投資家の間に、環境や社会、そして企業統治を重視するESG投資が広がりを見せています。アジアやアフリカの農園や工場で問題になっている環境破壊や児童労働に対して、世界の消費者の目が厳しくなっているのです。事実が公になれば、企業のイメージは悪化し、株価の下落は確実になります。投資家も、環境問題や児童労働に細心の注意を払わざるを得ない状況に追い込まれているともいえます。ブラック企業の過酷な労働によって支えられるサービスは、決して持続可能なものではありません。サービスが有益であることは当然として、社会全体としてバランスが取れていることを証明する義務を企業は負っているのです。
そこで、環境破壊を行う企業は、なぜ利益を上げているにもかかわらず厳しい目で見られてるのかを考えてみました。利益をあげる企業は、経済活動という面からみれば合理的な企業経営をしているはずです。なぜなのか。例えば、農薬による生態系の破壊を考えてみましょう。世界の食料生産の3分の1は、虫や動物の受粉に頼っています。ハチや小鳥の送粉共生による無償の協力で、世界の食糧生産は成り立っているのです。環境破壊によって、これらの担い手が受粉活動が出来なくなった時、誰がそのコストを負担するのでしょうか。人間も利益を得て、ハチや小鳥も利益を得るような生態系の存在が必要になるわけです。もしこの共生が消滅すれば、人類は取り返しのつかない損害を受けるのです。
20世紀前半は、環境破壊が人類にどのような悪影響を及ぼすか半信半疑でした。でも、徐々にその影響は、大きな被害を広い範囲にもたらす事例が出てきました。対処方法も、人間の叡智で考え出されてきました。それまで情報を発信るところは、テレビ、新聞、雑誌、そしてラジオなどのマスメディアでした。今はそれらに加えて、ネットが大きな力を持つようになってきました。予報や予測の技術も、急速に進歩しています。IoTの技術などで、自然環境からいろいろなデータを取得できるようになりました。高度情報化社会では、専門家からだけではなく、一般の方からもSNSを通して多くの生の情報を得ることができるようになりました。異常はすぐに伝わり、その原因の探求や対処法もいち早くできる体制ができつつあります。人々は情報を共有し、事態を理解し、生態系を守り、ともに生産性を高める合理的手段を獲得するようになっています。
企業の損益計算書は、経済指標のみが優先していた現実があります。そこに、環境面の配慮と社会面での配慮が加わるようになったのです。今や、原料の仕入れから、製品の製造、そして発送まで全体を把握することが可能です。その中で、経済合理性を貫きながら、環境破壊や長時間労働などが行われていないことが評価される時代になったわけです。ここで、再度提案です。企業は資源の節約をし、二酸化炭素の排出を削減し、人権の配慮をした経営を行っていくことになります。このような企業を認知して、この企業の商品を購入することが市民の叡智になります。このような企業に、優秀な人材が入社する社会的仕組みを作ることも大切です。企業は、入社した社員に経済合理性と環境負荷削減の重要性を教え、持続可能な生産を行っていくことになります。もちろん、利益に応じた税負担をし、地域に貢献することも大切です。ある会社が週に1回30分早めに退社させて、地元のボランティア活動に参加することを奨励しました。社員にボランティア活動をさせる「対投資効果」は、きわめて大きかったのです。会社での30分間の生産性を大幅に上回る効果を、会社と本人に、そして地域に与えたということです。