日本各地に、高地トレーニングの施設が作られるようになりました。その一つに、長野県東御市で高地トレーニング施設が本格的に稼働しています。標高に1730mに敷かれた400mトラックは、国内最高峰にあります。トップ選手が早速合宿を組むようになっています。また、長野県小諸市には、標高2000m地点に4kmの林道があります。この林道を利用した駅伝やトライアスロンの選手は、延べ4千人が練習に訪れてるのです。高地トレーニングとは、平地より酸素量が少ない環境下で練習を重ね、持久力向上を目指すものです。1968年のメキシコオリンピック大会以降、注目されたきた有酸素能力を強化するトレーニング方法です。多くの試行錯誤を繰り返しながら、進歩してきたトレーニングともいえます。今、このトレーニングをする地域が、注目を集めるようになっています。
そこで、高地トレーニングの施設が注目を集める理由を考えてみました。このトレーニングは、酸素の薄い環境である程度の負荷をかけた練習をします。低地より酸素が薄く、疲労しやすい環境において、わざわざ練習をするわけです。ヘモグロビンを含む赤血球の寿命は、120日程度です。高地では、この赤血球が速く壊れ、壊れれば速く再生されるようになります。壊れた赤血球は、以前より多い赤血球を再生しようとします。そのために、通常より大目に鉄分を補給しなければ赤血球の再生速度に間に合わなくなります。高地では、低地以上に栄養と練習メニューを考慮しなければなりません。食事では、鉄分やビタミン類を平地より意識的に大目に取ることになります。高地では、交感神経が緊張する状態が続くため、睡眠が浅くなる傾向になります。疲労を十分に取るためには、平地より睡眠時間を1時間程度多く取ることが必要です。十分な鉄分補給と睡眠、栄養を上手に取ることができれば、以前より有酸素能力は高まることになります。逆に考えれば、このような悪い環境に耐えることができれば、どのような状況の大会でも力が出せるようになるわけです。
高地トレーニングの施設が、強い長距離選手を育てるために必要であることはわかりあした。でも、この施設を使う時期は、7~9月ごろのみ大学や実業団の合宿でにぎわうだけになっています。高地トレーニング施設の運営者は、7~9月以外の時期にも集客を行いたいという希望があります。選手の高地トレーニングは、年間計画の中である程度決まった時期に行うことになります。箱根駅伝や実業団駅伝大会は、冬季に行われます。この期間は、テレビ局と大会契約も行われており、各選手や学校、そして実業団が集中的に大会に臨むようになります。8~9月は、その基礎的体力や走力を底上げする時期になっているわけです。簡単にいえば、多少負荷をかけて練習をしても良い時期ともいえます。でも、8~9月だけでは、施設側がコスト的に運営できないのです。通年で、利用客が来る仕組みを作ることが求められているわけです。
そこで、再度深掘りをしてみました。東御市も小諸市も、空いている期間を市民ランナーにも利用対象を拡大したいと考えています。首都圏からのアクセスも良いことから、市民ランナーの利用を歓迎しているのです。担当者は市街地に宿泊し、日帰りで高地での走りを楽しむといった流れをつくる考えのようです。一般に、高地トレーニングは、3週間以上練習を続けないと、効果が現れないとされてきました。ヘモグロビンを含む赤血球増減は、有酸素運動に関係しています。この赤血球が壊れ再生されるには、時間がかかります。そのため、日帰りの練習にメリットがあるのかという疑問がありました。
最近の高地トレーニングの知見は、この疑問を解消してくれました。数日の高地滞在でも、持久力やパワーをつけることは可能だという見解になってきています。酸素の薄い環境でのレーニングは、体内のミトコンドリアの活動を活発にするのです。この環境でのトレーニングは、平地に戻った際に筋肉の働きを良くするのです。専門家も「リスクを理解して活用すれば、高地トレは短期間でも効果がある」と話しています。日本での市民マラソンは、数え切れないほど開催されています。その中で、フルマラソンを3時間以内で走る人(サブ3)や4時間で走る人(サブ4)が話題になります。その走力を付けたい人達が、高地トレーニングに触手を動かすのは自然な流れです。少しでも速く走りたいという欲求が、ランナーには生じます。この欲求を、リスクが伴うけど、速攻で満たす魅力が高地トレーニングにはあります。
まず、市民ランナーの上位選手が一つのターゲットになるでしょう。これらの市民ランナーの選手を対象にした競技会を、年に何回か開催することも面白いかもしれません。もう一つは、海外の市民ランナーが、ターゲットになるでしょう。中国のマラソン大会は、急増しています。延べ500万人が、各地のマラソン大会に出場しているようです。この500万人の中には、走力を高めたい方もいるはずです。施設の整った高地で、効果的トレーニングを体験してもらってはどうでしょうか。中国でツアーを組んでもらって、日本で練習、もしくは競技会に参加してもらうわけです。走力を上げるためには、持久力の維持向上がかかせません。東御市は、冬場はスキー場となる斜面や林を整備して複数のランニングコースを作ったようです。冬はこのコースを、クロスカントリースキーの会場にするのです。中国の方は、距離スキーに慣れていません。でも、冬季のオリンピックが中国で開かれます。いずれ、クロスカントリースキーの醍醐味が分かるようになります。夏は高地トレーニング、冬は距離クロスカントリースキーで走力や持久力を鍛えてほしいものです。もちろん、施設の利用は通年を通して行われるようになるでしょう。