原材料の高騰が続いて、製品価格の値上げが相次いでいます。企業にとっては、厳しい状況が続きます。そのような中で、売り上げも利益も上げている企業があります。食品業界では、相次ぐ値上げが続いています。現在の状況は、食品の消費が二極化していることに特徴的があります。割安な商品への需要が根強い一方、新しい価値を訴え消費者をひき付ける商品の存在もあります。1年前からの売れ行きの変化を調べると、高価格へのシフトと増収を両立する企業も約3割もあることがわかります。値上がりした商品でもどんな条件がそろえば、消費者の購買意欲を高められるのか。厳しい状況の中で、勝ち抜くマーケティングとどんなものか。コロナ過やウクライナ戦争などの渦中で、勝ち抜く販売戦略について考えてみました。
値上げへの抵抗感が強い中、あえて高い商品を選ぶ消費者も目立つのはなぜなのか。この疑問に応える企業が、「味の素」になるようです。この企業は、消費者への情報発信に力を入れました。チャンネル登録者数300万人超のユーチューバーと連携し、健康に良い減塩などの情報を発信したのです。加えて、自宅で食事する機会が増えた人に向けて美味しい料理のできるレシピを伝える工夫をしました。原材料高でコストが増える環境下で価値を伝え、その流れの先に値上げを行ったわけです。その結果、高価格帯の販売割合が高まり、味の素の売上高は前年同期比10%増えました。また、「ヤクルト1000」のヒットも注目を集めました。睡眠の質の向上やストレス緩和を掲げた新商品でした。希望小売価格が税別150円と、従来品より70円高い「ヤクルト1000」が飛ぶように売れたのです。訪問販売を担当するヤクルトレディが顧客に特徴を伝え、「口コミが広がって人気が出た」といわれています。食品企業が勝ち残っていくためには、消費者の懐事情を考慮しながら、消費者の求めるものをいかに提供できるかが勝負になるようです。
消費者の心をつかんでいるお店に、「セカンドストリート」(セカスト)があります。このセカストは、国内に800店近くを展開している中古チェーンになります。物価高が続き、個人消費への逆風が続くなかでも、買い物は生活の中の大きな楽しみになっています。安さやその他のプラスアルファの条件がそろえば、ショッピングに出かける意欲が生まれるものです。買いやすさや選ぶ楽しさも、ショッピングの意欲を高める重要な要素になります。さらに、環境に優しいとなれば、買い物をする「大義名分」が高まるということです。中古品の販売には、この安さや買いやすさ、選ぶ楽しさ、そして、環境に優しいという要素が含んでいます。でも、中古品には、不用品で,暗い、汚いという負のイメージがありました。この負のイメージを克服できれば、大きな市場を形成できることになります。女性にとって、「清潔」は非常に重要な要素になるようです。見た目や雰囲気も含めた「清潔感」が大事になるというのです。セカストは、10年以上前から白の内装など清潔感を演出することに努めてきました。この清潔感が、若い女性のニーズをつかんだようです。古くても新鮮というトレードオフの関係を解決する中古店は、これからのビズネスを牽引するものになるかもしれません。安い買い物で満足できる生活をし、時代の要請に沿った生き方をし、節約したお金は社会に還元できれば、個人も社会も、そしてお店もウインウインになります。
南米チリの砂漠に、「衣類の墓場」とも呼ばれる光景が広がっています。この砂漠には、世界中から着古した衣類が集められて不法投棄されているのです。衣類の年間生産量が、2000年には500億着の多さになりました。それが、2014年には1000億着に達してしまったのです。世界は、過剰な衣服で溢れる状況になりました。売れ残ったり、寄付されたりした衣類が、欧米やアジアなどからこのチリの砂漠やアフリカの砂漠に運び込まれるようになったのです。ジーンズ、シャツ、セータ、靴下などが、「山」のようにいくつも存在するのです。衣類の破棄による環境汚染は、大量生産や大量消費を見直し、「持続可能なファッション」の必要性を訴えています。衣料品関連の温暖化ガス排出量は、2018年に約21億トンになり、世界全体の4%を占めるまでになりました。砂漠の汚染と温暖化という負の連鎖を起こしているわけです。
服は自分の個性を表現するものなので、基本的には、自分が好きな服を着ればよいことになります。でも、服装をセンス良く着こなしたいと希望する人びとが、多数派のようです。センスが良い着こなしとは、自分の体型や年齢、立場を考慮している人に見られます。このセンスの良い人々は、時代の空気がどのように流れているのかを把握しているようです。もっとも、空気をつかむだけでは、良い着こなしはできません。例えば、ヒールの高いパンプスは安定感がないので、はきこなすのに時間がかかります。高価なパンプスを履きながら、腰を落として、膝を曲げて歩いている姿はみすぼらしいものになってしまいます。センスの良い着こなしには、一定の知識と身体の訓練が必要になります。スタイルを部分だけではなく、スタイル全体を評価する視点が必要になります。この発想をさらに進めていくと、ファッションやスタイルの先にある持続可能な地球環境の保全にまでに及んでいくことになるかもしれません。SDGsの17の目標の12番目には、「つくる責任 つかう責任」があります。服の個性を表現すると同時に、地球の持続可能性にも配慮が求められる時代になっているようです。安易に、使い捨てにしない服装への配慮も、これからの知性になるのかもしれません。
最後になりますが、19世紀ごろ、スポーツを楽しむ活動的な女性が増え始めました。彼女たちには、コルセットをはずした服装が取り入れられ始めました。でも、このスポーツの服装は、長い裾を引きずって装飾を施した重い衣装でした。この重い服装を変えたのは、第一次世界大戦だったのです。多くの男たちが、兵士として戦場に行きました。その不足分を埋めるために女性たちは、労働に従事することになります。戦争が、いわゆる国家の総力戦になった時期です。工場で働くためには、裾を引きずった長いドレスは無用のものとなりました。バスに乗り工場や職場に通う女性たちには、ごてごてした装飾は必要なかったのです。時代は、贅を尽くした装飾的な衣装から、快適で動きやすい服装へと変わりはじめました。ファッションが、戦争を含む社会的変化や経済的影響により、大きく変化してきた事例になります。そして、現代社会になります。現代社会は、複雑で多様化しています。時代は大量消費を促すサイクルから、地球に優しい再利用のシフトに移行しています。衣服も大量生産・大量消費の時代から、多品目少量生産に移行し始めています。そこには、新しい発想や創造性が発揮される場が用意されています。ファッションの世界は、他の分野に先駆けて時代を先取りしてきました。自立心、社会の動向、時代の流れが、三位一体の形で着こなしの中に凝集化される時代になっています。ファッションや化粧品のブランド品が、贅沢品としてではなく、日常的に使われています。このファッションの動向に、環境に優しいという要素が色濃く入ってきています。先見性のある企業は、時代の流れをキャッチして、逆風の中でも、売り上げを上げ、利益をあげる工夫をしていくことになるようです。