成長ばかりを考えてきた今までの都市政策は、限界を露呈してきています。旧市街か、郊外に発展してきたスプロール現象は、道路や下水道の公共投資の効率を悪化させてきています。スプロール現象は、環境保護の視点からも問題で、都市の持続可能性に赤信号をともしています。広範囲に広がった水道や道路のインフラの維持や補修にかかる費用が、地方自治体の財政を圧迫しているのです。「拡大」が悪ければ、「縮小」ではどうかという発想になります。この発想から生まれた都市が、コンパクトシティです。拡大から縮小に発想のベクトルを変えているわけです。このシティは、エンジンやモーターのような化石燃料の手段に頼らない仕組みを取り入れます。徒歩や自転車で移動可能な範囲に、日常の生活機能を集約しています。可能な限り、化石燃料の役割を縮小させ、人間のできることは人間が行う発想になります。この新しい手法によるコンパクトな都市づくりが、注目されているわけです。
健康意識は、世界中で高まっています。人類は甘いものを食べれば、満足するように進化してきました。甘いものは、糖分を多く含んでいます。これを食べれば人間は満足し、栄養も取れる都合の良い仕掛けになっていました。でも、十分な食糧が確保される時代になると、糖分の取りすぎは、健康を損なう元凶になると分かってきました。糖尿病という現代を象徴する病気が出現したわけです。健康意識は、世界中で高まっています。糖尿病や肥満対策として、ダイエットが注目を集めているのです。現代における課題解決には、コンパクトとダイエットなどの「縮小」というキーワードにあるようです。
痩せるためには、食事で摂取した栄養が脂肪として蓄積される前に、消費することになります。「ウオーキングは食後にやるべきだ」とされるのは、運動によってすぐに糖分が消費されるからです。この実践も良いのですが、もう一つの発想もあります。筋肉がつけば基礎代謝が上がり、何もしていなくても脂肪を燃焼するような身体になります。いつまでも元気にいることを目的にする場合、筋肉量を増やしたほうが良いとうわけです。筋肉を効果的につける場合、体がたんぱく質を欲しいという状態のときに供給すれば良いことになります。運動をした直後の身体は、栄養を欲する状態になるので、効率よく筋肉をつけることができます。筋肉を増やす場合、食前に歩いたほうが良いということになります。ダイエットを効率よく長く続けようとするならば、食前に運動をしたほうが良いようです。強い運動選手は、朝練習を欠かさないと言います。長期的に見れば筋肉量が増えたほうが、ダイエット効果があるということです。
人間ドックでは、メタボリック症候群かどうか計測する検査があります。この検査で、メタボという宣告を受けた方は、すぐに痩せるためにランニングを始める場合があります。体重が重いままで、いきなりランニングを始めると、ひざや腰を痛めることがよく知られています。ランニングは、ウオーキングに比べ足にかかる負荷が大きくなります。体重の重い方は、まずはウオーキングで足慣らしをするのが賢明です。まず、ウオーキングで少し体重を減らすことでしょう。ランニングに移行したければ、そのとき決めれば良いのです。怪我を避けることが、最優先になります。
加齢とともに、「なぜ」ひざや腰を痛めるかという仕組みを理解しておくことも必要です。ストライドが大きい歩き方をすると、若々しく見えます。しっかりひざを伸ばして歩くことは、若々しく見えるだけでなく、足腰を丈夫にします。理想的な歩行姿勢を維持することは、いつまでも元気に歩くためには大切になってくるわけです。足指で蹴るように歩くと、姿勢がよくなって歩行がきれいに見ます。この美しさと足腰の強化には、少し速めに歩くことが求められます。これができれば、いつまでも元気に生活できることになります。体にある程度の負荷をかけ、筋力を維持ししておけば、後期高齢者になっても元気に歩けるというわけです。
歳を重ねるほど筋力はどうしても落ちます。サルコペニアというのは、加齢とともに筋肉の量が減り、筋力が低下する現象をいいます。50歳を超えると、筋力の衰えと並行して歩行能力は落ちてきます。でも、80歳になっても20代のように歩いている若々しいシニアもいます。この方たちの歩き方には、特徴があります。足の運びにおいて、足指で蹴った力が、足裏からふくらはぎへ、そして太ももや上半身までの動きが円滑に流れる歩行を行っています。いわゆるつま先を上げた歩き方をしています。20代からつま先を上げない歩き方をしていれば、50歳を超えたとき、一気に老化が進むようです。
大腿骨頚部骨折は、一年間に10万人以上の高齢者に起きています。下半身の骨折は、寝たきりや認知症を引き起こす要因にもなっています。男性ホルモンの減少を始める時期から、骨量が急に減っていきます。骨量、はカルシウムとコラーゲンから構成されています。骨量が減ることはカルシウムが溶け出すだけでなく、コラーゲンの量も減ってしまうことを意味します。カルシウムとたんぱく質の両方を摂ることが、骨の維持には重要になるわけです。たとえば、腰の曲がった高齢者の方がいます。高齢になり、腰椎の骨密度が低下すると、このリスクに直面します。腰椎の上から骨密度の少ない骨が圧迫をされると、背中が曲がりその状態で固定されてしまうわけです。
