アメリカと中国の通商交渉が、緊迫の度合を高めてきました。3月の交渉決裂を望まないのであれば、両国ともまとめやすい内容で部分合意しをすることになります。知財などの難しい問題は、継続交渉にするという扱いになるでしょう。知財侵害や競争阻害行為については、日本もアメリカやEUとスクラムを組んで中国に対峙することになります。もっとも、最近アメリカは、超党派で安全保障や諜報活動を重視するハイテク冷戦の様相を示しています。アメリカと中国の緊張は単なる貿易問題から、安全保障上の覇権争いに姿を変えつつあるのです。
中国国内では、経済の変調が起きています。中国の民間企業が、税収の5割を納め、GDPの6割を生産し、都市雇用の8割を占めています。民営企業は経済フローの過半を占めているのですが、経済ストック(富)の分配では十分でない状態にあります。国営企業が利益を上げないにも関わらず、多くの富の配分を享受しているのです。民間企業が、資金の不足に悩んでいます。国営企業が富を取り過ぎて、資金不足の民営企業は発展できない状態にあるわけです。効率が高い民間企業を伸ばし、生産性の低い国有企業を縮小するべきなのです。一部の特権階級が利益を享受している姿は、望ましい状況ではありません。
そんな中でも、中国の民間企業には成長する企業が現れています。近年、中国人の生活水準が高まる中、人々の関心は「モノ」から「精神的な豊かさ」へと移行しています。中堅上場企業の中には、娯楽や環境、医薬品分野の会社が上位に入ることも増えてきました。これらの企業は、社会の変化に伴う新たな消費者のニーズをしっかりつかんでいいるようです。例えば、豚肉は、中国人にとって必要不可欠な生活に根ざした食材です。現在日本でも、豚コレラが流行しています。中国でも、この危険は十分あるのです。ある民間企業は、ブタやニワトリといった繁殖用の動物向けに、予防ワクチンなどを開発し製造しています。観光産業が、重要な役割を担っています。湖南省の景勝地、武陵源の観光施設やホテルなどを、運営管理する企業があります。風光明媚な景観が人気のスポットで、空中散歩を楽しめるガラスのつり橋を新たに開業しています。人びとのニーズを満たす企画を次々に作り出しています。
一部企業の活躍にもかかわらず、中国市民にも変化が見られます。2018年10月ごろから、経済の厳しさの到来を予感して、家計は倹約を心がけているのです。倹約の様子は、ぜいたく品にかかる消費税収の急落に顕著に現れています。この流れは、民間企業にも出てきています。厳冬の到来を予感して企業は、固定費の圧縮を急ぎ始めました。好調なはずのネット大企業が、人員整理の動きを始めているのです。でも、国営企業は、依然として資金や資材の不安がない状態になっています。国営企業は、このままでも安泰なのでしょうか。中国経済の一つの転機は、2008年のリーマンショック直後の64兆円投資でした。この投資ブーム開始から10年の間に、固定資産投資額の合計は7200兆円になったのです。7200兆円の投資を重ねていれば、優良な投資案件は底をつき、後に残るは不採算の案件だけになってしまいます。この不採算案件にも、地方政府は債権を発行し、湯水のように資金を投じました。これまで中央政府の暗黙の保証のおかげで、地方政府の債務不履行や倒産は起きませんでした。資金が公共事業に偏っていることは回収率が悪くなり、長い目で見れば経済の停滞に繋がります。最近では、金融機関は財政力が弱い地方政府の債券を購入したがらなくなっているのです。地方政府が地方に資金を投じるように、中央政府は、アフリカやアジアに投資しています。この資金も、十分に回収しているとはいえません。
中国の欠点だけ見ていても、面白くありません。少し可能性のある対外投資について見てみました。中国は、ミャンマーが軍事独裁政権の当時から経済援助をしてきました。経済と軍事において強い関係を築いてきたわけです。ミャンマーは民主化されたとはいえ、まだまだ軍人の力が優勢です。中国の影響力は、根強く残っています。中国からミャンマー、そしてアフリカへのルートは、経済通路としての利点を持っています。中国はミャンマーを開発し、アフリカからの原油を中国に連ぶ通路にしようとしています。中国の弱点は、工業生産施設が深圳などの海岸地域にあることなのです。内陸部の発展が、中国を真の意味で豊かにする原動力になります。ミャンマーから雲南を通過して、中国の内陸部に工業資源を送ることができれば、中国全土が豊かになれるという理屈です。アフリカからマラッカ海峡を通過して、南シナ海を通過するルートには多くのリスクが伴います。リスクは少ない方が、良いわけです。中国の鉄道網は、公共投資で過剰なほど充実しています。ベンガル湾からミャンマーに陸揚げされたアフリカの資源は、鉄道を通して中国に運ぶことは容易にできます。そして、中国は、ミャンマーを通じて自国の商品をアフリカに送ることも可能です。ミャンマーの市場は、中国の企業とミャンマーの軍人が利権を握っています。当然、流通も容易になります。今まで投資してきたミャンマーと、中国の企業がウインウインになる仕組みはできているといって良いでしょう。
中国の投資で問題になることは、お互いの国同士が利益を上げていく仕組みが上手にできていないという点です。せっかく建設した港や鉄道施設を、有効に使っていないのです。公共投資を増発にも、「毒を飲んで渇きを癒やすたけ」と批評する識者が増えています。非効率的な国有企業の利権に、メスを入れる姿勢が共産党には見られません。公共投資の暴走が、止まらないまま進んでいくようです。人民解放軍を退役した人達が、生活向上のためのデモをする様子が放映されていました。この映像は、すぐに消されたようです。中国の財政は、高齢化の急速な進行により今後の年金債務が課題になります。内部にも、多くの課題を抱えています。そして、外部にも多くの課題を抱えています。自由な発想のできる人材が出現すれば、意外と今までの債務を利用しながら問題を解決できる可能性も出てくると考えるのは独断でしょうか。中国経済は、短期的には大事にいたらず、長期的には悲観材料が多くなるという見方になっているようです。中国経済の減速は、今後も続くということでしょうか。その中に、光るダイヤモンドもあるということを知っておくと、ビジネスチャンスをつかむことができるかもしれません。
最後になりますが、中国の人びとのニーズを捉えた中堅企業との連携は、ビジネスの目になるかもしれません。また、ミャンマーに物流センターや流通倉庫を作ることも、将来のビジネスチャンスに繋がるかもしれません。もっとも、倉庫群は中国に作ってもらって、その効率的運用を担うだけの方が利益を得ることができるかもしれません。