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苦海浄土 わが水俣病


 石牟礼道子         講談社

 水俣は風光明媚で海の幸に恵まれた土地であった。不知火海では豊富に魚が獲れた。また水俣は企業城下町である。大手の化学工業メーカーチッソ。水俣はチッソでもっている街でもある。昭和30年代に、この水俣に異変が起こった。猫が消えた。水俣は猫がいない街になった。そして人間に奇病が発生する。手足がしびれる、聴覚障害、言語障害、まともに歩けなくなる、意識混濁、狂騒状態、そして死。最初はこの奇病、原因が判らなかった。どうもチッソの工場から出る排水が原因らしい。しかし、それをいうことは水俣でははばかられる。チッソあっての水俣なのだ。
 いっかいの主婦であった石牟礼が故郷で起こった悲劇を克明に記録したのが本書である。しかしこの作品はノンフィクションではない。第一回大宅壮一賞に選ばれるが石牟礼は辞退している。
 本書は水俣の水俣病という現象を記してはいない。本書の語り手は「わたし」石牟礼本人が自分の言葉でこの病気を記している。それは水俣病患者という存在を描写してはいない。「わたし」が山中九平、並崎仙助、坂上ゆき、たちの依り代となって、自らが罹患した病を語っているのである。だから本書で語られる言葉はまぎれもなく真実だ。が、しかし、ドキュメンタリーやノンフィクションでは決してない。石牟礼道子という稀有の文学者を通過して世に出たまぎれもない「文学」である。
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