日本政府のお金の使い方が、合理性を欠いているようです。経済対策を裏付ける補正予算の規模は、新型コロナウイルス禍を境に膨張しています。コロナ対策の予備費が膨らんだ2020年度は、10.1兆円を超えて過去最大になりました。2022年度の予備費総額は、約11.7兆円となったのです。さらに、2次補正では「新型コロナ・物価高対策予備費」を3.7兆円増やしています。新たに、1兆円の「ウクライナ予備費」を設けています。結果として、3度の補正を組んだ2020年度は当初も含めた一般会計総額が、175.6兆円と過去最大となりました。2021年度も142.5兆円まで膨らみ、2022年度も補正後は139.2兆円と異例の規模が続いています。確かに、世界的なコロナのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻などにより、予算の増額は理解できます。でも、理解できないことは、2020~21年度の決算を見ると、2割弱を使い切れずに翌年度に繰り越していることです。2020年は35兆円を残し、2021年は、28兆円を使わずに残しています。2020~21年度の2割弱を不用額として国庫に返納したりしたわけです。繰り越しが多額になれば、せっかく補正を組んだにも関わらず、無駄に時間とお金を使ったことになります。もちろん、余ったお金を各省庁は使おうとしたことでしょう。この不要不急のお金を、過去において、上手に利用する自治体がありました。
この村が、有名な長野県の下條村です。過去の事例ですが、この村が利用したものは、「地域の元気臨時交付金」など国の2つの交付金です。プールの総事業費は1億4千万円でしたが、国からの補助金が2つ合わせて1億円が交付されました。プールの総事業費の残り4千万円は借金になります。でも、残り4000万円は、後で国が交付税で補う条件になっていたのです。結果として、村の持ち出したお金が42万円だったというわけです。「地域の元気臨時交付金」は、政府が2012年度補正予算に急遽、盛り込んだメニューでした。年度末ギリギリで、急に提示されても即座に対応できる自治体は多くありません。短期間で書類を提出し、政府に認めてもらうことになります。仕事の速い下條村職員には、地域の「元気臨時交付金」の書類への対応が容易にできたというわけです。申請書類をまとめあげ、締め切り1週間前に提出して交付金を獲得しました。国の戦略なき予算のバラマキを、うまく活用しているともいえます。もっとも、優秀な職員の存在がなければ、できないことだったでしょう。
一般予算が承認されたら後に、補正予算が組まれることが多いのです。地方選挙がありますので、地方にアピールする補正予算が組まれることでしょう。補正予算は、中央政府が無理に地方に使わせる不条理な面を持っています。この予算は、バラマキなることが多いのです。そこで、この補正予算の不条理を逆手にとる手法もあるようです。補正予算や復興予算は抜け道があり、あらゆる用途に使われています。東日本大震災では、20兆円以上の復興予算が組まれました。20兆円の復興資金は、復興とは関係のないプロジェクトに使用されていました。上がやるなら下も模倣することは、世の習いです。法の解釈に従って行えば、理念はある程度無視しても良いわけです。下條村は、42万円のプールだけではなく、総事業費1億7千万円の武道館を50万円の村の持ち出しで作ってしまったのです。
現在は、農産物自給率の向上が叫ばれています。そのためには肥料の確保や節約が、政策の課題になっています。この課題を、上手に解決するモデルができつつあります。岩手県の大船渡市で行われている魚養殖とレタスの水耕栽培のコラボになります。このモデルは、大船渡浄化センターの未利用地で行われています。この未利用地は、高度経済成長時代に将来の拡張に備えて取得していたものです。ところが、設備改良や汚水処理方式の変更で処理能力が、2倍に向上しました。そのために、施設を拡張することなく、現在の広さで処理が可能になったのです。施設の処理能力向上で、市は不要になった土地を地域活性化の拠点にすることにしたわけです。このモデルは、民間の企業3社が「アクアポニックスパークおおふなと」を共同で運営しています。ビニール温室内に設置した円形水槽を5基設置し、チョウザメ1000匹を養値しているのです。チョウザメは、4~5年後に魚肉やキャビアとして2.8トンの出荷を想定しています。チョウザメを含めた年間売上高として、4000万円から1億5000万円を見込んでいるようです。このモデルで注目すべき点は、循環型農法です。循環型農法は、水を循環させて魚の養殖と水耕栽培を同時に行う仕組みなります。
この循環型農法は、下水処理場「大船渡浄化センター」の敷地に整備されています。チョウザメ1000匹を養殖しており、水耕栽培設備ではリーフレタスなど5品種を育てています。養殖しているチョウザメの排せつ物を処理して、水耕栽培の肥料に利用していのです。アクアポニックス施設では、水槽の魚の排せつ物をバクテリアで植物の栄養素に分解します。栄養素に分解した水を、レタスの肥料などとして利用する仕組みです。レタスを化学肥料や農薬を使わずに水耕栽培しています。水をレタスの肥料などとして利用することで、水を浄化し、再び魚の水槽に戻す循環型農法を行っているわけです。水耕栽培で生産したレタスは、日産1500株、年間42トンの生産を目指しています。化学肥料や農薬が不要になり、水も循環させるため、環境への負荷を最小限に抑えられるというものです。循環型農法は、持続可能な次世代の環境保全型農業を実現する一つのモデルになるかもしれません。
