人間の感情には、喜び、高揚、好感、快感、悲しみ、落胆、恐怖、不安、怒りなどがあります。これらの中で負の感情が多くなれば、「うつ」の状態になりやすくなります。プラス感情が多くなれば、活動的な状態になります。一般に、「うつ」の状態にならないためには、セロトニンの分泌が必要になります。セロトニンの分泌が正常であれば、いろいろな感情を制御できます。また、適度に発散する機制を行えば、より良い状態が保てます。一般的には適応規制を働かせて、最悪にまで至らず、平静を保つ人が多いわけです。近年、この感情の安定が必要とされる分野は、新しい開発を目指す部署と言われています。多様性が重要で、多様な価値観の人と会うことが、新しいアイデアを生むことは常識になりつつあります。自分とは違う相手も受け入れていくことが、多様性を認める前提になります。自分にとって好ましくない避けたい人間関係においても、開発や研究を進める重要な部署があります。異文化の人材が集まり、プロジェクトを進めることも多くなりました。その中で、葛藤やぎりぎりのせめぎあいを共有した仲間の間には、親密な連帯感が生まれるケースも増えているようです。異質集団が、切瑳琢磨しながら個人の能力と集団の開発力を高めてきたともいえます。結果を出すまでには、いろいろな葛藤や不安がでてきます。この負の要素に対して、抑制ある行動が求められることは言うまでもありません。それでは、どうすればこの抑制ある行動がとれるようになるか、それが今回のテーマになります。
競技者は、競技の中で毎回緊張することを体験しています。緊張することが当たり前だと理解しています。むしろ、緊張が必要なものと競技者は熟知しているわけです。緊張が高まれば高まるほど、「来た来た」とパフォーマンスが高まっていくことを実感できるようになります。緊張さえコントロールできれば、ここぞという場面で、普段以上の力を発揮できることを体験的に理解しているわけです。競技者は、緊張がパフォーマンスを高めることを知っています。生物学的に考えると、空腹になると捕食活動をする必要が出てきます。緊張のレベルを上げて、集中力を高めて、獲物を探し、獲物をとらえる体制に入るわけです。緊張のレベルを上げるためには、交感神経を活性化して、セロトニンの分泌を抑え、アドレナリンの分泌を高くすることになります。動物は、空腹になると捕食活動をする必要があるために身体機能をアップしなければなりません。その時の体内は、興奮をもたらす準備が整っているわけです。競技者は、この興奮と抑制を上手に使い分けているとも言えます。
肉食動物が、獲物を捕らえた瞬間、そして食べているときにドーパミンが分泌されます。人間の場合、美味しい食事の経験は、ドーパミンが分泌されます。さらに、この美味しい経験が、海馬を通して脳の各部署に記憶されます。一度食べて美味しかったものに対する食欲は、食べたことがなかったときより大きくなるものです。次に同じような美味しい食べ物が出てきたときには、より速いドーパミン放出が起こるようになります。より速いドーパミン放出が起こるようになることが期待の快感です。ドーパミンによる快楽とは、原始時代から、ヒトの脳が用意し、頑張っている自分へのご褒美ともいえます。快楽のご褒美は時には生理的欲求を打ち負かすほどのものですから、非常に強力です。ドーパミンと快楽の仕組みが、報酬系といわれるものです。この報酬系は、脳の1つの場所あるものではありません。報酬系は、様々な機能を持った脳の各部のネットワークになります。このネットワークを刺激することで、快感物質であるドーパミンが分泌され、人間は「楽しさ」を感じるようです。この「楽しさ」は、個人個人それぞれがつくっていくことになるようです。
ドーパミンは、前頭前野を興奮させ意欲的にさせる物質になります。ドーパミンの分泌が不足すると、意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になります。現在の難病に、パーキンソン病があります。この病気になると、脳の中のドーパミンという神経伝達物質が減少します。ドーパミンが減少すると、運動の調節がうまくいかなくなるのです。この物質には「からだを動かせ」という脳の指令を、全身の筋肉に伝える役割があります。ドーパミンは身体を動かせと強烈な指示をだすと同時に快感ももたらす働きもしているのです。また、この他にもドーパミンの分泌が活発になることがあります。新しい行動を始めようと、やる気が出た状態になっているときに分泌されます。美味しい食事やセックスなど、快楽を脳が感じるときにも分泌されます。また、好奇心が働き、楽しいことをしているとき、そして目的を達成したときなどに分泌されることが知られています。ドーパミンが出やすい環境で働くことができれば、生産性の高い業績を上げる可能性が出てきます。
ドーパミンと同じように、生産性を高める物質があります。たとえば、ウオーキングやランニングで肉体疲労の状態にすると、良い睡眠すなわち、深い眠りを得ることができます。深い眠りにつくことができれば、朝起きた時にセロトニンが分泌されます。この時、太陽の光を浴びるとこの分泌は加速されます。この物質が分泌され、十分に機能すれば、ストレス耐性は高まります。イライラしたり、理由なく怒ったり、過剰に不安になったりすることを抑制する自制心を持つことができます。セロトニンは、夜になるとメラトニンとなります。メラトニンは睡眠物質ですから、良好な睡眠をもたらすことになります。このようなサイクルを作ることができれば、個人の健康レベルは良好な状態になります。心身の状態を調べて、生活や労働に従事できる健康を作り出すことが、これからの人々には求められるようです。基本は、食と睡眠、そして運動になります。
人間がもつ行動様式は、他の霊長類に比べて進歩が格段に速いものです。人間がもつ知識は、集団内で共有され、その進歩は格段に速いということです。人間の脳は,生まれ育つ環境や他者と関わり合いながら発達していきます。複雑な集団の中で生きていくために,他者を理解する機能がより顕著に発達してきたともいえます。現在、国籍や民族の多様化が進み、社会のあり方は急激に変容しています。人類の歴史を振り返ると,同じ文化圏の人々と交流する機会が圧倒的に多かったのです。でも、今は国籍や民族の多様化が進み,インターネットを介してのコミュニケーションも急増しています。社会の変化に伴い、国籍や地域によらず、他者を理解する能力も今以上にさらに進化し向上することが求められています。でも、異文化になじめなく、差別感や孤立感を持つ人々がいます。その中にあって、日本の職場で明るくしっかり働いいている外国の方もいます。このような事例を調べれば、外国人労働者の方が継続的に働ける仕組みが分かるかもしれません。その調べる視点に、ドーパミンやセロトニンの分泌を促す項目を加えてほしいものです。具体的には、やる気が出る状況をつくること、好奇心が働き、楽しいことができ、そして目的が達成しやすい環境をつくることなどになります。このような環境を用意すれば、異文化の人達もクリエイティブに働くことができるようになります。