子どもの周りから危険なものを遠ざけることによって、事故を防ぐという考え方があります。子どもが怪我をしないように、公園から箱ブランコ、回転塔、遊動木などが次々と撤去される光景があります。事故を起こさないように、いろいろな手立てが工夫されています。危険なものを遠ざけることと似たようなことは、大人の世界でも行われています。極端なことを言えば、手術をしなれば医療事故は起きません。電車を走らせなければ脱線事故は起きませんし、飛行機を飛ばさなければ墜落もないわけです。そして、事故が起きると再発予防対策が立てられます。この対策は、以前の蓄積された対策に積み重なるように、重厚なものになりがちです。でも、行き過ぎた対策は、リスク感覚を鈍らせると懸念する声も出てきています。公園から遊具が無くなったために、遊びの能力が衰えて、日常生活のつまらないことで大けがをする子供が出てきています。事故を減らすことだけ考えて、肝心の成長発達の目標を忘れては何にもらないという声の存在も無視できないようです。
1977年カナリア諸島の管制官の間違いで、ジャンボ旅客機が衝突し、乗員乗客583人が死亡しました。大西洋のカナリア諸島の飛行場で、管制官の指示を取り違えて2機のジャンボ旅客機が衝突炎上してしまったのです。ヒューマンエラーによる事故は、新聞を見るとセンセーショナルに報道されることがあります。これらの事故は詳細に調査分析され、その原因が報告されています。それらの分析からは、保守作業員、パイロットなどのエラーが引き金となって起きているという報告が多くなっています。ルールを守ることが、安全目標を達成するために最重要なことされてきています。対策として、個人の性格や行動特性に基づいて研修や指導を行うことになります。でも、このような安全管理を推進した結果、既に十分すぎるくらいに存在するルールが、さらに増えという不都合な現象もみえてきます。
叱責や処罰では、エラーを防げません。事故を起こす環境は、設備や磯械の不具合だけでなく人間もその要素を構成しています。そのためにエラーが起きることを前提に、システムを設計し、改良していくことが一般的です。有名な「1対29対300の法則」は、ハインリッヒの法則として有名です。大きな事故が1つ起きる前には、事故につながりそうなことが29あり、さらに目に見えいような危険なことが300ほどあるというものです。これらの知見を獲得している企業は、ほとんどの危険な事象に対して多重の防護壁を築いています。事故を跳ね返す仕組みがあるために、大きな事故はめったに起きないわけです。失敗しても、技術システムがカバーしてくれる「バックアジプシステム」を組み込んでいるわけです。事故についての理解を深め、チームワークを高めることは有効です。でも、個人とチームへのアプローチではエラーの確率を下げられても、ゼロにすることはできないのです。
硬直した現場では、ルールで決められていないことに直面したとき、自分勝手に判断せず、必ず上の判断を仰ぐように指示されています。現場は決められたとおりに作業を行うこと、決められたこと以外はやらないよう命じられる職場もあります。でも、自主的判断がなければ、仕事に誇りが持つことができないものです。仕事に誇りが持てなければ、仕事の質も低下していきます。安全という事象を、「よい仕事を続ける」という視点で評価する方法もあります。仕事には、生産性という面での評価が付きまといます。「しない、できない」だけでは、良い仕事とは言えないのです。現場の創意工夫と臨機応変な対応が奨励され、皆が仕事に誇りを持って働くようにする仕組みが求められます。
将棋界では藤井壮太棋士と「ひふみん」、こと棋士の加藤一二三九段が注目を集めています。加藤棋士は、かわいいと人気者になったのです。以前、百歳を超えた双子の「金さん銀さん」が人気者になりました。赤ちゃんや子供と、老人がなぜ同じく「かわいい」のでしょうか。かわいいには、無害さの要素もあり、それが人気の一つの要素になっています。私たちの身体は、毎日、外からエネルギーを摂らないと維持できません。どうせ毎日食べるならば、料理の工程を楽しみに変えたいという人も現れます。楽しみは、人間に害を与えません。ある面で無害で、有益なものです。料理の行程を経て、炊事をした最後にごちそうが待っているのですから、調理は本当に楽しい仕事になります。人生を豊かに、楽しくしくくれるモノならば、その欲望を恥じることも、否定することもないというわけです。かわいいとか無害というというものは、人間の生活に何らかの意味を与えているのかもしれません。
仕事をする目的は、よい製品を作ること、よいサービスを提供することになります。少しでも、ルーティンワークが楽しくなるように工夫をしたほうが生産的といわれています。すべての仕事で、120点を目指す必要はないようです。せいぜい80点を目指せば良いのです。80点なら余裕があり、エラーや失敗にも、随時対応できる余力ができます。余裕といえば、休日出勤にも、いくつかのメリットもあります。仕事を抱えたまま日曜日を過ごしても、月曜日からの仕事が大変になるだけです。大変だとわかっていれば、心理的に苦痛になります。人のいない職場で、集中して仕事をこなすためには、不必要な外からの刺激をできるだけ遮断することになります。広々とした職場で、一人能率的に仕事を行うことも、余裕を産み出します。ちょうどいいサイズの仕事なら片づけも簡単で済み広々とした空間で気持ちよく送れるというわけです。
モノやルールに、人生を振り回されていることは本末転倒です。仕事では、時間をムダに使わないことが求められます。モノを持つには、お金が必要になり、空間を必要とし、時間が必要になることを意味します。ちょうどいいサイズの生活なら、お金や時間に振り回されることはありません。気をつけたいことは、仕事のスケジュールを過密にし過ぎないことです。仕事の成果を適当に上げながら、失敗や事故の割合を軽減する姿勢が求められます。失敗は起きます。事故も起きます。これらが起きた時に適切に対処できる人は、失敗や事故を経験した人ということになります。ある程度、失敗を許容する職場も良いところなのかもしれません。