はじめに
先日、地区の小学校PTA主催の廃品回収が行われました。趣旨に賛同する家庭は、朝玄関先に新聞や缶・瓶類などを出しておくと、係りの方が学校に集めて、廃品業者に売り渡すという手順になっているようです。売上金をPTA会費に入れて、子ども達に還元するという仕掛けです。この仕掛けを利用すれば、現在の課題になっている電力の節約や資源の節約、そして温暖化の抑止につなげる方法になるかもしれません。そこで、PTA主催の廃品回収の活動が、社会に広く還元できる仕組みを考えてみました。考える視点は、SDGs になります。このSDGs(持続可能な開発目標)の目標と廃品回収の関連は、「4.質の高い教育をみんなに」、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「11.住み続けられるまちづくりを」、「13.気候変動に具体的な対策を」の4項目が挙げられるようです。それでは、その探索に入ってみます。
1、段ボールの需要が増えている
東南アジアにおける段ボール需要は、4年連続で過去最高の伸びをしめしています。段ボールを必要とする通販や宅配が、伸びているのです。アジアでは、段ボール原紙が品薄になり、日本からの輸出拡大が続いています。段ボールの値段は、9割が古紙によって占められています。この古紙が、ここ数年の間に急激に高騰しているのです。中国は、昨秋に古紙を含む原紙の調達を増やしていました。中国企業がアメリカからではなく、日本から古紙の輸入を拡大する道を選んでいるのです。結果として、日本の古紙市場は高騰を続けているわけです。当然、段ボールの値段も値上がりをすることになりました。中国と同じように、東南アジアでは景気が拡大しています。この地域では、物流のインフラ整備も整い、物流量も順調に増加しています。それに伴って、梱包に使う段ボール箱の消費も伸びているのです。東南アジアでは、段ボール原紙が品薄になり、輸入も増えています。PTAの廃品回収で集められた新聞紙などの古紙が、中国や東南アジアで有効利用されていることになります。
高度資本主義社会において、無駄は必要悪ということになっています。でも、この無駄を出さない配慮も求められています。市場では、原料から最終製品を作り上げるまでの時間(リードタイム)を短くする必要があります。全体を見渡して、どこに無駄があるかを知ることは大切です。無駄には作りすぎ、手待ち、運搬、加工、在庫、動作、不良品をつくるなどがあるようです。この無駄を軽減する手法として、整理、整頓、清掃、清潔、しつけの行き届いた職場の実現があります。年1回の大掃除よりも、定期的にこまめに掃除する方がコストは下がり、無駄が生じないことが経験的に理解されています。ある意味で、品質は工程の中で作り込むことになるわけです。廃品回収も年に1回とするのではなく、子ども達が毎日(約200日)、少量ずつ学校に運んでおくという発想がでてきます。子ども達が運んだものが一定量たまったら、業者の方が定期的に回収する方式にするわけです。たとえば、福島県福島市の小学校と中学校の数は合計65校になります。学校に通う子ども達が、毎日新聞や空き缶を持って通学すれば、廃品回収と同じ効果が得られます。業者の方は、65校を定期的に回るシステムができます。このシステムの優れた点は、回る時期を業者の方が決められるという点になります。
蛇足ですが、このようなシステムは四国のスーパーと業者の方が開発しています。これは、四国から始まった古紙回収の取り組みになります。古紙回収事業者が、古紙回収ボックスにセンサーと無線通信モジユールを付けました。いま古紙回収ボックスに、どれだけの古紙かたまっているかを遠隔からわかるようにしたわけです。遠隔からわかるようにしたことにより、適切なタイミングで回収しに行くことができるようになりました。適切なタイミングで回収しに行くことができたために回収コストを3分の1に抑えることができるようになったのです。回収コストを3分の1に抑えることができ古紙回収事業者、スーパー、消費者を豊かにしたというウインウインのお話になります。
2,ドライバーが不足している
廃品回収から、他国の不足している物資を円滑に流通させることは、地域を豊かにすることになります。ところが、コロナ禍で明らかになってきたことは、この物流を支えるドライバーの不足なのです。世界的に、ドライバー不足が顕著になってきています。今年になって欧州全域でコロナ対策のための制限が緩和され、経済活動が活発化してきました。ユーロ圏経済が持ち直しする中で、人手不足の影響は他の業界にも広がっているわけです。大型トラック運転手の不足は、欧州全域に広がっています。業界団体によると、欠員数はドイツが8万人で、欧州連合(EU)では40万人という数字がでています。EUより厳しい状況は、イギリスです。ドライバー不足で、給油所までガソリンを運ぶのに軍隊が動員されているのです。イギリスの主要な港は輸送待ちのコンテナであふれる状況が続いています。コンテナを運ぶドライバーが確保できない状態なのです。棚が空っぽになっているスーパーもあるということです。
