最近の小売店は、特売品と定番品などではなく、「生活必需の商品」「心を豊かにする商品」に分類するようです。単に胃袋を満たす時代から、舌で味わう時代へ、そして現在は頭で楽しむ段階に移行しています。消費者はいつでも手に入る生活必需品を望んでいるのではなく、心の豊かさや毎日の精神的充足感を楽しもうとしています。別の言葉で言えば、欧米志向や都会志向から日本志向や地方志向を目指すようになりました。私有主義からシェア志向へ、そしてブランド志向からシンプルなカジニアル志向への転換が見られます。個人志向から社会志向へ、利己主義から利他主義への流れともいえます。もっとも、心を豊かにする商品はただ棚に置いておくだけでは売れません。これらの商品は、あれこれ思考した消費者が、店頭でその価値の詳細を伝えられることにより、買われるようになるようです。
一部の企業は、企業活動をすることによって生み出される社会的な費用を払わないケースがあります。たとえば、この活動で生み出される排気ガスは、健康被害を招きます。健康被害のこの費用を、払わない企業もあります。商品だけ売って、その商品がもたらすマイナス面を隠してしまうわけです。あとで分かってしまうウソを平気でつく人たちがいます。「その場しのぎで、その瞬間だけうまくいけばいい」と考えるのが、快感原則というものです。ウソを平気でつく人は「その場だけなんとかなればいい」という快感原則を優先しているわけです。一部の企業の行動は、この快感原則を真似ているのかもしれません。社会活動には、常識の範囲があります。万一、それを越えた場合のルールもあります。限度を超えれば、社会的制裁を受けるルールが待っているのが普通です。
この社会制裁を、利用する人たちもいるのです。東ヨーロッパに寒い季節がやってくると、西バルカン半島の貧困難民がドイツにやってくるのです。この時期の風物詩になっています。西バルカン半島のアルバニアやセルビアからの貧困難民は、直行バスでベルリンにやってくるのです。1999年まで続いたコソボ紛争の時には、難民を受け入れる体制をEU各国が築きました。紛争が終わり、アルバニアやセルビアが難民を生む条件はなくなりました。でも、難民ではない貧困者がドイツにやってくるのです。アルバニアやセルビアからの貧困難民は、申請をしても却下されることを知っています。彼らには、ドイツ政府から1月130ユーロの「小遣い」が支給されます。この130ユーロは、母国ではほとんど月収に相当する額になるのです。ダメといわれるまで、少なくとも彼らは一冬を暖房のきいた施設で過ごすことができます。
国によるセーフティーネットの水準を高めすぎると、モラル・ハザードの問題が起こります。政情が安定した今日では、アルバニアやセルビアが難民を生む条件はありません。申請がダメだとと数ケ月後に決定されれば、彼らは祖国に送り返されます。アルバニアやセルビア政府が、国を出ていった難民は自国の国民ではないと拒否することもできます。送還を拒否すれば、彼らは流浪の民になってしまいます。でも、西バルカン諸国は、送還される難民を引き受けることに協力的なのです。西バルカン諸国は、将来EUに加盟したいと希望しています。今のうちからEUに協力姿勢を示すことで、EU加盟を有利に運ぼうとする遠謀神慮があるのです。寒い冬の間、自国民を養うことができない貧しい国は、他国で養ってもらう方法を考えたわけです。ドイツは、避難民を受け入れることはしませんが、一定期間生活を保障することをします。いずれ、西バルカン諸国の国々が経済的に発展すれば、貧困難民はドイツに来なくなります。それまでの辛抱だと、割り切っているのかもしれません。企業や難民に限らず、「人間関係を良好に保つ」という感覚を持たないやっかいな人や企業、そして国が少なからずあるという現実を、私たちは理解しておくべきかもしれません。
時代は、コミュニケーション能力を重視する流れになりつつあるようです。仕事の会話、日常生活の会話、趣味の世界で遊びを交えたコミュニケーションを重ねながら、自己の成長を図ることは楽しいことでもあります。この場合の条件として、自分の言いたいことを、正しく相手に伝えることができる能力が求められています。そして、相手の言っていることを正しく理解する能力が大切になります。自分の尺度だけが正しいとする思考方式は、柔軟性を失います。会話を通じたコミュニケーションの中に、多くの楽しみや愉快さが生まれます。その継続を望むのであれば、おたがいが一定のルールを守ることが、人間関係の基本になります。一部の人が快感原則を優先すれば、ルールの基本は崩れます。正しく伝え、正しく理解することが、大切になります。このコミュニケーション能力の育成には、相当な訓練が必要になります。
「できない」ものを小さく刻んでいくと、大きくできるようになる瞬間がやってきます。毎日、目標に近づいているとはっきり感じられることを工夫しながらやっていくわけです。たとえば、商品が売れない状況に直面したとします。売れない理由を、不況やコロナのせいにするのでは面白くありません。売れない商品を売りたければ、商品の持つ価値を概念化とか言語化することになります。消費者に分かる言葉や概念を使って説明していくわけです。普段から、少しでも多くの商品情報や消費者嗜好の情報を得ようとする姿勢が求められます。消費者のニーズが自分の情報の中にあれば、瞬時に解決策が見出されるでしょう。
余談ですが、不況やコロナ過の中では、売れない理由を滔滔と述べる人たちがでてきます。不平や不満ばかり言う人とのつきあいは、避けたほうが賢明のようです。また、強固な宗教的信念を持つ人には、理屈だけでは対応ができません。これらの人たちとのおつきあいは、時間の無駄になることが多いのです。聞く耳を持たない相手には、さっさと見限ることも選択肢になります。異議を唱えるよりも、別の視点から議論を補うような言い方をする人がいれば、その人とのコミュニケーションを多くしたほうが実りの多い時間を過ごすことができるようです。