日本でも2010年代以降に、ワーケーションという言葉が使われるようになりました。ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせたワーケーションという造語になります。観光庁は、2020年12月に発表した指針でワーケーションを休暇型と業務型に分類しています。休暇型は、有給休暇を活用した観光地でのテレワークになります。業務型には、地方のサテライトオフィスでの勤務やリゾート地での合宿などになります。もっとも、言葉の普及とは反対に、ワーケーションがオフィスや在宅勤務を完全に代替するものではないことも理解されつつあるようです。既存の働き方と組み合わせて、一時的に活用することが現実的な使用方法のようです。滞在費用の負担も普及のハードルになっており、経営層が納得できる効果の検証がこれからという状態のようです。
一方、先進的な企業では、ワーケーションの効果が確認されているようです。この方式を取り入れて、実際に生産性を上げている企業も出てきているのです。2020年6月に、ある研究所が沖縄で行った実証実験では、良い結果が報告されています。3日間のワーケーションを体験した人の生産性は平均20%上昇し、ストレスは37%低下したというのです。さらにリフレッシュ効果を、35%の参加者が認めています。面白い報告は、「これまでと異なる環境で新たなアイデアや企画が生まれた」という声も14%に及んでいるのです。非日常的時空間で過ごす場合、新たなアイデアを生むことを経験することはよくあります。課題もあるようです。新入社員研修に関しては、ワーケーション形式だと生産性が低下することが明らかになっているのです。
この新入社員の研修において、アイデアを求めることが難しいことは、ある面で当たり前のことです。アイデアは、既存の要素を新しい組み合わせでつくり出すことになります。そのアイデア作成には、一連の過程があります。アイデアを作り出したい人は、データをできるかぎり収集します。つまり、その仕事や分野の知識が一定程度ないと、組み合わせが貧弱になり、良いアイデアは出てこないということなのです。次に収集したデータを徹底的に考えに考えます。そして、いったん考えたことを忘れて、潜在意識にデータの組み合わせをまかせる過程があります。温泉につかり散歩をしながらアイデアが生まれ出るのを待ちます。アイデアが生まれたら、それを誰にでもわかるように具体化するという流れになります。新入社員は、業界の知識がまだまだ不十分です。その組み合わせる知識が少ないために、アイデアの生産能力が劣るわけです。新入社員は、仕事の知識を増やし業界の知識を増やすことです。たとえば、日経ビジネスは30万部、エコノミスト、ダイヤモンド、東洋経済をあわせて100万部が、発行されています。日本のサラリーマン5000万人のうちこれらのビジネス雑誌を読む人は100万人になります。日常的にこれらの雑誌を読んでいれば、一定の知識の蓄積は可能です。やる新入社員とやらない新入社員の中には、知識の差が出てきます。アイデアを生む基本は、知識の吸収と課題に向き合う姿勢になります。
白い砂浜で知られる和歌山県白浜町や全国屈指の別府温泉地に、ワーケーションのサテラトオフィスが開業される新聞記事が載るようになりました。ある記事には、若手社員を入れ替わりで3カ月間ずつ滞在させる企業もあるようです。6畳一間の住居兼用で、源泉掛け流しの浴場も併設するなどの優遇措置があるようです。さらに、ワーケーションを通して、地域住民と交流して、課題解決をともに考える企画もあります。温泉で合宿して、くつろいだ雰囲気の中で議論し、既存事業の延長線上にない発想を生み出しているようです。特に、業務型には、地元住民との交流を通じた地域の課題解決が含まれます。
昨今の地方自治体の問題点は、数多くあります。たとえば、無秩序な都市の郊外拡散は、行政コストを高くしています。上下水道の拡充にしても、その維持や修理に多大な費用が掛かるようになりました。多くの自治体の水道事業は、赤字経営になっています。その理由は、宅地の拡散によるものです。宅地の拡散は、自動車社会を生み出しました。これも交通インフラの整備に、多くの予算を使う仕組みを作り出しました。交通インフラに費やす予算も、自治体の大きな負担になっています。高度成長期には、予算が毎年増加した経過から、水道事業も交通インフラも拡張が可能でした。でも、人口が減少する地方においては、以前のインフラが重荷になっています。地方の人口減少に対応した適正なインフラの維持が求められています。できれば、これらの事業が黒字化する方向で、制度設計が求められています。これらの課題設定が、簡単にできる時代になりました。この課題解決には難路が控えています。でも、この課題を解決すれば、日本中の市町村を対象にしたビジネスチャンスが生まれるわけです。
この解決策は、一般にコンパクトシティに求めることが多くなります。今の自治体の政策は、人口が減少に向かっているにも関わらず、公共交通などの足のない郊外に広く薄く市街地を広げています。ある意味で、肥満体をより肥満にし、糖尿病に導く政策のように見えます。肥満の方が糖尿病になれば、治療費は相乗的に増大していきます。地方の都市政策を人間に例えれば、病気になって余計な治療費を散財しているようです。コンパクトシティは、都市を公共交通中心に適正な規模に誘導するものです。土地利用の方式を変えて、体質改善を実現する方向で改善を求めていくことになります。この改善できれば、都市、交通、福祉、財政などの問題をクロス縦断的にわたって解決できる可能性を持っています。課題が明確になり、その解決の方向性が分かれば、そのアイデアは次々に出てきます。好奇心と体力の旺盛な若い社員の出番は、これらのアイデアを検証していく仕事になるかもしれません。地元の方と精力的にコミュニケーションできる体力を持っているからです。知識の吸収も早く、それを咀嚼し、実現可能な形にして、再提案する試行錯誤を繰り返すことができると考えられるのです。
ワーケーションをどんな状況下で、誰がいつ、どのくらい、出社と在宅を選ぶのが最適なのか。ワーケーションによって生産性が上がるかどうかは、職種や地域などの条件によって、どのように異なるのか。これらのデータの収集やその分析と、それに基づく施策の具現化は必要なことになります。データ活用の面で世界に遅れをとると、さらに世界の他社とのギャップが開いてしまうことになります。定量化しにくいイノベーション創出の効果は、検証に困難さが伴います。でも、検証が可能になれば、次のステップに進むことができます。次のステップには、宝が埋まっているかもしれないのです。
考える視点や課題の把握は、大切なことです。考える視点というのは、いわば、情報を引っかけるための「トゲ」のようなものです。面白いアイデアがないかとか、何か楽しいことがないかなどの好奇心が、「トゲ」といえます。たとえば、溢れる情報の中に、「健康なシニアが増えている」というものがあります。これがトゲに引っかかります。さらに、国の医療費が2017年は42兆円になった。そして、2040年には67兆円になるという推定が引っかかりました。この二つから、医療費を少なくするために、どうすれば良いかという課題解決に取りかかります。この答えは、健康なシニアがより活動的になる分野に資金を投じることなのです。現在のコロナ感染時において、ワクチンを打った元気なシニアは行動半径を拡大しています。そのシニアをターゲットにしたサービスは、ビジネスチャンスというわけです。たとえば、旅行、飲食、野外活動、中古車などが発想としてでてきます。病気の人にお金を使うより、健康な人を健康のままにする仕組みにお金を使うことが、結果として医療費の軽減に繋がります。ワーケーションに従事する方々が、このような課題を次々に解決していくことを期待しています。