本来であれば、取り扱う荷物が増え、売上が伸びることは、歓迎すべきことになります。売上げが伸びて、会社が成長し、賃金が上がり、労働条件が良くなることは望ましい姿です。でも、これまでのドライバーに対する勤務条件は、過剰サービスを求めすぎていました。ドライバーには、商品価格に見合わない「過剰」なサービスを押し付けてきた経緯がありました。この状況を、深刻な人手不足が変えつつあるようです。働く人々は、過剰なサービス残業などの作業を忌避して、条件の良い企業や職種に移っていく流れができました。事業者側も、この状況に対応を迫られています。ヤマト運輸では、労働時間や荷物量の削減を進めています。ドライバーに優しい勤務状況を作ろうとしているようです。再度、福島のPTAの廃品回収に話を戻すと、PATの役員の方も、業者の方も集中的に作業する時間が増えます。65の小学校と中学校が、同じ日に一斉に行えば、スムーズな回収はできないでしょう。継続的に資源を回収するには、収集車の配車や人員の配置などスムーズさを欠く事態が生まれます。この廃品回収は、今後のリサイクルの仕組みを形づくるものになります。
3,銅が不足している
話は飛んで、銅の不足の話題になります。アメリカ供給管理協会(ISM)は、アルミニウム、鉄、銅、が不足し価格が高騰していると指摘てきしています。世界の銅消費量は、2017年2400万トンでした。 中国は1200万トンと世界の半分を消費しています。日本の消費量は、100万トンになります。この銅の価格が今までにない高値圏を推移しているわけです。銅は、電子部部品から自動車、航空機、そして電力など多くの分野で使われます。特に現在注目されているものが、電気自動車です。電気自動車は、ガソリン車の3倍から4倍の銅を使います。その電気自動車は、2020年の世界販売台数は300万台と前年比41%も増加しているのです。さらに、中国は1998年に日本を抜き、2002年に米国を上回って世界最大の銅の需要国になりました。13億人中の人口が生活用品や住宅需要などのため、まだまだ銅の消費量は伸び続けることは確実です。中国の1人当たり銅消費量は3.3kgになります。日本は13㎏を使い、アメリカは10㎏の銅を使っています。中国の生活水準を上げるには、銅の需要は今後とも必要とされるのです。
現在ででは優良鉱山はほとんど掘りつくされ、銅の副産物としてコバルトがわずかに採掘されるという状況の鉱山が多いのです。たとえば6万トンの銅を精錬するためには、銅鉱石を1000万トン掘る必要があります。大規模銅鉱山の鉱石の品位は、いまや0.6%の低さになっています。さらに、銅鉱石1000万トン掘るためには、鉱脈周辺の鉱石にならない岩石も1000万トン以上掘って廃棄しなければならないのです。6万トンの銅を精錬するためには、合計で2000万トン以上を掘削する計算となります。そして、掘った岩石を廃棄する時間と場所を必要とします。銅やコバルトは採掘するときの環境破壊は、想像以上のものがあります。銅のリサイクルは、温暖化を抑制する仕組みにも貢献することになります。
銅鉱山の開発には、多くの困難があることが分かりました。日本では、銅地金は、毎年10万トンがスクラップになって出てきているのです。毎年10万トンがスクラップはまさに「都市鉱山」になります。10万トンの内リサイクルされている銅は4万トンに過ぎないのです。6万トンの銅地金は、や大変に貴重なものになります。6万トンは、日本で使用する銅の1ヶ月分になります。6万トンの銅を精錬するためには、合計で2000万トン以上の鉱物や岩石を掘削する計算となります。そして、掘るためには大量の二酸化炭素を排出し、掘った岩石を廃棄する時間と場所を必要とします。銅のリサイクルがスムーズにいけば、環境の維持に大きく貢献できるわけです。
4,不足を補うヒント
鉱物資源のリサイクルの優等生は、アルミニウムです。アルミニウム缶からのアルミニウムのリサイクルは、非常に効率的です。鉱石からアルミ缶作る場合と回収アルミ缶から作る場合、エネルギーは4%で済む計算です。アルミニウムのリサイクルは、アルミニウム缶の分別収集から始まりますが、回収率は高く90%を超えています。回収の仕組みと意識のレベルアップッは、リサイクルの有用性を高めます。リサイクルは、毎年一定の割合で必ず排出されます。量を問題にしなければ、枯渇の心配のない優良鉱山に変身するのです。日本の銅の消費量は、約100万トンです。日本の人口は、いずれ現在の半分の6000万人になります。すると50万トンで、間に合うことになります。自動車などの台数も減っていけば、消費量を25万トンまで減らすことができそうです。あとの15万トンは、日本人が1人13㎏使っている銅から、回収することになるかもしれません。
さいごに
現在のところ、段ボールの需要が減る要素がありません。PTAの古紙回収は、環境に優しい活動になります。PTAでは、廃品回収をして学校に寄与しています。この廃品回収の中に、銅を含めていただきたいのです。この銅を古紙やアルミ缶と一緒に上手に集めれば、今までよりも多くのお金を得ることができます。銅が一定程度の量になれば、業者の方も喜びます。子ども達に、ちょっと良い備品が提供できるかもしれません。お金以上に、廃品回収(古紙や銅の流れ)を教材として利用してはどうでしょうか。「古紙や銅の消費と再利用」について考える良い機会になります。同時に、回収と販売という体験をするわけです。頭だけで考えるより、エコについてより実践的教材になるかもしれません。