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解錠師


スティーブ・ハミルトン 越前敏弥訳       早川書房

 この物語は二十歳代の青年の独白である。主人公マイクルの10代は、絵と錠前、そしてアメリアが青春のすべてだった。
 8歳の時、ある事件を経験したマイクルは「奇跡の少年」と呼ばれる。それと同時に大きなハンデを負う。
 孤児のマイクルはミシガン州ミルフォードの伯父に育てられ、その地の高校に通う。絵と錠前が大好きな少年だった。ある日、高校の悪友たちに誘われ、マーシュの家にいたずらするために忍びこむ。マイクルだけ捕まる。保護観察処分となり、マーシュの家で更生のために労働をする。そこでマーシュの娘で絵に才能を発揮する同い年の少女アメリアと出会う。
 富豪と思われたマーシュは、実は危機をかかえていた。その危機を救うため、マイクルは、ある男に会いに行く。その男「ゴースト」がマイクルの師匠である。錠前破りの師匠だ。ゴーストに鍛えられたマイクルは解錠師として一人前となり。複数のポケットベルを持ち、フリーの解錠師として、窃盗団に頼まれ、金庫破りを行う。
 金庫破りという非合法な特殊技術を身につけた、寡黙な少年の成長と青春の物語である。ハンデをかかえた天涯孤独な少年が、大人の犯罪者に混じって危ない橋を渡る。死を覚悟する時もある。そんな時、まず脳裏に浮かぶのは恋人アメリア。
 一人前の解錠師になる前と、プロの解錠師となってから。マイクルのこの二つの時間を行ったり来たりしながら物語は進む。解錠師という非合法な仕事の少年が主人公なのだから、犯罪小説といえる。でも、金庫破りはマイクルの生きるための手段に過ぎない。マイクルの生きる目的はあくまでアメリアへの愛。この物語は、犯罪小説よりも純愛物語として読んだ方がいいだろう。
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