米中の摩擦や英国のEU離脱など、世界の趨勢が不透明になりつつあります。地球温暖化に象徴されるように、環境の悪化も顕著なってきました。将来が見通せない状況に不安を感じる方も増えているようです。でも、天気予報などは、1週間先くらいまでならばかなりの精度で当てることができます。人口統計などは、数十年先までほぼ正しく予測できるようになっています。国際情勢も大きな潮流に限れば、数年先まで予測可能です。説得力のある未来を予測して、提示することができれば、ビジネスチャンスにもつながる時代でもあります。未来をよりも早く知り、そして先んじて対応できるなら、ビジネスチャンスも得られるというわけです。
そこで、不安定な世界を先取りできる情報獲得力を高めることについて考えてみました。米中摩擦が、厳しさを増してきました。アメリカにとって、中国というライバルを落ち目にすることが重要な国家戦略になっています。第二次世界大戦後は、ソ連がアメリカの軍事的政治的ライバルになりました。その後、一時的に日本が経済的ライバルになったことがあります。これらのライバルに、すべてアメリカが勝利を収めています。そして現在、中国がライバルとして台頭してきています。このような現象は、歴史の中で数多く現れていたようです。有名な事例では、古代ギリシャに見られます。
2400年前の古代ギリシャでは、スパルタとアテネとの間に対立が起こりました。古代ギリシャでは、最強の陸上兵力をもつスパルタと、海上交易の新興国アテネとの間で、ペロポネソス戦争が勃発したのです。ペロポネソス戦争は、新興国アテネが旧覇権国家スパルタの地位を脅かしたことに原因がありました。スパルタとアテネとの間に対立は、古代ギリシャ世界を巻き込んだ戦争に発展していきます。覇権国家と新興国家が戦争を避けられない状況を「トゥキュディデスの罠」と言います。このような状況になった場合、武力だけでなく、お互いの正当性を主張することが多くなります。もちろん、自国の優位性を主張する場合、相手の欠点を指摘する戦術も多用されます。
中国の習近平国家主席による新疆ウイグル自治区の非公開の演説内容を、ニーヨークタイムズが特ダネとして報道しましました。それまで中国政府は、強制収容所ではなくテロ防止のために建設した職業訓練センターだと説明してきました。でも、この報道が世界に広まり、中国政府のウイグル族への弾圧の様子を示した内部文書を巡り欧米の中国批判が強まっています。イギリス政府は、新疆ウイグル自治区への国連監視団の受け入れを求めるようになりました。ドイツのマース外相も、中国は人権に関するルールを遵守すべきだと批判しています。自由や平等への意識の強い欧米諸国では、批判が高まっています。一方、アジアやイスラム圏の中国批判は、欧米ほど広がりを見せていないようです。アフガニスタンやチエチエン紛争、そしてアラブの春の混乱の二の舞になることを、中国が防いでいることを評価しているのかもしれません。
中国政府の一部当局者は、新疆ウイグル自治区において極めて厳しい統制下にあることを認めています。今回の流出文書と中国政府の言動から明らかになった点は、ウイグル族に対する弾圧が行われていること、そしてその弾圧が必要だという点でした。新彊ウイグル自治区の政府は、この政策によって新疆ウイグル地域が非常に安定していることを内外に表明したところです。ある意味で、国家資本主義を推進する中国は、欧米のルールで振る舞う意志のないことを示したのです。むしろ、厳しい規制と繁栄する経済的政策は、素晴らしい組み合わせだと主張しているほどです。厳しい規制と経済政策が、テロや過激派に効果的に対処していることは評価されるべきだとしているのです。欧米の常識からすれば、中国の世界観が、西側とは全く異なる価値観によって支配されている点が明らかになったともいえます。ある時代ある地域において、「テロ」と解釈される行為が正義に代わることは歴史の中に現れます。ある時代のテロが、歴史の変遷のうちに、「テロ」でなく、正義の革命になることもあるわけです。中国が世界の覇権を握れば、新疆ウイグル自治区の政策は、正義の行為と解釈される時代がくるかもしれません。西側には、いくつもの不自由や不平等があります。でも私は、中国の世界観より自由と平等を標榜する西側に身を置くことに満足しています。