身体を支える骨や体を動かす筋力が衰えれば、若々しい歩き方に不都合な条件が付け加わることになります。でも、きれいに歩くシニアがいます。そして、トボトボと歩くシニアもいます。この違いは、歩き方にも大きな要因があります。高齢になるにつれて、歩き方が不安定になるのです。「最初4本足で、次は2本足、そして最後は3本足になるのは?」という「なぞなぞ」がありました。答えは「人間」です。赤ちゃんは、4本足で安定を保ちます。よちよち歩きから元気に走り回る幼児や少年期から青年や壮年期は、2本足で安定が保てます。でも、高齢者になると杖が必要になる人も増えてきます。二本足だけでは不安定になるのです。高齢者の歩行を見ると、右足と左足が左右に広く開き、足も外向きになってきます。これは、身体を安定させようとしている歩き方になります。高齢者の脚力が衰えてくると、左右の安定性が最大のポイントになってくるのです。後期高齢者の歩き方は、左右方向への揺れる歩き方になります。足が外向きになるとひざの内側に力がかかりやすくなり、ひざの痛みを訴える人が増えてくるのです。健康のために歩いている人が、ひざが痛くなり、かえって動かない体になっていく人がいることは残念です。
きれいに歩くシニアは、骨量を維持し、筋肉を適当に鍛え、ひざに負担のない歩き方をしていることがわかりました。では、どうすれば、そのような歩き方ができるのでしょうか。歩くときの足にかかる負荷をやわらげ、前へ進むための推進力を生み出すのがアーチ(土踏まず)になります。アーチに注目すると、「足の一生」は、三つの時期に分けられます。18歳までのアーチが完成してくる時期、20~40代までのアーチを維持できる時期、50歳以降のアーチが崩れていく時期となります。足の指をしっかり使いながら、歩いていれば、アーチは維持できます。足の指を推進力に使わなければ、アーチの崩れも加速されます。これが崩れると、地面からの力をやわらげることができなくなり、足に大きな負荷がかかるようになります。つまり、ひざへの負担が大きくなる歩き方になります。アーチを守ることは、いつまでも元気に歩くことと直結しているわけです。
アーチをいつまでも維持するためには、足の指を使うことが大切だということがわかりました。それでは、足の指を上手に使うようなするためにはどうすれば良いのでしょうか。足指で蹴り、アーチからふくらはぎ、太ももや上半身まで、筋肉の動きを円滑に伝える歩き方ができれば良いことになります。人間は文明の発展の中で、素足から靴を履く習慣に移行しました。問題は、この靴になります。かかとが抜ける大き目の靴や幅の広い靴を履くと、足の指が靴の中で靴を「つかむ」動きをするようになります。この靴を「つかむ」動きをすると、足指の「蹴る」動作ができなくなるのです。「つかむ」という動作では足裏からふくらはぎにつながる筋肉の動きが円滑に伝わりません。アーチからふくらはぎへ動きが円滑に伝わらないと、正しい歩き方ができなくなるわけです。
ここからは、ウオーキングシューズの登場になります。自分の足に合った靴を履くと、足の指に体重がかかった状態で歩くことができます。最近のウオーキングシューズは、いろいろな用途にあったものが発売されています。たとえば、アシックスは日本人を中心とする足形のデータが100万人分集積しています。また、この会社はデイサービス施設を運営しています。ここで、要支援の方や要介護の方が、どのような歩き方になるのかの知見も蓄積してきています。これらのデータから、若者向け用の早足に適したシューズや高齢者用の安定を重視したシューズを販売しています。足は、第二の心臓といわれる部分です。大切な第二の心臓が履くシューズは、格好よさや値段だけでは選ばないようにしたいものです。
最後に、ウオーキングで町おこしを行っている自治体もあります。そんな自治体へ、こんなことをしてはどうかという提案です。財政力指数という言葉があります。これは、行政サービスの提供に必要な費用に対して、その町の税収入の割合をいうものです。この指数が高いほど、健全な自治体といえます。少ない予算で、住民の皆さんを健康にすることができれば、理想的な自治体ということができます。医療費も少なく、介護費用も少ない町は、ある面です理想的といえるわけです。歩きたくなる歩道を作り、散歩に来た人々が公園にある運動の器具を使い、人と語らい、楽しい時間が過ごせる環境を整備すれば、この理想に近づきます。できるだけ多くの人々が、正しい歩き方を続ければ、医療費も介護費用も少なく抑えられるという発想です。
歩きたくなる2㎞程度の歩道に、数十台のカメラを設置します。自分の歩き方を、カメラで撮り、その映像をスマホで見ることのできる仕組みにします。これは、カメラとスマホを連動させることで可能になります。アシックスには100万人の足のビックデータあります。中国にはおそらく億単位のデータがあるでしょう。これらのデータのいくつかを教師用データとして購入します。AIに学習させて、「歩きたくなる歩道」を歩いた方に、「こうすればもっと良い歩き方になりますよ」という提言をしていくわけです。1㎞過ぎから、腰の下がった歩き方になる方には、「少し、スクワットなどの筋力トレーニングをしてはどうですか」などの助言をAIがすることになります。町では、医療面以外の住民の多くの方の健康状態を把握することが可能になります。運動量が少なければ、肥満や糖尿病になる方が増えるという推定も成り立ちます。この推定から、栄養指導や運動処方などのサービスも可能になります。病人を治すより、健康な人を健康のままにしておくことのほうが、医療費はかかりません。健康な人が多ければ、町は元気になります。元気な町には、人が集まってくるものです。