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とつぜん対談 第61回 走る男との対談

 うう、さむ。寒いです。寒いけど、いいお天気ですね。あ、どうも雫石鉄也です。ここは運動公園です。私は別に運動なんかしませんが、今日の対談相手が、ここで待つようにとの指示です。なんでも一日中走ってる人だそうです。走る人です。マラソンしながら対談しようとのことです。私はマラソンなんてしませんから自転車で来ました。
 あ、来ました。うわっ、まぶしい。太陽の光が反射して、お顔がよく見えません。ああ、とまりません。

雫石
 あ、ちょっと待ってください。お話を。

走る男
 とまらんぞ。いってあるだろ走りながら話そうと。

雫石
 まだ、ごあいさつもしてませんが。

走る男
 あいさつなんかいい。ついて来い。

雫石
 うわああ。えらいスピード。自転車でついて行くのもたいへんだ。待ってください。

走る男
 待たん。俺はとまると死ぬんだ。

雫石
 お名前もまだ聞いてませんが。

走る男
 走る男でいい。

雫石
 では、走る男さん。なぜ走るんですか。

走る男
 聞いてなかったのか。俺はとまると死ぬ。

雫石
 では、ずっと走ってるんですか。

走る男
 そうだ。

雫石
 生まれてからずっと走ってたんですか。

走る男
 そうだ。

雫石
 食事や睡眠は?

走る男
 もの食う時と寝るときだけとまる。

雫石
 それ以外のおきてる時はずっと走ってるんですか。

走る男
 そうだ。

雫石
 疲れないんですか。

走る男
 俺はとまって休憩すると疲れるんだ。

雫石
 走ると元気になるんですか。

走る男
 そうだ。おれは走ってエネルギーをたくわえてるんだ。

雫石
 どこへ向かって走ってるんですか。

走る男
 俺にも判らん。

雫石
 いまは西に向かってますね。ずっと西に走ってるんですか。

走る男
 けさ目覚めたときに西に向いてた、だから西に走ってるんだ。

雫石
 あ、このまま行くと行き止まりですよ。

走る男
 そうか。だったら南か北へ行けばいい。逆戻りしたっていいんだ。

雫石
 ようは、走る方向はどこでもいいんですね。

走る男
 そうだ。

雫石
 ところでとまると死ぬといいましたが、死なないために走ってるんですか。

走る男
 そうだ。

雫石
 仮にとまっても死ななければ、どうします。

走る男
 それでも走る。

雫石
 また最初の質問ですが、なぜ走るんですか。

走る男 
 俺は走る男だからだ。

雫石
 走る以外の人生は考えないんですか。

走る男
 そんなこと聞かれたって、俺は走る人生しか知らんから判らん。

雫石
 走る以外にも人生は楽しいことが色々ありますよ。

走る男
 そうか、だったらあんたがその人生を送ればいい。俺は走るだけでいい。

雫石
 家はあるんですか。ご家族は?

走る男
 俺の家は道路だ。家族はない。

雫石
 そんなんでさみしくないんですか。

走る男
 あんたには家と家族はあるんか。

雫石
 あります。

走る男 
 さみしくないな。

雫石
 もちろん。

走る男
 あんたは走るか。

雫石
 いいえ。

走る男
 走らなくって、さみしくないんか。

雫石
 べつに。

走る男
 あんたには家と家族。俺には走ること。それでいいんじゃないのか。

雫石
 ところで、自転車をいっしょうけんめいこいでも、なかなか追いつけません。お顔が見えませんが。

走る男
 俺には顔なんかない。

雫石
 そんなこといわずに顔みせてください。

走る男
 少しだけスピードを落としてやる。

雫石
 ありがとうございます。ああ、あなたは―。
 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
お願いします (はる)
2014-01-18 14:09:06
長い一日が明けましたね。
言葉が続きません。

走る男…もしかして、メロスさんでしたか?
朗読させていただきたいのですが。お願いします。
 
 
 
はるさん (雫石鉄也)
2014-01-18 15:40:12
阪神大震災、きょうから20年目となります。
あの地震も、ふた昔も前になりました。
あの地震の記憶を風化させないよう、語り継いでいくことが、私たち被災者の責任だと心得ます。

「走る男との対談」朗読OKです。楽しみにしてます。
 
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