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生きる


監督 黒澤明
出演 志村喬、小田切みき、伊藤雄之助、藤原釜足、左ト全、中村伸郎

 黒澤の「用心棒」や「椿三十郎」は大好きだが、この「生きる」は評価しないという友人がいる。彼によれば、この「生きる」は黒澤の技巧が走りすぎた。つまり「用心棒」「椿三十郎」も、技巧をこらした映画ではあるけれど、それが前面に出ず、際立った面白さだけが浮き出て、ものすごく面白い映画になっている。それに比べて「生きる」はあまりに技巧がすぎてあざといとのこと。
 技巧がまったく無い映画はない。アマチュアが子供の運動会を、家庭用ビデオで撮っても、それなりに技巧をこらす。黒澤ほどの映画監督になると、もちろん、技巧の限りをつくして映画を撮るだろう。ところがその技巧が表に出すぎてはいかん。タネの判っている手品を見せられるように、興ざめとなる。かといって全く技巧が見えないのは面白くない。
 ようは、映画の画面に出ている技巧をどこまで認めるかが、個人差があるのだろう。友人は、この「生きる」の技巧は出すぎと判断した。小生は許容範囲と見る。従って、小生は「生きる」は大傑作と評価する。
黒澤の「生きる」というと、ラスト近くの、出来上がったばかりの公園で志村喬が、ブランコに乗って「ゴンドラの唄」を歌うシーンが有名。確かにこのシーンも感動的だが、小生は喫茶店で、小田切みきに「課長さんもなにか作ったら」といわれて、志村喬がハッと気がついたあと階段を降りるシーンがある。ここで「ハッピーバースデー、ツーユー」と若い人たちの歌声が聞こえる。小生はこのシーンの方が感動した。ここで志村喬扮する渡辺勘治は「誕生」した。死を目前にして、渡辺は新たに生まれたのだ。
有名な映画だから、お話はよくご存知だと思う。平平凡凡に役所勤めを30年続けている市役所の市民課長渡辺は、自分が末期の胃癌に冒されていることを知る。絶望するが、一念発起して、ものすごい情熱を持って公園作りに取り組む。
志村喬の眼技、眼の演技が冴え渡る。あと、生命の象徴ともいうべき、若い女小田切みきと、快楽へと渡辺を導くメフィストを伊藤雄之助。この3人がいい。名作である。 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (三流読書人)
2008-08-05 15:16:08
ほぼ同感です。
そして映画はエンターテインメントである事。私はこのことを重視します。
書きましたように、宮口清二がたまらないのです。あのヤクザです。
 
 
 
三流読書人さん (雫石鉄也)
2008-08-05 21:51:53
>そして映画はエンターテインメントである事
私もまったく、そのとおりだと思います。
宮口清二、目がすごかったですね。
それからやっぱり、左ト全。とかく重くなりがちな画面に、かろみをつけてアクセントになってましたね。
 
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