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ミュータント狩り(第7回)

          ミュータント狩り(第6回)


   第6章

 エリカの、この一週間は地獄であった。しかし、彼女は彼女のままでいる。精神力が、自分が想像する以上に強かったことも事実だが、女性としての地獄を味わわずにすんだためだろう。
 七日目の朝が来た。ミュータントたちは、エリカに何もいわないが、自分がなんのために誘拐されたのか彼女には判っていた。そして、今日あたりなんらかの結論が出されるころだ。
 鉄格子の外に白い影が現れた。10人のミュータントの中で最も凶暴なアルビンだ。エリカが体験してきた、この一週間の地獄を象徴するのがこいつだ。
 アルビンにとって最大の不幸は、この美しい地球に、汚らしい人類が存在すること。人生最良に日とは、人類最後の1人を自らの手で八つ裂きにする日のことだ。また、彼にとって生きる目的は人類を一人でも多く殺すこと。自分の目にふれる人類を生かしたまま去らすことは、自分の人生を否定することだ。
 エリカを犯して殺す。この行為はアルビンにとって、彼の生き方を示す一つの象徴であり、これからの人生を示唆する行為だ。
 エリカは人類の「善」と「美」を具現化した人物といえる。そのエリカを徹底的に辱め、八つ裂きにし、醜悪な肉塊としてやる。
 うす暗い牢内で、その部分だけうっすらと白い光が輝いているようだ。アルビンの皮膚はそれほど白い。彼は腰布一つの裸だ。エリカはまぶしいとさえ感じた。その白い光の中で二つの真紅のランプが輝いている。アルビンの眼だ。その眼と、彼の股間の異様な膨らみを見れば、いかなエリカとて、自分にどんな出来事が襲いかかろうとしているのか理解できる。
 錠前を解き、鉄格子を開けて牢の中に入ってくる。エリカは思わず牢の隅に寄り身を小さくした。弱い小動物が見せる本能的な行動だ。
 普通のレイプであれば、口の端にでもニヤニヤ笑いをくっつけていただろう。が、残念ながらこれはレイプではない。破壊行為だ。全身が凶器の彼は、もちろんその男根とて例外ではなく。凶悪な凶器だ。
 アルビンは無表情なままエリカに近づく。腰布をとり全裸となった。牢内を照らす白い光が照度増したようだ。凶器がむっくりと頭をもたげ始める。
 エリカはますます牢の隅に身を収縮させる。できることならば、もっともっと小さくなり、この場から消えてしまいたい。顔をそむけているが、片目でチラッとアルビンの方を見た。その目を見て、アルビンは軽い勝利感を味わった。その目は、不幸の味を知らない澄んだ少女の目ではなく、憎しみの光が宿っていた。この娘がこんな目を見せたのは、誘拐以来初めてだ。アルビンの顔に笑みがうかんだ。
 うずくまっているエリカの腕をつかんで立ち上がらせる。彼の凶器はますますエネルギーを孕んで、巨大に膨張していく。
 いきなりアルビンがエリカの衣服をはぎ取った。全裸にされた彼女は、その場にしゃがみこもうとした。その時、ほほに鋭い痛みを感じた。大きな音がしたはずだ。アルビンがエリカにビンタした。横倒しになったエリカをあお向けにして、その場に押さえつけた。エリカは目を固く閉じて、必死で逃れようと動く。アルビンが完全にエリカにおおいかぶさった。
 アルビンの腰が持ち上がった。彼の凶器の長さだけ、アルビンとエリカの腹の間に隙間ができた。その隙間が消えた。何かが破れた。エリカは自分が落ちて行くのを感じた。
 アルビンが立ち上がった。エリカを見下ろす。エリカは股間から鮮血を流しながら、うつろな目でアルビンを見た。彼女は生まれて初めて地獄を見た。
「アルビン、アルビン」
 背中に翼を持つ男がやって来た。鳥人ブーバーだ。
「とうとうやったか。ゼオが怒るぞ。奴らがそこまで来た。行くぞ」
 ブーバーはアルビンの腕を取ろうとした。しかし、アルビンはそれをふり払い、エリカの首すじに手を伸ばそうとした。ブーバーはその行為に殺気を感じた。アルビンの剃刀のような爪を持ってすれば、エリカの頸動脈を切ることぐらい造作もない。アルビンはエリカを殺す。ブーバーは確信した。止めなければならない。しかし、ミュータント・ハンター達がやって来る。それも、あの悪名高いバン・ザックが─。
「やめろ。アルビン」
 3人の後ろから、若い男の声がした。ミュータント達のリーダー、ゼオが斥候から戻ってきた。
 この男ゼオは実力と強力な統率力で、グループのリーダーになっているが、実は純血のミュータントではない。ゼオは人類との混血だ。このことを知る仲間は一人もいない。もし、知られればリーダーの座を追われることはもちろん、グループを追放され、最悪の場合は命まで奪われるだろう。
 その出生のためか、彼は他のミュータントほどには、人類に対する憎悪はない。人類との共存共栄が彼の理想なのだ。
 このゼオの存在によって、エリカはこれまで「地獄」の底を見なくてすんだといえる。また、ゼオ自身もエリカに対して、特殊な感情が芽生え始めているのを自覚している。ミュータントとしては許されないことだ。しかし、体内を流れる血の半分が人類の血であるため、若い健康な男として、若い女性であるエリカに魅かれるのだろう。また、エリカもゼオに好感を持ってる。怪物のようなミュータントの中で、ただ一人姿かたちが人類にそっくりなのがゼオだ。それ以上に、彼がミュータントたちの防波堤となってくれたことを、彼女は知っている。
 ゼオの血が沸騰した。人類の部分の血が─。そのとき彼は、エリカを愛していることに気がついた。凌辱されたエリカを見た瞬間、ミュータントのグループのリーダーであることを忘れ、ただの恋する若い男になってしまった。
 爆発的な飛び蹴りがアルビンを襲った。ゼオの残像が残るほどの、すさまじいスピードの飛び蹴りだ。アルビンはかろうじて逃れた。ゼオの足が壁に当たった。石造りの壁に30センチほどのクレーターが開いた。石の破片が激しく飛び散る。横に飛んだアルビンが貫手を放つ。が、ゼオの反射神経は鋭かった。体勢を立て直し、右手でブロック、左手で閃かした。アルビンの心臓にゼオの左手が突き刺さった。

                                     次回更新 5月23日予定
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