とつぜんコラム №181 責任は組織か個人か

　電通。日本最大の広告代理店。小生も若いころ、コピーライターの経験もあるので電通には出入りしたことがあったが、小生のごとき下っ端クリエイターにとって決して愉快な会社ではなかった。
　その電通に司直の手が入った。若い女子社員が自殺した。度を越した長時間労働など劣悪な労働環境が認められ、女子社員の過労死自殺が労災認定された。
　厚労省は電通が会社ぐるみ組織全体として、違法な労働を社員に強いていると見たわけだ。これを受けて、電通の現社長が「新しい電通を」などといって反省のそぶりを見せているが、本当に反省したかどうか判断するのは簡単だ。電通の社員手帳を見ればいい。その手帳に「鬼十則」なんてバカなことが書いてあるようだと、電通は本当に反省していないと見ていいだろう。「鬼十則」的なことが、社員に異常な労働を強いているのだ。
　電通は、いま会社全体の非を追求されているわけだが、女子社員を自殺に追いこんだのは、電通という会社だろうが、彼女の直属の上司の責任は問われないのだろうか。彼女にひどい言葉をかけ、長時間労働をせざるを得ない状況に追い詰めた、実行者はその上司ではないのか。もし、彼女の上司が違う人だったら彼女は自殺しただろうか。そう考えると、彼女の死は他殺といっていいかも知れない。非常に間接的ではあるが、これは殺人事件といってもいいだろう。当該上司にもしかるべきお仕置きを施すべきではないのか。
　学校でいじめにあって被害者が自殺。悲しいことだがめずらしいことではない。こういう事件が起きると、学校や教師の責任が問われる。生徒たちの管理に手抜かりがあったのではないかというわけだ。いじめ事件は学校の責任もあるだろう。でも、その子に直接いじめを加え自殺に追いこんだのは、学校でも教師でもないだろう。その子の周辺にいたいじめっ子どもだろう。このいじめっこにも、きついお仕置きをする必要がある。
　過労死にしてもいじめ自殺にしても、組織の責任を問う報道はなされるが、いちばん悪いのは自殺に追いこんだ上司であり、いじめっ子だろう。かような人たちは人格的にいびつなところがあるから、人を自殺するところまで到らすのだ。この人たちにはお仕置きをすると同時に、まっとうな人間になるように教育矯正を施す必要があるだろう。
　学校でのいじめはともかく、会社でのいじめは、加害者個人もある意味被害者の側面がある。部下の業績がそのまま自分の業績になる。こういう場合は会社の責任を追及しなくてはならない。
　電通は反省し、労働環境の改善に取り組むだろう。これを建前だけにしてはいけない。会社の上層部はまことにけっこうなことをいってるが、末端のいうことはまったく違うということが多々ある。
　小生は昔、Ｋ電気では労働組合の副委員長だった。ある年、会社が経費節減といって、ボールペン１本クリップ１個もムダにしないようにとのお達しを出した。総務にかような文房具をもらいに行っても、ごじゃごじゃいって素直に出さない。イヤな思いをするのならと、必要なモノは自腹で買う社員が出てきた。ボールペンなどの安価なモノだけではなく、フロッピーディスク（当時は使っていた）やプリンターのインクリボン、製造現場の人間なら、スパナ、モンキー、半田こて、といった道具治具類まで自腹で買う者も。自腹切りが横行していることは、小生たち組合執行部の耳に入った。
　団交の場で、社内で自腹切りが横行していることを問うた。会社は「必要なモノは遠慮なく請求してくれ」との返答。ほんとうにそうなのか、しばらく総務を観察すると、あいかわらずごちゃごちゃいってる。次の団交でそれをいうと「総務の担当者を指導する」
　電通のこたびのことも社長のいってることと、現場の実態がリンクしているかしっかり見張る必要がある。
　社長はあんなこといってるけど、そんなことでは仕事はできん。と、いって山ほど時間外労働をさせておいて、少ない時間を申告させる。こういうことは絶対に許してはいけない。