欧州では秋に入って新型コロナウイルス感染の第2波が広がり、死亡数も増え始めています。フランスなどでは、全土でロックダウンを行うことになるようです。EUの統計では、15万人以上の死者が出ています。アメリカ疾病対策センターは、予想される死者数を実際の死者数が上回る「超過死亡」を発表しました。超過死亡が、今年1月下旬~10月上旬の累計で約30万人に上ったと発表ししています。黒人やヒスパニックは白人と比べ、感染者の比率や感染後の致死率が高いという特徴があります。人種別では、白人の超過死亡の割合が11.9%だったのに対して、ヒスパニックが53.6%、黒人が32.9%.アジア系・先住民が28.9%と顕著な差が表れたのです。人種間には、日常的に受けられる医療サービスや就業形態の違いがあることがわかります。新型コロナウイルス感染は、世界の国々に関する表面的な知見だけでなく奥深い部分まで教えてくれます。
新型コロナウイルス感染症が始まると中国についで、北イタリアが最初の感染爆発の地となりました。そのイタリアの主要都市ミラノは、新型コロタウイルス禍でいち早く都市封鎖を行ったのです。ミラノ市には、感染症に関する苦い記憶があります。中世で猛威を振るった黒死病(ペスト)の時に、ミラノは積極的に都市封鎖を行いました。中世において、イタリアの他の地域での流行を知ると、ミラノはいち早く城門を内側から封鎖したのです。ミラノは城門を内側から封鎖した結果、黒死病を免れたという歴史を持っています。でも、良いことだけではありませんでした。10年後に、再びペストがイタリアで流行したのです。今度は、子どもが主な感染者でした。城門を閉鎖したミラノでは、子どもだけでなく大人にも感染していったのです。ペスト菌への免疫がなかったミラノの子ども達や大人たちが、感染をしてしまったのです。
検疫や都市封鎖という重々しい言葉も、ヴェネツィアやミラノの歴史とは関わりが深いものあります。ヴェネツィアは、海上都市として貿易で栄えていました。中世から近世にかけて、ヴエネツイアをなどのイタリアの都市は、交易の中心地でした。この都市には、大きなガレー船が小アジアやエジプト、黒海から入港していたのです。ここには、交易の中心地として異邦人やもの珍しい物産、金銀財宝が流れ込んできました。一方、ヴェネツィアには金銀だけでなく、しばしば疫病がやってきたのです。当然、都市としての対策を取ります。1374年、ヴェネツィア共和国は、感染した船を港から閉め出す権限をもつ臨検官を3名任命します。この都市に入港する前に、船を30日間係留したのです。その上で、伝染病が発生しないことを確認させた上で、入港を認めました。その後、それでは期間が短いというので、40日間の係留となり世界初の検疫体制ができたわけです。蛇足ですが、40を意味するイタリア語が検疫の語源になっています。
それでは、黒死病として恐れられたペストはどこから来たのでしょうか。1253年に、モンゴル軍は中国南部の雲南地方などに侵攻しました。中国南部の雲南地方は、もともとペストが風土病として存在していたところです。この遠征軍が北方に戻る時に、ペスト菌も持ち帰ったというわけです。モンゴルは、ユーラシア大陸の東ヨーロッパから中国や朝鮮までを支配し交易を盛んに行っていました。ユーラシア大陸の東ヨーロッパからの交易とともに、疫病もグローバル化しいくことになりました。中国からカスピ海にかけて、疫病の大流行の痕跡が発見されてきています。シルクロードにある墓地の調査では、1340年前後に異常に高い死亡率が見られるのです。小アジアやエジプト、黒海から入港とともに、ヨーロッパのイタリアに疫病もやってきたわけです。蛇足ですが、現在、モンゴルなどの中央アジアのげっ歯類は、ペストの保菌動物とされています。中央アジアのタルバガン(リス科の哺乳類)というジリスを食べたり触れたりして、発症する人の事例が時々報道されることがあります。
新型コロナによる日本の超過死亡は、アメリカやヨーロッパに比べて少ないのです。東京都の4月の死亡数は10107人で、平年より1056人と1割以上増加していました。埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡の計7都府県も、平年より1割以上増えていたのです。でも、超過死亡数は3月末から4月初めが最も多く、5月から6月はほぼ平年並みに戻っていたのです。日本のこの数年の死亡者数は、130から140万人で推移しています。年間の死亡数は、2019年が前年より1万9千人増えて約139万人となっていました。2019年上半期の死亡数は約70万7千人でした。今年はコロナ過に遭遇したにも関わらず、約69万人と減少しているのです。「超過死亡」数の合計は、過去3年に比べて少ないことが厚生労働省研究班の推計で分かったことです。日本の医療体制が素晴らしいのか、日本の民度が高いのか、その両方の相乗効果で超過死亡を克服しているのか、解答があれば知りたくなります。
新型コロナウイルス禍で、WHOは、パンデミックとインホデミックを警告しています。全世界的に広がる流行病を、パンデミックと言います。インホデミックとは、誤った情報が蔓延して社会に害を及ぼす事象です。原因の分からない疫病による大量死が起こると、噂や思い込みが飛び交うようになり社会不安を引き起こします。中世の黒死病が流行した時には、人々は妻も夫を顧みなくなりました。この流行が起きると、父親や母親が子どもの世話をするどころか、逃げていくのです。人が死ぬと、大きな穴に遺骸を荷物のように何層にも重ねて埋葬していきます。使用人は、法外な金で病人の面倒を見るのですが、彼らも病気に患って死んでゆくのです。人が死ぬと、しめやかにお弔いするのではなく、集まって大笑いして馬鹿騒ぎをする死の舞踏が起きることもありました。生死にかかわる状況の中で、人々は異常な心理状態になることが多いのです。
最後に、パンデミックのような異常事態を冷静に過ごす方法を考えてみました。ある意味で、今回の新型コロナウイルス感染後を平常な形で過ごす新しい仕組みです。外出自粛の副作用は、身体的にも精神的にも、そして社会的にもかなりのダメージを人々に与えます。死者を5000万人も出したスペイン風邪では、後遺症としてうつ病が増えたと言われています。インフルエンザウイルス感染後、うつ病になったというわけです。そのメカニズムは、インフルエンザウイルス感染によりインターフェロンなどのサイトカイン類が産生されることから始まります。サイトカインは、免疫システムで働く小さなタンパク質のことです。免疫システムで働く小さなタンパク質が産生され、それらの神経作用で「うつ」になるという説が有力です。うつ病になる原因は、セロトニンやノルアドレナリンが脳内で放出量の減少するためです。セロトニンの働きが活発なことは、ストレスや不安に対する耐性を強化することになります。必須アミノ酸の一つであるトリプロトファンは、脳内でセロトニンになります。バランスの良い食事が、大切と言われる所以です。最近は、腸内細菌や運動の相互作用にも注目が集まっています。セロトニンを効率的に産生するメカニズムが、食事、腸内細菌、運動の相互関係で作られるという説も出てきています。コロナ過の情況では、ストレスが蓄積します。ストレスの発散にも、運動や食事は効果を発揮します。この情況を、明るく切り抜けたいものです。