雫石鉄也の
とつぜんブログ
二流小説家
デイヴィッド・ゴードン 青木千鶴訳 早川書房
タイトルの「二流小説家」とは主人公ハリー・ブロックのこと。ハリーはミステリー、SF,ポルノ、バンパイア小説をいくつものペンネームを使い分けて書いている作家。作品数は多いらしいがまったく本は売れない。
作中作として、ハリーが書いたSF、ミステリー、バンパイア小説が随所に載るが、いずれもそこそこのモノだ。注文に応じてエンタティメントをいかようにも書き分ける。小生、見る所、ハリーは「二流小説家」というより「職人作家」と見た方がいいだろう。
そのハリー、小説だけでは食えないから家庭教師のアルバイトをやっている。教え子は女子高生クレア。このクレア、ただの教え子ではない。ハリーのビジネスパートナー。スケジュール管理から、出版社との交渉、執筆の督促、マネージャー兼秘書のような仕事をする。勝気で口が達者で頭の回転も速い。ハリーの家庭教師は必要ではないかと思うほどの、ある意味スーパー女子高生。中年のさえない作家と聡明な女子高生のコンビである。このクレアのキャラクターがなかなか魅力的。
このハリーに思わぬ人物から執筆依頼が来た。依頼人は連続殺人犯で近く死刑になるダリアン。刑務所に面会に行く。ダリアンにも文通している女性が複数いる。その女性たちにインタビューして、彼女たちを主人公にポルノを書いてくれ。また今までの人生を告白するから、それを本にしてくれ。全米を震撼させた猟奇殺人犯の告白本だ。出せばベストセラー間違いなし。ハリーはクレアにもせっつかれ、ダリアンにインタビューを重ね、文通相手の女性たちとも面会して筆を進める。
ハリーが告白本の準備をしている最中、また連続殺人事件。それは12年前にダリアンが起こしたとされる連続殺人とそっくりの凄惨極まりない殺人事件だ。ダリアンは刑務所の中。犯人はだれだ。また、その犯人が12年前の真犯人だったとするならダリアンは無罪か。
死刑直前の犯人は無罪か。だったら真犯人はだれだ。ミステリーとしての定番の興味で、読者をひっぱりつつ、ハリーとクレアの気弱中年男と勝気女子高生のコンビのかけあいの面白さ。元ガールフレンドでハリーの同業者ジェイン、被害者の双子の妹で遺族のダニエラ。ハリーはダニエラと行動をともにする。このダニエラとクレアのハリーをはさんでの微妙な関係。ハリーの母とダリアンの母の対比。人物造形の面白さもさることながら、判ってはいるけどだまされるどんでんがえし。それにアクセントとして挟まれるハリー作の小説。手を変え品をかえて読者のご機嫌を取り結んでくれる。
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