動物のなかで、進化の極致としてヒトがいます。確かに、今日の文明を見れば、そのことが自明のこととなります。でも、人間の文明における知識では、わかないことも多いのです。そして、できないことも数多くあります。そんな人間の難題を、やすやすと行うことのできる動物がいることもわかってきました。最近の知見では、動物のなかで、もう一方の極致として鳥の存在が注目されています。フクロウは急降下して、地上の獲物をキャッチして飛び立っていきます。そのとき、捕らえられる獲物は、フクロウが近づく音に気が付かないのです。これを利用したものが、新幹線です。この最新の列車は300キロ近い高速で走行していても、ほとんど音がしません。時代の先端を行く新幹線は、フクロウの羽の構造を真似てパンタグラフを作っているのです。カルガモの親の後を、インプリンティングされたヒナたちが順に歩く姿は、私たちに癒しをもたらします。この順序良く歩く姿を真似たモデルとして、複数の自動車が一定の車間距離をとって運転する仕組みが工夫されています。ヒナたちの動きが、高速道路などをハンドル操作なしに自動運転することに、応用されるかもしれないのです。
鳥の中には、人間の英知が及ばない知的可能性が存在するようです。多くの鳥の特徴に、群れで行動することがあります。弱い鳥の集まり、少ないエネルギーで効率の良い採餌を確保することが知られています。鳥は、警戒心が強く臆病です。でも、生きていくための手段として、利用できるものを利用します。その一つに、混群があります。小さな鳥は、食性の近い異なる種類の鳥の混群をつくるのです。群れを大きくすることで、大きな鳥から自分を守り、そして種を守る行動をとっているわけです。弱者が強者に対抗する知恵は、鳥の社会に見ることができます。
そこで、弱者が強者に向かう知恵や工夫を考えてみました。いま東南アジアで、中国に対して対抗できる国はありません。中国は、海外に軍事力を展開していきます。フィリピンは以前、領有権問題で中国と対立していました。でも、現在は中国から一歩引きながら、自国の利益と将来の権益を守ることに徹しています。フィリピンは、南シナ海で中国と妥協し、経済的利益を優先しているわけです。軍事力で対抗するより、経済優先が現状にあった戦術だからです。国家の運営が困難になった場合、まず、国民が生き残りを図る工夫をします。小鳥が、えさ場を確保することで「良い」とする姿勢に似ているかもしれません。弱い小鳥が自分と種を守るために、猛禽類に無駄な抵抗することをしない行動と似ています。
日本の尖閣諸島には、中国艦船の侵入が続きます。航空機の侵犯も多くなりつつあります。中国の侵犯に、日本は国家として対処していくことになります。微笑外交が続くとしても、この侵入や侵犯は、今後100年にわたって続くことを覚悟する必要があります。小鳥の戦術を使えば、猛禽類が疲れることを待つことになります。経済成長が低下している中国がこの勢いのまま海外に進出を続けることに、限界が見え始めてきています。中国には、いくつかのアキレス腱があります。一気に建設した鉄道や道路橋などインフラが、近い時期に一斉に老巧化する状況が訪れます。これを再建築し、大規模補修する人材も資金も少なくなっているのです。さらに、国民を満足させる社会保障費を、人口ボーナスの無くなった中国に出せる余裕がなくなりつつあります。もっとも、GDP世界2位の国が、すぐに衰退するわけではありません。侵入や侵犯に耐える覚悟と抵抗が、中国の経済を徐々に消耗させます。中国の限界を弱者である周辺国は、いろいろな角度から突いていくことになります。もっとも、日本が中国に対抗している戦術を、他国を同調させようという意図には無理があります。鳥の行動を学ぶことにより、鳥の叡智に近づくことができるかもしれません。
鳥の知恵は、国家の存続を超えて、地球の存続を明るいものする可能性を持っています。器機をつけた放鳥から人工衛星を介して、情報をリアルタイムで受信する方法をバイオロギングといいます。このバイオロギングの調査から、鳥の渡りのコースがしだいに変化してきていることがわかってきました。異常気象の年は、鳥が移動する位置の風向が大きく変化していたのです。鳥の移動のデータは、気象衛星の記録ともよく合致しています。鳥の渡りのコースがしだいに変化する原因は、おそらく地球温暖化によるものだともいわれています。今後、人間のいない調査のできない地域の温度や風向などが明らかになってくるでしょう。それとともに、地球の気候が緻密に把握されることになります。
余談ですが、現在の人工知能(AI)が急速に進化し続けているのは、AIが単独に学習しているだけではありません。AIは、原理的には世界中のどのAIが学んだ成果もすべて瞬時に共有できます。世界各地に分散しているAIが、ネットワークを通じて互いに学習し情報を教え合うことができるようになるわけです。この仕組みを、鳥の移動についても利用できるでしょう。鳥の移動の記録だけでなく、通過した地域の風向や風速もデータ化することができるようになります。もちろん、海上の変化も把握できます。鳥に装着させた小型ビデオカメラやセンサーなどの装置を通じて、画像やデータを記録する学習データが鳥からも得られれば、気象予報の機械学習の精度が上がります。そのデータや分析から、今までになかった有意義な知見が得られるかもしれません。その知見の中に、地球温暖化の解決のヒントがあれば面白いのですが。