2022年のサンマ漁が、7月上旬に北海道で解禁されました。このサンマ漁は、小型漁船の流し綱漁になります。このサンマ漁は、サンマの季節到来を告げる夏の風物詩になります。初サンマは、北海道で水揚げされ、釧路市の卸売市場で7月14日に競りが行われました。獲れたサンマは、なんと24匹だけだったのです。この24匹の重さは、2.5kgで、1kgが6万2千円になり、過去最高の値をつけたのです。これを競り落とした釧路の水産卸商店が買いつけ、東京の豊洲市場や札幌市場に出荷しました。豊洲市場では、7月15日に初サンマが入荷しました。入荷したサンマは、1.1kg(10匹)で、卸値は1kgが12万円(1匹1万3200円)になったのです。豊洲市場の担当の方は、数年前は最初の水揚げが数十kg単位だったと話しています。今年のサンマは、数が少なく、そして小ぶりになっているともつけ加えていました。
サンマ漁は例年、まず流し綱漁が7月上旬に解禁されます。そして、8月になると大型漁船で沖合までサンマの群れを求めて出漁する棒受網漁が解禁され流れになります。昨年は、流し綱漁ではほとんどサンマが獲れなかったそうです。今年は、水産庁の長期漁海況予報によると、8~12月に日本近海に寄りつく量は2021年を上回るということですが、漁業者の生活を支える状況には程遠いようです。沖合などに行く場合、漁場が遠くなり、漁船の燃料代がかさみ、1日に数百キロ単位でとれないと採算が合わないのです。2021年よりサンマの来遊量が増えても、経済性を考えて出漁しない選択をとる事業者が出てくるようです。増えても、1日数百キロの捕獲が難しい場合、出漁をしても赤字になるわけです。近年は沿岸に来遊するサンマが少なく、不漁が続いる状況には変わりがないようです。今後は、主な水揚げ地の三陸沖で漁場が形成される10月ごろに、今年のサンマの水揚げがわかります。
潮目のできる日本列島の太平洋沖は、世界屈指の好漁場です。日本の漁獲量の約5割を占める北海道の南東沖の海域には、冷たい親潮が流れています。サンマは、12~18℃度の冷たい水を好み、浅い所に生息する魚種です。北海道近海のサンマ産卵場所が、海水温の影響で、東の海域に移動しているのです。勢いを弱めた親潮の流れは、サンマの南下を妨げてしまっているわけです。通常は、親潮が三陸沖まで南下し、黒潮とぶつかり合って潮目ができて、漁場が近海に形成されます。サンマは寒流である親潮の流れに沿って、千島列島から北海道の東岸沖を抜け東北沖へ回遊していました。その親潮の勢いを示す流量は、90年代から少しずつ減少し、現在も回復の兆しが見えないのです。海流の勢いは、主に海上の風によって生み出されます。親潮の勢いは、北太平洋上にあるアリューシャン低気圧によって左右されます。地球温暖化が、この海域の風を弱めている可能性があります。
もう一つの要因は、流氷によるものです。オホーツク海の場合、アムール川から大量の真水が注ぐため塩分が薄くなり流氷ができ易いのです。流氷は流れている間に、たくさんの植物性プランクトンや養分を付着させて南下してきます。流氷の下で、魚が活発に活動し増えているわけです。流氷に閉ざされた冬場の漁場は、漁業ができません。流氷がある間は、一種の禁漁期間になり、魚を大きく成長する時期にもなるわけです。でも、1990年頃から、流氷の厚さが薄くなってきました。魚が成長する期間が、短くなってきたわけです。余談ですが、2020年12月中旬から1月上旬にかけて、日本海側を中心に大雪が降りました。多くの車が身動きできない映像が流れたので、ご記憶の方もいることでしょう。この大雪は、偏西風の蛇行で寒波が流れ込んだことと、日本海の海面水温が平年よりも高いことによるものでした。2020年の夏の猛暑で、海面水温が高くなっていました。雪が降り始めた12月15日前後の日本海の海面水温は、平年に比べ2~3℃も高かったのです。大陸からの強い寒波の訪れと、日本海の海面水温が平年よりも高かったことが、水蒸気を大量に発生させ、豪雪という現象を起こしたわけです。海水温と偏西風の勢いには、注意が必要のようです。
