ところてんや寒天は、健康志向や猛暑の影響で需要が増えています。ところてんや寒天の材料は、テングサです。この主要な産地は、静岡県と愛知県が有名です。太さや粘りの良さから、国内最上級品とされるもが静岡県の伊豆半島のテングサになります。このテングサが、不漁になっているのです。伊豆半島は、多様な魚介類やテングサの宝庫です。ところが、黒潮潮大蛇行の影響で、栄養塩が十分に供給されなかったのです。結果として、テングサの不漁となったわけです。
兵庫県が、時代に逆行するようなことを始めました。瀬戸内海で「海をきれいにし過ぎない取り組み」を進めているのです。瀬戸内海は過去において、赤潮に苦しめられました。赤潮防止のために、窒素の排水基準を厳しくした経緯があります。この処置が成果を上げて、瀬戸内海の窒素量を減らすことに成功していたのです。窒素が減るにつれて、海の透明度は上がってきました。でも、「水清ければ魚棲まず」の状態になってきたのです。窒素は植物の生育に欠かせないもので、リンなどと並んで海水中の栄養塩と呼ばれています。植物プランクトンの生育に不可欠な窒素が減り、漁業に影響が出ているのです。伊豆の漁場と同じ状態になっているわけです。そのためプランクトンの生育環境を改善しようと、県内3カ所の下水処理場で排水基準を緩めた上で排出することにしています。
ニシン漁で栄えた北海道北西部にある増毛町では、夏を迎えるとコンブが大量に採れるようになりました。日本海に面した海岸には、黒茶色のコンブが豊かに生えそろいます。この海岸は、5年ほど前まで、海藻が生えない磯焼けの海岸だったのです。日本製鉄が地元の漁協と組み、2014年から植生回復の実証事業を始めたのです。製鉄時に出る鉄分を含んだ砂利を、土と混ぜて、ヤシの袋に入れて浅瀬に埋設することを行ってきました。コンブの生育に欠かせない鉄分を、供給する仕組みでした。鉄分を供給することにより、コンブの成長が1本当たりの重さが8倍も大きく育つという成果を上げています。
日本製鉄の狙いは、単にコンブの植生の回復だけではなく海藻が吸収する二酸化炭素対策でした。国連は、海藻をブルーカーボンとして取り上げ、高い評価を与えたのです。
アマゾンなどの森林で貯留される炭素は、グリーンカーボンと言われています。国連は、
海草の働きを調べました。その結論は、海は陸と同程度の二酸化炭素を吸収する能力があるというものでした。アマモなどの海草よりも、コンブやワカメなどの大型藻場の潜在力が大きいということも分かりました。余談ですが、藻場が回復すれば小魚や海烏など沿岸の生き物も集まってきます。一つの生態体系が、構築されることになります。環境に優しい地域になるわけです。もうひとつ、面白いことがあります。横浜市では、沿岸でワカメを養殖しています。その理由が、トライアスロンと関係しているというのです。ワカメの養殖で減らした二酸化炭素の量を、トライアスロン大会で排出される二酸化炭素と相殺しようとしているのです。大会が行われれば、役員や参加者が車を使った移動に、二酸化炭素は排出されます。それを、ワカメが補完するというわけです。
夏になると、岩手県洋野町の食堂は観光客でいっぱいになります。ウニ丼やウニ焼きなどの新新鮮なウニを堪能できるのです。洋野町は、「ウニの楽園」とも呼ばれています。昆布を思う存分食べるから、うま昧、甘みがあり、実入りも良いウニが育ちます。海藻をたっぷり食べて育った洋野町のウニは、世界の人を魅了しつつあります。このウニはタイや香港、台湾などへ生きたまま出荷されているのです。海岸沿いに十数km続く岩棚には、ウニの大好物の海藻が生い茂っています。もともと豊かな漁場でしたが、50年前に漁師が海中にウニ用の岩棚を作ったのです。さらに、地元の研究機関が常時約250万匹のウニの赤ちゃんを育てています。この稚ウニ250万匹を楽園へ放流し、4年かけてウニを太らせるわけです。この大量の放流は、安定供給するための工夫になっています。狙いは旬の夏だけでなく、ウニを通年で出荷するビジネスチャンスを狙っているのです。ウニが、過疎化が進んでいた町を盛り上げている様子が見えるようです。
お隣の青森県では、ホタテの生育が順調です。生育に適した海水温が続き、一回り小さいべビーホタテ出荷量が過去最高を更新しました。べビーホタテは半成貝と呼ばれ、1年で出荷できます。水揚げの季節も4~7月と早めで、ホタテの先行指標ともされています。大きなホタテは、出荷まで3年以上かかります。近年不漁とされてきましたが、嬉しいニュースです。稚貝を海底にまいたり、カゴに入れて海中につるなどして、3年ほど成長させて出荷します。冬のしけや夏の高水温などで被害を受けると、回復までに数年がかかり、経営を圧迫する材料になってきました。経営リスクを軽滅するために、青森では短期間で出荷できるべビーの養殖に転向者増えているとも言われています。一方、北海道のサロマ湖ではホタル御殿などが立っているようです。色々な水産物が高騰する中で、ベビーホタテは、特売できる貴重な食材になっています。この小さなホタテの値段は、1~2割ほど安く、都内の鮮魚店では特売品として並んでいます。
ざっと、漁業の様子を眺めてきました。そこで気がつくのは、時間をかけて漁場をじっくり作ってきた地域や漁協が豊かになっていることでした。天然魚の生産は、世界的に行き詰まってきました。地球温暖化が進めば、天然漁の生産量は現在の80%程度になると言われています。これからは、養殖が主流になるでしょう。漁協と企業、そして地域が養殖業で共生していく姿が見えるようです。