雫石鉄也の
とつぜんブログ
オヤジの宝物
2013年秋。きょうはオヤジの三周忌だ。おふくろは認知症で施設に入っている。もうオヤジが亡くなったことすら判らないようだ。この前、面会に行ったら「あのヒトはきょうはなんで来ない?」なんていっていた。
オヤジが生前使っていた机は、私がときどき、手紙を書いたりするのに使っている。ふと引き出しの奥を見ると古いノートがあった。オヤジの日記だ。きちょうめんなオヤジで毎日日記を書いていた。なにげなく読んでみた。
平成22年9月10日(火)晴れ
今日は結婚記念日なり。大阪のHホテルでデナー。こんな立派なホテルで、こんな豪華な食事は、ワシもY子も生まれて初めて。
メニューを渡されたがよく判らない。どうも牛肉と海老の料理らしい。フランス料理なんかUとこのKの結婚披露宴で食べただけだ。
最初に、気どった若いのが出てきてワインを選べといった。なんでも、そむりえとかいうらしい。ワシ、飲むのは焼酎ばかりでワインなんか判らん。困ってH子さんに携帯で聞いた。H子さんはS夫と結婚する前、レストランでウェイトレスをしていた。
「『おまかせ』といえばいいのよ。お義父さん」こんなホテルのこんなレストランで「おまかせ」なんていって、どれだけお金取られるか判らないけれど、S夫が5万円持たせてくれた。ワシはそんな贅沢はいらん。回転すしでいいといったが、「お父さん、死ぬまでに一度はフランス料理のフルコース食べたいといってたでしょう。せっかくの結婚記念日なんだから」といった。そしてH子さんがこのホテルのレストランを予約してくれた。
満足した。ものすごく美味しかった。さすが国産黒毛和牛のステーキ。たっぷりサシが入ってとろけるよう。海老も美味しかった。ワシらスーパーで売ってるブラックタイガーしか食べたことがない。車海老なんか食べたことがなかった。やっぱりブラックタイガーとぜんぜん違う。車海老はさすがに美味しい。
S夫は親孝行だ。Y子も大満足。こんな立派なデナーを食べさせてもらって、ワシはいつ死んでもいい。
オヤジはその一ヵ月後に卒中で亡くなった。おりにふれて、結婚記念日のディナーの素晴らしさ、美味しさを語っていた。
オヤジは、溶接工で工業高校を卒業して、小さな町の鉄工所を転々とした人生だった。経済的に貧しい人生だった。贅沢といえば、ごくたまに焼き鳥屋で焼酎を飲むぐらいだった。
私も裕福ではないが、なんとか5万円ひねりだして、オヤジ持たせてやった。喜んでもらえて親孝行したと思っている。おふくろも認知が進んでだいたいのことは忘れているが、この時のことは思い出してときどきいっている。この夜のディナーは老父老母にとって宝物となった。
今日の新聞が手元にある。一面に大きな見出し。
老舗の名門Hホテルでも食品偽装。
国産黒毛和牛→脂肪を注入した成型肉
車海老→ブラックタイガー
5年ほど前から、メニューに記載されている食材とは違う食材で調理。
その新聞をオヤジの遺影から見えない所に持っていった。
今日の日記は、フィクションの部分もあります。
オヤジが生前使っていた机は、私がときどき、手紙を書いたりするのに使っている。ふと引き出しの奥を見ると古いノートがあった。オヤジの日記だ。きちょうめんなオヤジで毎日日記を書いていた。なにげなく読んでみた。
平成22年9月10日(火)晴れ
今日は結婚記念日なり。大阪のHホテルでデナー。こんな立派なホテルで、こんな豪華な食事は、ワシもY子も生まれて初めて。
メニューを渡されたがよく判らない。どうも牛肉と海老の料理らしい。フランス料理なんかUとこのKの結婚披露宴で食べただけだ。
最初に、気どった若いのが出てきてワインを選べといった。なんでも、そむりえとかいうらしい。ワシ、飲むのは焼酎ばかりでワインなんか判らん。困ってH子さんに携帯で聞いた。H子さんはS夫と結婚する前、レストランでウェイトレスをしていた。
「『おまかせ』といえばいいのよ。お義父さん」こんなホテルのこんなレストランで「おまかせ」なんていって、どれだけお金取られるか判らないけれど、S夫が5万円持たせてくれた。ワシはそんな贅沢はいらん。回転すしでいいといったが、「お父さん、死ぬまでに一度はフランス料理のフルコース食べたいといってたでしょう。せっかくの結婚記念日なんだから」といった。そしてH子さんがこのホテルのレストランを予約してくれた。
満足した。ものすごく美味しかった。さすが国産黒毛和牛のステーキ。たっぷりサシが入ってとろけるよう。海老も美味しかった。ワシらスーパーで売ってるブラックタイガーしか食べたことがない。車海老なんか食べたことがなかった。やっぱりブラックタイガーとぜんぜん違う。車海老はさすがに美味しい。
S夫は親孝行だ。Y子も大満足。こんな立派なデナーを食べさせてもらって、ワシはいつ死んでもいい。
オヤジはその一ヵ月後に卒中で亡くなった。おりにふれて、結婚記念日のディナーの素晴らしさ、美味しさを語っていた。
オヤジは、溶接工で工業高校を卒業して、小さな町の鉄工所を転々とした人生だった。経済的に貧しい人生だった。贅沢といえば、ごくたまに焼き鳥屋で焼酎を飲むぐらいだった。
私も裕福ではないが、なんとか5万円ひねりだして、オヤジ持たせてやった。喜んでもらえて親孝行したと思っている。おふくろも認知が進んでだいたいのことは忘れているが、この時のことは思い出してときどきいっている。この夜のディナーは老父老母にとって宝物となった。
今日の新聞が手元にある。一面に大きな見出し。
老舗の名門Hホテルでも食品偽装。
国産黒毛和牛→脂肪を注入した成型肉
車海老→ブラックタイガー
5年ほど前から、メニューに記載されている食材とは違う食材で調理。
その新聞をオヤジの遺影から見えない所に持っていった。
今日の日記は、フィクションの部分もあります。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« ジョーズ | 探偵小説の街... » |
自分たちが目に見えないどれほどのものを信頼され任されているか。
まぁ今の世知辛い世の中いろいろあるでしょうけど。
あちら側とこちら側ではいろんな思いがあるんでしょうけど。
でも素敵な結婚記念日だったことには変わりないと思います。
結局、この老夫婦にとっては、いい思い出ですからいいでしょうが、真実を知ったらどうでしょう。
知らないままでいた方が良かったこともあるかも知れません。とはいいつつも、ごまかしはダメですね。ごまかしをやったホテルなどは詐欺ですね。
余りにも安い場合は「まあ、仕方無いな。」と思ってしまうだろうけれど、今回の様に決して安く無い支払をされ、尚且つ「非常に大事なイヴェント」での話しだと、偽装には強い憤りを感じますね。大事な思い出を踏み躙られた様な感じがするし。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。