日本では、PCR検査の拡大は必ずしも望ましくないという議論がなされています。なぜ検査が望ましくないかという理由が、私にはいまひとつ分からない点でした。その点が少しわかったことが、今回の収穫でした。分かった点は、PCR検査の精度にいくつかの問題があるというものでした。PCR検査には、「偽陽性」と「偽陰性」が一定の割合で生じるというものでした。偽陽性は、「感染していない人が検査で陽性と出てしまう誤り」になります。日常的な用語を用いれば、誤って陽性にしてしまうことです。一方、偽陰性は「感染している人が検査で陰性と出てしまう 誤り」です。新型コロナに感染しているにも関わらず、陰性となってしまうことです。PCR検査は完璧ではないから、一定の確率で誤り起きるというわけです。2020年7月6日の感染症対策分科会の資料では、「偽陰性率は30%、偽陽性率は1%」と「仮定」して、記述が進められています。PCR検査の偽陰性率は30%程度で、見逃しが3割程度あるということになります。意外と、いい加減な検査だという思いでした。いい加減な検査に、1回1万8千円を出すのは躊躇してしまいます。
厚生労働省の退院基準は、2回の検査で続けて陰性となることを退院の基準の一つにしています。退院基準は、24時間以上の間隔をおいて、2回の検査を続けて陰性となることになります。一方、偽陽性率の方にも、厄介な問題が生じます。偽陽性率の値が1%なのか0.01%なのかは、PCR検査の拡大の影響を論じる際には重要なキーワードになります。偽陽性率が1%ならば、陰性の人を1万人調べると100人が陽性と誤判定されるわけです。陽性と間違って判定された方は、病院やホテルに隔離されることになります。無駄な隔離が、100人分増えるというわけです。100万人を調べれば、1万人の誤った陽性者が、隔離されることになります。この1万人が、医療崩壊を招く原因になるかもしれないのです。その意味でも、偽陽性率の実際の値が1%なのか、あるいは0.01%なのかは、重要な値になります。他方、PCR検査の偽陰性率の精度が30%程度では、「陰性証明書」の信頼性は低いことになります。偽陰性率は、ウイルス量や感染からの日数によって、検査の数値が変わることになるようです。
新型コロナの感染から診断に、潜伏期間の約5日に加え、発症から診断まで7日ほどかかることになります。感染防止のための有効な手段がなく、感染経路の不明な陽性者が増えています。感染者を特定するために、アプリの使用も行われています。接触確認アプリでは、感染者との接触情報は「何月何日に接触があった」という形で通知されます。通知時間情報があれば、より詳しく感染した場所が特定できます。例えば、7時から9時の間に感染したという通知が来れば、通勤時間に感染した可能性が高いことが分かります。「通勤電車の中で感染がおこった」という可能性は、重要な情報になります。通勤時間における感染の情報は、価値が高いものです。陽性者の記憶をたどる人海戦術の感染追跡では、情報収集が後手後手になり難しい面がでてきます。通勤電車における無症状者が、複数の陽性者と接触がわかれば、絞り込んだ感染者追跡が可能になるわけです。
新型コロナウイルス感染の拡大は、大きな社会的なショックを引き起こしています。見えないものへの恐怖心と、逆にそのような恐怖から逃れたいという心理が人間には働くものです。ソーシャルメディアは、読者の心理を見越して注目を引く発言が多くなります。この発言が、人々を疑心暗鬼にしてしまいます。この混乱を収めるためには、最新の状況を迅速に、客観的なデータとして提供する必要があります。特に、マスクやソーシャルディスタンスが、この感染症に有効であることが実証されつつあります。最新のコンピュータ「富岳」を使い、マスクによる飛沫の拡散防止効果などを計算した結果を公表しています。それによると、不織布、ポリエステル、綿を使ったマスクの防止効果は不織布が最も高いという結果になりました。でも、飛沫の体積でみると、どの素材も約8割の飛沫の飛散を防いでいます。マスクをつけていれば、ある程度飛散は防げるということです。一方、直径20マイクロメートル以下の小さな飛沫は、マスクと顔のすき間から1割以上漏れ出たという結果もでています。
ウイルスの含んだ飛沫を、できるだけ飛散させないマスクが求められているわけです。そんなニーズに、応える会社が現れました。東京工業大学発スタートマップのゼタは、極微細な繊維を効率的に生産する技術を持っていました。この会社が、ウイルスを捕集できるナノファイバーを安定して生産することに成功したのです。ゼタの実験では、このナノファイバーで作ったマスクは、新型コロナと同サイズの微粒子を95%以上捕集しているのです。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界の高機能マスク需要は高いものがあります。従来の高機能マスクは、静電気でウイルスを捕まえる仕 組みでした。静電気を使うマスクは、呼吸の際に生じる水分の影響で短時間のうちに効果が低滅するため、1日に何度も交換する弱点がありました。この繊維で作った不織布マスクは、ウイルスを捕まえる力が強く洗濯して繰り返し使える利点があります。分子間力でウイルスを捕まえる力のあるナノファイバーなら、繊維が壊れない限り効果が続くわけです。
一つの効果だけでも素晴らしいのですが、それにもう一つの効果を加えれば、より素晴らしいマスクができます。青森特産の染料「あおもり藍」は、A型インフルエンザウイルスを不活性化する働きがあることが分かりました。この藍は、以前より細菌やカビなどへの抗菌効果があることは証明されていたのです。実験では、A型インフルエンザウイルスを犬の細胞に混ぜると感染性ウイルス約6000個を検出しました。ところが、藍葉エキスを混ぜると全く検出されなかったのです。「あおもり藍」は、強いインフルエンザ不活性効果をもつことが確認できたわけです。東北医科薬科大学(仙台市)、あおもり藍産業協同組合(青森市)との共同研究で、ウイルスに効果があることを確認したのは世界で初めてのことでした。「インフルエンザウイルス阻害剤」として特許出願し、予防商品の開発を行うようです。夏が過ぎて、秋や冬になると新型コロナウイルスとインフルエンザのダブル感染が心配されています。新型コロナを95%以上捕集する繊維とは、強いインフルエンザ不活性効果持つ「あおもり藍」を組み合わせれば、素晴らしいマスクができます。ぜひ、ダブル感染を防ぐマスクを作ってほしいものです。
余談ですが、久留米緋(かすり)を使ったご当地マスクが話題になっています。緋に、ダブルガーゼを組み合わせたマスクも作っています。4月には、200枚売れた日もあるようです。ちなみに、このマスクは1300円だそうです。夏には、保冷剤を入れるポケット付きなど工夫も多様のようです。久留米緋のマスクは、肌触りのよさや洗える利便性に加え、ファッション感覚で求める方も多いのです。自分の顔にフィットするように、オーダーメイドのマスクを求める人もいるようです。マスクのオーダーも多く、県外からも来店者がいるのです。ここまで分かれば、高性能のナノファイバー繊維の布地に、「あおもり藍」付加し、ファッション性のあるマスクの発想が生まれます。冬季に心配されている新型コロナとインフルエンザのダブル感染を防ぐと同時に、ファッションセンスを磨く人たちが現れるかもしれません。