農産物の生育に必要な肥料価格も高騰の一途をたどっているように、飼料価格も上昇しています。畜産農家は、この飼料の高騰に困っています。飼料価格上昇の影響は畜産農家にとどまらず、養殖魚の事業者にも影響を与えています。養殖の飼料となる魚粉は、7年ぶりの高値水準にあります。そこで、養殖事業者の間では、飼料価格を節約する技術開発が急がれているのです。開発の一つには、飼料の無魚粉化や大豆かすなど代替のたんぱく源の使用などがあります。もう一つの道は、飼料価格を節約するハイブリッド種の開発になります。開発された種に、「タマクエ」があります。これは、日本の高級魚クエと南洋の大型魚タマカイのハタ科同士をかけあわせた種になります。魚を1キロ増やすのに必要な飼料が、どれぐらいかを示す数値を増肉係数といいます。タマクエは、この指数が1~2になります。カンパチなどは、日本国内で盛んに育てられています。これらの魚種の増肉係数は、2~3になります。この新種は、従来の養殖魚に比べ生産効率がよいことが特徴になります。
タマクエの成長効率のよさは、成魚で200キロ以上にもなるタマカイの良さを引き継いでいます。遺伝子などの配合バランスを調整し、両方の種から「いいとこどり」した魚に仕上げた新種になります。「タマクエ」は、クエより短い 2~3年で出荷でき、エサを節約できます。この魚は飼料を抑えられ、養殖が短期的なので、病気にかかるリスクの軽減が可能になります。育てやすく、出荷しやすいということになります。1キロ4千円程度のクエに対し、タマクエは2千円程度の半額で出荷できます。2018年の販売開始以降、コストコやスシローなどで販売され、一般消費者に認知が広がっているのです。鹿児島や愛媛の養殖事業者が、タマクエを委託生産しています。親として似た魚種同士をかけあわせ、それぞれの強みを兼ね備えた魚を作る技術開発が進んでいます。生育期間を短くできた他の事例には、近畿大学の「ブリヒラ」なども次々開発されているようです。
東京電力福島第1原子力発電所にたまる処理水の放出には、多くの反対の意見があります。一方、規制委の委員長は、「環境影響は出ない」との見解を繰り返し示しています。政府は処理水の処分を巡り、国際原子力機関(IAEA)が海 洋放出の安全性などの検証を始めることで合意しました。政府は、IAEAのお墨付きを得て海外に安全性を強調し、国内外の風評被害を抑制したいと考えています。ここには、余分な復興予算を使う余地がでてきます。そこで、この予算を上手に利用して、原発地区を豊かにする仕組みを考えてみました。残念なことですが、風評被害は科学的に安全が証明されても、なくなることはないようです。福島のいわき地区や相馬地区は、この風評被害に悩まされることになります。米のケースでもそうですが、初期において原発地区の米は、安く買いたたかれた経緯があります。ベクレルで測れば、まったく安全なレベルであったにも関わらず、風評被害にあっています。むしろ、他地区より安全なレベルで出荷されたにも関わらず、正当な評価を得ることができませんでした。それではどうなったかというと、安く買いたたいたコメを他地区の米とブレンドして、市場に出回ったという経過があります。もちろん、健康に問題は起きなかったことは言うまでもありません。このような経過を踏まえて、汚染水の排出後に、漁業関係者の生活を豊かにする仕組みを作ることを考えてみたわけです。
この仕組みは、まず政府が、使いきれずに残している20兆円から30兆円のお金を原発地区に使うことになります。獲得方法は、下條村のように交付金を上手に使うことになります。交付金の名目は、風評被害の阻止、肥料や飼料の高騰、農産物の自給率向上などになります。風評被害では、漁業補償の名目でお金が出るでしょう。これを大船渡のように、魚養殖とレタスの水耕栽培の施設をつくることも選択肢になります。もちろん、魚の種類や野菜の種類を増やします。
復興庁のまどろっこしいやり方では、住民の帰還は達成されない状況が10年以上も続いている現実をつくりだしています。この地域が稼ぐ仕組みの中心は、福島県独自の修学旅行や宿泊訓練になります。福島県には、約18万人の児童生徒がいます。この児童生徒で、小中高の修学旅行や宿泊訓練を、復興地域で行うことにします。1人1泊1万円として、2泊3日の修学旅行や宿泊訓練をすれば、36億円のお金が地元に落ちることになります。さらに、県教育委員会による学校行事の調整を行います。福島県の修学旅行を一斉に行うのではなく、1年間を通して継続的に行うことにします。36億円÷365日=約1千万円、18万人÷365日×2泊=約1000人となります。復興地区に、年間を通して、毎日1千万円のお金が落ちていき、旅行客は毎日1000人訪れる仕組みを作るわけです。また、36億円÷4000人=90万円となり、復興地区住民の方1人当たり、年間90万の収入が保障されることになります。
修学旅行の子ども達は、年間を通して、毎日決まった人数がやってきます。旅館やホテルに働く方は、安定した職業が確保でき、収入も安定したものになります。農家も、1日千人と需要が決まっていますから、生産に無駄がなくなります。陸上養殖と水耕栽培の循環型農法が定着すれば、漁師の方も安心して養殖の仕事に従事できます。修学旅行などのインバウンドで入ってきたお金が、そのまま地域で循環することになれば、地域は以前よりお金が増えて、裕福になるわけです。福島県は、太陽光発電などの再生可能エネルギーだけで、県全体の電力を賄う能力を持つようになりました。太陽光発電によるエネルギーも地産地消になり、食べ物も地産地消になる割合が増えれば増えるほど、地域内で循環するマネーが増えてハッピーというわけです。もちろん余剰の電力は、他の地域に回します。それは、利益となって地域に落ちることになります。豊かな地域には、人々が吸い寄せられます。古代において、ローマの都には、アフリカから多くの人々が吸い寄せられました。現在のアメリカには、多くの国から有能な人々が集まっています。確実に豊かになると分かる地域には、人々が集まるものです。原発事故で疲弊した磐城の国を、有り余る補正予算や復興予算を上手に使って、豊かな地域にいたいものです。