SNSから知能や精神状態、生活習慣を見抜く実験に、総務省傘下の情報通信研究機構が成功しています。この実験では、AIが短文投稿サイトの情報から、人々の内面を表す23種類の特徴を推定しました。この興味深い実験は、数百の少ないデータでも、AIを賢く用いることで、新たな手法の開発したことに高い評価を得ています。ツイッターの投稿内容とアンケートの内容を、AIに学ばせます。学習を終えたAIは、ツイッターから人々の内面をあぶり出す規則性を次々と発見したわけです。今回の情報通信研究機構の解析成果は、「Big5」の一線を越えたと見る専門家も多いのです。知能や性格のほか、統合失調症やうつ病の精神状態、飲酒や喫煙の生活習慣も読み取る研究は、他の研究施設でも進んでいます。2018年、うつ病の兆候をフェイスブックに並ぶ単語から3カ月前につかめるとする研究が行われました。社内のSNSに流れる文章から、「うつ」の症状が現れることを3ケ月前に予測できると報告をしているのです。
SNSのつぶやきから内面まで分かれば、社内のメンタル面での予防の網を張ることができます。毎回のつぶやきで文字数のばらつきが大きいほど、「統合失調症の傾向がある」とわかりました。この場合、統合失調症の予防やカウンセリングが、早期に行うことができます。最近は、SNSを分析するだけでなく、その結果を素早く色彩で表現できる技術も実現しつつあります。光ファイバーの衣装をデザインし、光のショーを演じる授業を行っている学校もあります。脈拍が早くなれば、赤の光が強くなり、脈拍が遅くなれば、青の光が優勢になるのです。光のショーは、ツイッター上のやりとりに表れる感情を分析し、色を調節することも可能です。モチベーションの高揚や低下が、色で視覚されるというわけです。
このような利用は、酪農の分野でも応用されるようになりました。牛が元気で健康なら、繁殖も順調で乳量も落ちません。酪農の経営が、安定することになります。青森県十和田市の三浦牧場では、乳牛60頭を飼育しています。この牧場代表のスマホの画面には、牛がストレスを感じそうだと赤色が示されるのです。反対に、牛が快適に感じるなら緑色が示されます。スマホ画面は、北里大学獣医学部が開発したアプリ「ちくさん天気」によるものです。このアプリを作るために、10年間にわたって、データを蓄積しました。このデータを基に、温度や湿度など気象変動が、家畜に与えるストレスを定量的に示す指標を算出できるようにしたのです。赤色や緑色を参考に、牛舎内の温度と湿度を最適状態に保つことが行われます。「ちくさん天気」は、天気予報と組み合わせたもので、ストレスリスクを高精度で予測する酪農経営を支援する優れものです。
世界の食品産業界の潮流は、今やトレーサビリティとエコフレンドリーです。トレーサビリティは、この食物の入手先やその精製のプロセスの明示することになります。鶏が楽しく過ごしたかなども、評価の対象になる時代になってきました。児童労働や環境汚染でつくった食物と分かれば、消費者から批判されることは確実な時代です。エコフレンドリーは、地球に有害な物質を使っていないかという点です。人間にとって、動物性タンパク質は必要なものです。人間が生きる限り、動物の命を奪う行為は続きます。でも、生命を直接にうばうことと、生命を重んじないことは決して同じではありません。鶏や牛を、リラックスさせて育ててほしいと願う人が増えています。これらを願う消費者は、トレーサビリティとエコフレンドリーの視点から、アニマルウェルフェア(動物福祉)を厳しく追求する時代になりました。
蛇足ですが、動物の命を奪うことと、奪った動物を大切にすることは、矛盾しないことを世界の民族史は示しています。その一つが、アイヌのイヨマンテです。熊送りは、イヨマンテ(霊送り)といわれています。現在は、動物愛護の観点から、行われなくなった儀式です。アイヌの人々は、自然界にさまざまな神(カムイ)がいることを信じていました。熊に変身した神は、お土産(熊自身の毛皮、肉、内臓など)を持って村にやってきます。アイヌの村人は遊びに来た熊に、酒や餅を持たせて神の国にお送り(死者として)をする儀式がイヨマンテでした。イヨマンテは、お土産を再度持って来て下さいという意味を持っていたのです。自然の恵みは受け取るが、それ以上に自然を大切にすることで、自然に報いていたわけです。
日本ハムは、2030年度までに妊娠した豚をオリ内で飼うことを国内全農場で廃止することにしています。これも、家畜をストレスのない快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」の現れになるようです。アニマルウェルフェアの浸透には、「見える化」を進めていくことが大切になるようです。見える化のツールも、「ちくさん天気」のようなアプリと同様に数多く考案されてくるでしょう。飼育する牛にこまめにプラツシングをすると、ストレス低下につながっていることが分かっています。また、牛に餌をやる時に声かける行為が、ストレス低下につながっていることも分かっています。これらの経験的データから、いくつかの具体的な実験や調査が行われています。勘に頼らず客観的なデータに基づき、温度管理をきめ細かくして生産性の向上につなげるアプリができるというわけです。牛に負担にならないツールをつければ、ブラッシングや声掛けの時に、ストレス度を示す血中のコルチゾール濃度が減り始めるというデータが出てきます。
