世界人口は、2050年には90億人に達すると予測されています。この人達の生きていく上で欠かせない食料を供給する農業が、重要な役割を担います。30年後の5割増産は、ハードルが高いようです。アグリテック(農業とテクノロジーの合成語)の飛躍が、この課題達成の鍵を握っています。需要と供給格差の「「フードギャップ」を解消するには、農業生産を5割以上も上積みする必要があるのです。30年後の5割増産のハードルは、依然として高い課題になります。
人類は、20世紀以降、食糧生産において成功を修めました。「緑の革命」で、生産量を飛躍的に増大させたのです。この革命は、化学肥料や農薬の開発、そして灌漑施設や農業機械を駆使して成し遂げました。緑の革命は生産を大幅に増やし、人びとの飢えを軽減することに貢献しました。でも、土壌や水資源への汚染を促すこともしてしまったのです。今また、異常気象や干ばつなど世界の食料供給に及ぼす悪影響が懸念されています。水質などに不安がある中で、安心して食べられる農産物の生産が求められています。農業は、人間が健康に生きていける最低限の作物をいかに生産するかという課題に直面しているのです。
自然と向き合う農業で、生産性を大きく高めるとと期待されているのがドローンです。イスラエル軍の技術関連の精鋭部隊出身者が、設立したドローン会社があります。この社の特殊カメラの付いたドローンは、作物の葉一枚一枚まで判別する画像を高速で撮影することができます。時速200kmで自動飛行する小型飛行機は、品川区より大きい地域の画像を1時間で取得するのです。画像をAIが分析し、必要な場所だけに農薬の散布を指示するために、減農薬につながり、収獲も保証されます。日本のドローンも、負けてはいません。指定した農場の範囲内をGP Sを活用し自動飛行し、農作物の生育や害虫の発生状況を把握します。ドローンで撮影した画像データを解析し、農場で病害虫の発生箇所を特定することができます。もちろん、収獲にも貢献しています。
ケンブリッジ大学は7月機械学習を使ってレタスを自動で収穫すべジロボットを開発しました。レタスの状態が良く、収穫するタイミングを迎えた作物だけを識別し、傷をつけずに収穫できます。ほかの果物や野菜も収穫できるロボットを、開発中だということです。他方、アメリカのお話になります。カリフォルニア州の海岸沿には、イチゴの栽培が盛んな地域があります。ここの植物工場は、巨大で効率的な仕組みになっています。24本のアームとカメラが付いた機械が、成熟具合を識別して器用にイチゴを収穫します。イチゴがロボットのカメラから見える位置にあれば、収穫の正確性は人間よりも高いのです。このロボットはいつでも稼働し、東京ドーム1.7個分の土地のイチゴを3日で収穫してしまう優れものです。
次世代農業の柱とされながら、半数以上が赤字とされる植物工場の現実があります。中には、大量の水を使う負担の大きい水耕栽培の装置を導入せずに、利益を上げる植物工場もあります。神奈川県平塚にあるメビオールは、面白い植物栽培システムを採用しています。水や養分だけを通す特殊なフィルム使って、トマトを栽培しているのです。このフィルムは、病原菌など有害なものを通さないため、水替えなどのメンテナンス作業は必要ありません。灌漑設備が不十分な地域や水の汚染が進んでいる地域には、適した農業システムになります。2014年から、アラブ首長国に5000平方メートル規模のグリーンハウスを展開しています。また、2015年には、上海近郊などでも導入されました。
農業に、先端技術を活用する「アグリテック」が注目をあびています。アグリテック関連する起業への投資額は2018年に約70億ドル(7450億円)になりました。この分野への投資は、加速度的に増えており、2017年と比べ伸び率は4割と過去最高になっています。アグリテック関連する起業への投資額は、2018年と5年前を比較すると4.6倍の増加にもなるのです。人類の未来を左右するアグリテックの分野に、世界の頭脳とマネーを引き寄せられているようです。この関連分野には、ビッグデータやA I技術の普及により各地で起業が次々に誕生しています。この分野は、究極の効率化と安全性を目指しています。これが、行き着く先は無人の精密農業になるかもしれません。ロボットが、種を蒔き、肥料や農薬を使い、最適なタイミングに収穫し、消費地に配送までやってしまうようになるような気がします。種まきから配送までは、IoTで生産者と卸業者と消費者に流れが分かるようになっているかもしれません。作物の成長途上で、販売契約が結ばれることも夢ではないでしょう。
余談ですが、植物工場には多くの電力を必要とします。植物には、再生エネルギーが合います。ドイツは、再生エネルギーが盛んな国です。そのドイツでは、全再生エネルギーの電力の3%が余剰になって、捨てられているのです。日本でも、九州電力などではこの問題を抱えています。ある再生エネルギー事業者は、風力発電の余剰電力を蓄電して活用するシステムを実証実験で成功しました。これが、本格化すれば、面白いことになります。掃除ロボット「ルンバ」の生みの親は、草刈りを自動化するAIロボットを開発しました。太陽光で蓄電し、各種センサーで障害物や植物を避けながら雑草を刈り取る優れものです。AIが優れたもので、機体に柔軟性があれば、野菜や果物の収穫も可能になります。再生エネルギーの電力を蓄電されていれば、そこで充電したロボットが、人間に代わり農作業をする姿も夢ではないでしょう。