最近、ペットにお金や時間をかけることを、惜しまない愛好家が増えてきました。旅行の様子を撮影して、愛犬をブログに載せることを楽しみにしている人達も増えています。国内では、犬と猫が推計で1600万匹飼育されています。ペットを飼っている世帯は、2019年と比較すると、約4%も増えています。ペットが家族の一員となり、食事と居住環境が整うとともに寿命が延びてきています。たとえば、犬の平均寿命は1991年の調査では8.6歳でした。それが、2010年の13.9歳となり、2022年には14.8歳に延びています。猫も、2010年の14.4歳から15.6歳となっています。ペットにも人間と同じように平均寿命だけでなく、健康寿命が求められるようになってきたようです。そのような流れの中で、1匹のペットにかける支出額は増加傾向にあります。犬の場合、2017年に1匹あたり9543円だった毎月の支出総額が、2022年には1万390円に上昇しています。ペット市場は、2017年度の1兆5193億円から緩やかな上昇が続いています。そして、2024年度には1兆8370億円に拡大すると見込まれるまでになりました。支出は増える要因に、ペット医療への支出増加があるようです。ペット産業側にも、人間向けと変わらぬサービスをペット向けに展開する企業が増えつつあるようです。
犬の平均寿命は15歳程度で、猫は約16歳です。犬や猫の平均寿命は、人間の約6分の1の寿命です。飼い主は、ペットの老齢化が進行する姿を見ながら過ごすことになります。長年一緒に暮らしてきたペットの最後を、看取ることは悲しいことです。飼い主が看取りに関わる時間が長くなれば、精神的に落ち込む状態に陥ることになります。日本人は、毎年130万人以上の方が亡くなります。もっとも、コロナ禍においては、150万人を超えたようです。配偶者が亡くなったときに、相手方は精神的に落ち込むことが分かっています。この落ち込みは、あらゆる落ち込みの中で最大級のものです。精神的に崩壊する方もでてきています。いわゆる、うつ状態になるケースもでてくるわけです。偶然ではないでしょうが、犬と猫のペットも、毎年人間と同じ130万頭のペットが亡くなっているのです。家族の一員になったペットがなくなると、その精神的停滞が生じることがあります。ペットを飼っている人は、そうでない人に比べ、うつ病になる方が1.9倍も多かったのです。独り暮らしの高齢者の中には、癒やしを求めて犬や猫を飼っている方が多くいます。この癒やしをもたらすペットを飼っている方に、思わぬ不利益をもたらしているという事実が浮かび上がっているのです。不利益が生じれば、それを軽減する手立てを開発することが求められます。
余談ですが、新しいデジタル化の波が世の中を覆い始めました。たとえば、人工知能が人間の創造的活動にも関与しはじめてきたことで、世界に衝撃を与えています。教師データの学習することなく、コンピュータに大量の画像を読み込ませることで、ネコの概念を自ら学習することに成功しました。2015年には、「畳み込みニューラルネットワーク」という仕組みが開発されました。畳み込みニューラルネットワークによって、コンピュータが自ら「絵を描く」ことができるようになりました。コンピュータが「絵を描く」ことで、人工知能(AI)が創造的活動にも関与しはじめてきました。現在、AIの創造的活動が避けられない技術発展として受け入れられるようになりました。AIの創造的活動はある意昧で、この世界にとってのブレイクスルーになります。コンピュータの知的生産能力やその処理能力は、いずれ人間を超えることが確実視されるようになりました。現在の小学生や中学生が社会に出る頃には、現在とはまったく違う世の中が訪れることが想定されるようになりました。でも、学校教育や入試制度、選挙制度や雇用の仕組み、人々の幸福観や死生観などには、まだまだ変わっていないものが数多くあります。現在の入試制度や選挙制度、そして雇用形態などは、決して聖域ではなく、この10年から20年のうちに劇に変わっていくことが予想されます。この変化の前兆が、ペットの世界にも現れているようです。