欧米で重視されるアニマルウェルフェアを、日本国内でも普及させる動きが進み始めています。でも、理念だけが先行して、現実が進まないという傾向もあるようです。たとえば、アニマルウェルフェアというと鶏をケージから出して平飼いにするなどに着目されがちです。寒冷地では、鶏が密に集まって暖をとうた方が寒冷ストレスを抑えられる場面もあるのです。欧米が良いから、日本もそれに倣えばよいということにはなりません。全国一律の指針には、限界があるということです。理念が先行しがちな分野ですが、コストなどしっかり把握することが浸透のカギを握るようです。アニマルウェルフェアは、コストの負担が大きくないところから始めることが重要になります。畜舎を増改築すれば、建設費がかさみます。初期費用の増大は、取り組みそのものを見送ることになりかねません。
アニマルウェルフェアの浸透には、コスト負担と収益の最適化が求められます。
動物の福祉だけでは、片手落ちになります。人間の心身の健康も重要になります。社員が心身とも健康な状態で働いてこそ、企業は発展できることになります。メンタルの不調は誰にでも起こるものでもあり、そして治るものでもあります。SNSの読み取り機能を、社員の見守りシステムとして使用すれば、人々のストレスレベルを把握し、その分析も可能になります。メンタルヘノレスへの対応には、問題を未然に防ぐ一次予防、すなわち早期に発見が大切になります。メンタルヘルスへの対応を、第三次予防の治療や再発防止のレベルで行うことは高コストになり、利益を低下させます。Alの解析を「見守り」と思う人にとっては、この技術が光明となります。一次予防の段階で、社員を癒すことができる道具になるわけです。
日本の企業は、個人を単位とする成果主義を取り入れたことで労働者の個人主義的傾向を強めました。この個人主義的傾向を強めた結果、チームワークや職場のコミュニケーションが低下する現象が現れました。ある企業は、成果を上げている部署と上げていない部署を調査したのです。良い部署と悪い部署にどのような違いがあるのかを調べ、その後の取り組みの参考にしたわけです。調べるポイントを、ポジティブメンタルヘルスとネガティブメンタルヘルスの視点から調べたそうです。結果は、ポジティブメンタルヘルスの高い部署が、良い成績を上げていました。新しい状況の中で、多様な従業員のモチベーションを維持している部署が生産性を上げていたわけです。従業員が割り当てられた業務をこなすだけでは、十分な成果を上げていなかったのです。十分ではない現場で直面した問題を自ら進んで解決し、自ら業務を改善していることが、成果を上げる要因になっていました。部署のチームワークを高めることは、職場の一体感を高め、成果を導きだすことに繋がるということです。
最後に、三井物産で面白い試みを始めました。生産性が高い特定の部署の行動傾向を分析し、他の部署に役立てる試みです。まず、3600人の行動に関するデータ収集します。個人情報を伏せ、部署や役職の属性から分析するのです。天井に2500個の電波受発信器を設けスマホのアプリと連携して、位置情報を収集し分析していきます。社員の動きをデータで可視化することで、より効率的な連携手法を探る仕組みを作るわけです。この仕組みは、オフィス内での人の移動や在宅時のチャットなどの履歴データを組み合わせて解析します。在宅勤務の増加も考慮し、社員のメールやチャットの履歴データも判断材料にしていく大きな構想です。生産性の高い部署の人間関係、上司のリーダーシップ、空間の配置、他の部署との接触など、生産性に関するデータの蓄積や分析が可能になります。今後の成果が、見たいされるところです。この成果を確かめるツールも開発されるかもしれません。
最近、ソシオメトリーの課題を解決するツールが現れました。量子コンピュータのD-Waveは、「組み合わせ最適化問題」を解くことが得意です。このコンピュータは、ある組み合わせ最適化問題を解いたとき従来のコンピュータと比べて1億倍高速だったといわれています。宅配が1日に回るポイントが5カ所なら、すべてのルートの組み合わせは120通りになります。120通りの中から最短距離となるルートが見つければ、時間と燃料の節約になります。5人の人間関係も120通りあり、この中から最良の組み合わせをすれば良いことになります。回るポイントが10所だと、組み合わせは約360万通りになるのです。現実の社会には、組み合わせ最適化問題が非常に多く存在するのです。人間関係だけでも、これだけ多くの組み合わせがあります。ここに、ルームの配置、冷暖房の流れ、デジタル機器のなどの組み合わせ加われば、最適化問題はより複雑になります。このような組み合わせの最適化に、量子コンピュータが利用されています。アメリカ国立研究所に所属する研究者の小学生お嬢さんは、D-Waveを使ってソシオメトリーのプログラムを作ったのです。このお嬢さんは、クラスの友達を互いの好き嫌いで2つの集団に分けるプログラムを作ったそうです。最適化の問題を解決する人材は、これから育ってくるということかもしれません。若い彼らが、三井物産の課題を解決することになることを期待したいものです。