そこで、喫緊の課題として、隣国で何が起こっているかを知り、それに対応する方法を考えてみました。例えば、北朝鮮が次に何をやろうとしているのかを見てみます。北朝鮮が、「ミサイルを発射するかどうか」を予測してみました。北朝鮮には、いくつかのミサイル発射基地があります。その発射場に、車両の出入りが頻繁になってきました。この車両の出入りが、2週間前に比べて倍増してきました。燃料トレーラーの出入りが、発射場に通常の倍以上になったという状況が出てきたわけです。次に、北朝鮮の指導者が、ミサイルの発射を示唆する談話が出てきたとします。この指導者が宣言したことは、過去に高い確率で実施されているという経緯があります。これらの2つの事実から、ミサイルの発射の可能性は高いという仮説が成り立つわけです。でも、仮説の構築は、対応の一部に過ぎません。
燃料トレーラーの出入りと指導者の発言の相関関係を考察する目的の一つは、因果関係を見つけ出すことにあります。この因果関係が明確にできれば、相関関係の明確化より未来予測の確度が高められます。因果関係が分かれば、現在の事象の原因を捉え、未来に起こる結果を予測できるわけです。北朝鮮の状況を分析すると、経済的に困窮しています。いつまでも、国民にこの状態を強いることできないようです。貿易が自由にできれば、この困窮は緩和します。現在、北朝鮮に対して行われている経済制裁の解除が、北朝鮮の狙いだということが浮かび上がります。経済制裁の解除のためには、核の放棄が求められます。でも、核を手に入れた国が、核を手放すことはないようです。すると、北朝鮮の問題は、すぐには解決に向かわないという次の仮説が出てきます。ミサイルの発射や核開発の情報に一喜一憂することなく、経済制裁とミサイル開発の推移を見守ることになります。もちろん、開発を進めれば、制裁を強化することになります。
もう一つの例題を考えてみましょう。中国国民は、ナショナリズムを日常的に的に強く煽られています。海外旅行中は別として、国内ではSNSなどの媒体も規制の対象になっています。共産党を批判するツイートは、即座に削除されていくシステムが構築されています。中国本土の多くの人々は、香港で何が起きているかを正確には知らされない状況があります。あらゆる空港や鉄道地下鉄の駅には、監視カメラや検問所が設けられ設けられています。常にテロが起きる驚異の中で暮らしているといっても、過言ではないのです。でも、厳しい監視体制に対する国民の不満の兆候はありません。香港情勢も、政府の流す情報が主流になっています。香港市民の暴力映像を流して、警察権力の行使する映像は流されない仕組みになっています。西側諸国から見れば、異常と思える体制に中国国民が溶け込んでいるようです。西側の理想は、中国に一朝一夕には根付かないと考えるべきかもしれません。
体制や価値観の違いを理解したうえで、情報を集めることになります。中国の情報を評価する場合、西側の感覚で判断することをしないことです。中国の価値観と西側の価値観を考慮しながら、評価していくことになります。価値ある情報を集めるには複数の情報ソースにアクセスし、情報の真偽を確かめることになります。新聞であれば、読売と朝日を読み比べるなどの配慮が必要になるかもしれません。さらに、詳しく知ろうとすれば、専門家の書いた本を複数読むことになります。より詳しく知ろうとすれば、専門家の過去10年程度の論旨の変化などを比較することも必要になるかもしれません。中国に関して言えば、専門家によってはかなり論旨の変化が見られます。10年間の中国の状況とその変化、そして、その因果関係をある程度正確に記述している方の情報を、信頼することになります。