今回のサンマの初上げで、危惧したことがあります。漁業関係者が、小ぶりになってきたという発言です。現在、漁獲圧を高くしている国は、中国になります。中国では、投機目的で漁業者にお金を出して虎網漁をさせる富裕層がいるのです。虎網は儲けが大きいので、新しい船をつくっても3年もやれば借金は返せる仕組みです。この虎網を使う漁は、小魚も全て捕ってしまう網の目が細かい網の漁です。持続可能な漁業をする場合、一定の魚を海に残すことが大切になります。この面で配慮を欠いた漁をしているために、海洋資源は減少しています。魚種によっては、絶滅にいたるケースもあります。1950年、カリフオルニア沖のマイワシが絶滅しました。日本の近海で獲れていたニシンも、捕れなくなりました。2019年のサンマ、サケ、スルメイカの漁獲量は、統計開始以来最低だったのです。ピーク時と比較すると、サンマが92%減、サケが80%、減スルメイカは94%減になっています。海洋生態系を維持する場合、イワシの20%が捕食で失われるとき、20%の新しいイワシを生産し補う必要があります。20%を補わなければ、漁獲は持続的に得られなくなり、減少していくことになります。20%を補うべきところを10%しか補えない場合、イワシの平均サイズが小さくなることが経験則からわかっています。各種の餌魚平均サイズが小さくなることは、資源量が減ってくるという目安になります。それが、サンマにも起きているわけです。
サンマの資源を回復させるヒントが、マングローブ林にあります。アジアでのエビ養殖池開発が著しい時期には、マレーシアのペナンの海岸の環境破壊も進みました。1994年、ペナン島西海岸のマングローブ沼沢地で、外資系によるエビ養殖場の建設とその拡張事業が行われました。ビジネスをすることによって生み出される社会的な負の費用を、払わない企業があります。この企業は、かつて海岸をゆたかに茂っていたマングローブの森を破壊していきました。マングローブ林は、きわめて多様な生きものに餌やすみかや揺藍場を提供しています。この破壊に対して、1994年「魚資源の保護と持続可能な漁業の促進」を目標とするNGOが正式に活動を始めました。荒廃した海岸で、デモンストレーションとしてマングローブ植樹活動を行ったのです。1997年から2018年までに、111へククールの水辺に33万本のマングローブが植えられました。マングローブ林の植林は、この海岸に魚の資源を取り戻したのです。そして、このマングローブの活動の成果は、2004年12月に起きたスマトラ沖大地震の時に現れたのです。海岸を襲った津波の勢いを、マングローブが緩和しました。あるいは、マングローブにしがみついて難を逃れた人びとも多数でたのです。東南アジア諸国での養殖エビは、バナメイエビやブラックタイガーなどが有名です。エビの養殖の問題は、養殖地造成のためにマングローブ林を伐採する環境破壊があります。マングローブの森は、養殖池の建設、伐採、都市開発などのために急速に失われています。ここで養殖されたエビ類が、日本などの先進国へ輸出されるわけです。マングローブ伐採という環境破壊の上に養殖されたエビが、日本に送られていることになります。サンマ漁についても、このような流れがないのでしょうか。
2021年の流し綱漁は、サンマが沿岸に近寄らなかったために、途中で中止になっています。その見返りとも言えるのかもしれませんが、今年は昨年より少しだけ、漁獲が増えるとの予想がでています。禁漁を3~5年程度行えば、徐々に増えてくるとことが予想されます。外国船も、高い燃料を使って日本近海まで来て、漁業ができない状況になりつつあります。日本が外国船から高い魚を買わなければ、サンマの資源は保護される環境になりつつあるわけです。かといって、サンマ漁を行っている方の生活は、豊かなものにすることが求められます。時代は、副業を認める流れになりました。次の発想として、サンマの釣り堀という考えがでてきます。サンマ好きの方に、釣り堀で提供する仕組みを作るわけです。もちろん、サンマの飼育には、水族館の学芸員の方の知識やスキルが必要です。漁師の方が生きたまま水族館に運び、そこで長く生育できるようにしたうえで、サンマの釣り堀を水族館で行うという仕組みを作るわけです。1匹1000円で釣って、近くの民宿で調理をするような仕組みをつくれば、少しは生活の糧になるかもしれません。3~5年をこの方式で我慢をすれば、サンマの資源も回復し、従来の漁法が行えるようになるかもしれません。