ペットに関しては、中長期的に改善傾向にあるものの、いまだに多くのペットが飼い主と生涯を共にできない実情があります。たとえば、中国で飼われているペットの数は1億3000万匹の規模になります。この中国で、大きな変化が起きています。中国に、犬や猫のクローンを提供する企業が現れたのです。ペットのクローンを提供するのは、ベンチャー企業、北京希諾谷生物科技(シノジーン)になります。トウモロコシ畑が広がるー角に、この会社の研究開発拠点があります。広い敷地には、4棟の建物が並びます。施設の1階には、生まれたばかりのクローンを飼育する部屋があります。来客を迎えるように、10匹以上の子犬たちが元気な鳴声をあげました。お互いに抱きついたりかみあったり、じゃれ合う2匹のプードル犬は、クローン犬です。この部屋ではプードルやアラスカンマラミュートなどのべアが育てられています。飼い主の中には、クローン犬をスペアとして、2匹求める方も多いようです。クローンの価格は、犬が5万ドル(約700万円)で、猫は4万ドルになります。すでに500匹近くが誕生しています。このなかで、犬が全体の3分の2以上を占めています。誕生から約3カ月後に、顧客に引き渡す仕組みです。この技術を使用して、希少動物の保護に向けた研究開発も進めているようです。2022年にはホッキョクオオカミのクローンにも成功しています。このシノジーンは、投資ファンドなどから資金提供を受け、米国にも拠点を構えています。
米氏が、2013年にペットのクローンのビジネスを考えつきました。研究開発の当初は、中国農業大学の小さい部屋を間借りしたのが始まりです。創業メンバーや投資家にクローンの専門家らを招き、2015年に研究開発に着手しました。2017年に最初のクローン「竜竜」が誕生し、2018年からクローン犬を作るビジネスを開始したのです。シノジーンの従業員は、約300人で、約半分が研究開発などの技術者になります。顧客のなかにはペットが死ぬ前に皮膚組織を採取しておき、死亡後にクローンを注文するようです。愛するペットが死んでも「再会」できるということで、国内外から注文が相次ぐ状況です。2019年には、対象を犬から猫に広げました。犬や猫だけではなく、馬や牛などのクローンにも研究を広げています。このシノジーンの競合企業は、米国や韓国にしかないといいます。将来は2割未満の海外比率を5割以上に高めていくようです。
中枢エリアは、ビルの最上階の3階にあります。この最上階に、研究開発やクローンを作り出すエリアがあります。この3階に上がると,液体窒素で凍らせた犬や猫の体細胞の部屋があります。ここには、計4000匹以上の体細胞が収められた専用の容器が並んでいます。ペットの犬や猫の皮膚組織2~3ミリメートル四方から、体細胞を取り出し、核を抽出します。抽出した核は、あらかじめ核を取り除いた別の雌の卵子に移植されます。雌の卵子に移植し、代理母になる犬や猫の子宮に入れて妊娠と出産させる仕組みになっています。この中枢エリアでは、技術者がロボットアームで精密な作業に取り組んでいます。この部屋には、日本製の装置などが並でいました。
最後になりますが、ドローンの先進国は、中国になります。その中国のドローン企業では、DJI社が有名です。DJIは中国広東省深圳にある会社で、民生用ドローンおよびその関連機器の製造会社になります。このDJI製の価格が約8万円のマビック・エアー2が、どのような部品で作られているのか調べてみた会社があります。約230種類ある部品のうち、8割が一般電化製品の部品を使っていたのです。ドローンで使われている1枚の基板には、制御や通信半導体やセンサーなど大小10個の半導体部品が高密度で実装されています。今回分解した機種のマビック・エアー2には、この基板に多くのアメリカ製部品が使われていました。このドローンの部品価格の原価は、14000円で、原価率は20%でした。1000円を超える高価な部品もバッテリーとカメラくらいにとどめているのです。最新の技術も周辺技術が一定のレベルになければ、機能しません。ドローンの事例から推測されることは、クローン技術においても、周辺技術やそれを支えるツールの開発が進んだことによるもと考えられます。ある意味、今まで禁断とされていた生死の領域に入り込む技術が開発されつつあるとも言えます。世の中では、禁断とされていたことが、浸食される事例も増えています。仏教では、人と動物を一緒に埋葬するのは長らくご法度でした。そのような中で、ペットと入れる墓を用意するお寺も出始めたのです。犬や猫を、家族同様と考える人が増えていることがその理由になります。ペットのクローンも、この延長線上にそって受け入れられているようです。もし、この延長線上にヒトのクローンという発想がでてくれば、人類にとって大きな変革になります。もっとも、ヒトのクローンは、各国が禁止しているために実現はしないとされています。