほうの柱の横に配電盤があるやろ。

雫石
 はい。

クレーン
 いちばん端のスイッチをいれて。

雫石
 はい。いれました。うん。どうしました。ここまで来てくださいよ。

クレーン
 電源をいれただけやったらあかん。ペンダントスイッチ押して移動させて。あんたクレーン運転の資格持ってるんやろ。

雫石
 あ、そやった。動かします。

クレーン
 ゴゴゴゴ。ジャリジャリ。

雫石 
 妙な音がしますな。

クレーン
 長い間、ほったらかしにされていたから、錆ついてるねん。

雫石
 この工場はなんの工場でした。

クレーン
 最初は食品工場やった。とろろ昆布を作ってた。

雫石
 とろろ昆布みたいなもん作るのにクレーンが必要なんですか。

クレーン
 とろろ昆布の作り方知ってるか。こうするんや。60キロほどの昆布のかたまりを機械に入れなあかん。人力ではムリやからワシが使われるんや。

雫石
 その食品工場はつぶれたんですか。

クレーン
 そや。とろろ昆布作りは職人仕事や。それなのに冗談みたいな給料。すぐ人が辞める。辞めてもすぐ次の人が入ってくる。素人が作るからロクなもんできひん。ただ一人おったベテラン職人が辞めたら会社もつぶれた。やっぱ、人を大事にせえへん会社はあかん。

雫石
 次はなんの会社です。

クレーン
 電機会社や。モーターのコイルを作ってた。 芯になるコアにエナメル線を巻いて、電磁石を作るんや。

雫石
 その会社はなんでつぶれたんですか。

クレーン
 あの会社はつぶれたんやない。解散したんや。借金がなかったから倒産やのうて会社解散や。

雫石
 なぜです。

クレーン
 息子さんがあとを継がなかったからや。

雫石
 その会社が最後ですか。

クレーン
 いいや。鉄工所や。

雫石
 どんな会社でした。

クレーン
 財閥系のM電機の下請けで、通信機器や衛星通信設備の筐体を作ってたね。

雫石
 その会社も解散ですか。

クレーン
 いいや。倒産や。最後の社長が2代目のボンで無能でアホ。M電機のいいなり。M電機を定年退職した連中がでかい顔してええようにしよる。あの会社はM電機のゴミ捨て場やったな。結局、筐体といった機構部品類もM電機の内作になって仕事がのうなったんや。

雫石
 最初は昆布のかたまり。そしてコイル、最後は鉄板、機構部品、あなたはいろんなモノを吊ってきましたけど、最後に吊ったもんはなんですか。

クレーン
 最後の会社の社長の首や。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
ぎゃははは! (アブダビ)
2015-10-20 17:21:28
落ちが最高!
爆笑してしまいました。
とはいえ…東京も大田区周辺には、実は中小企業でも優れた技術を持つ会社が幾つもあったのに…大手企業と投資家だけを優遇する政策の為に、技術を奪う目的だけの中国企業に買い取られたり、倒産してシャッターしてたり…です。
大企業優先の今の安部首相にも問題あるけど、それ以上に前政権の民主が無能すぎたのでしょう。
私はクレーンさんに政治家の首を吊って欲しいですね。
 
 
 
アブダビさん (雫石鉄也)
2015-10-20 20:23:58
日本の製造業を下支えしてきたのは、独自で優秀な技術をもつ中小企業です。
安い労働力を求めて、中国や東南アジアに製造拠点を移す企業が増えています。それに比例して国内の中小企業がどんどん疲弊していってます。
 
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