<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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同じ場所に長く住み続けていると、そこから離れることがなかなか難しくなる。
とりわけ人生の長さに近ければ近いほど、その場所は特別になるのだ。

映画「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」は一組の老夫婦が若い頃に買ったアパートメントを手放そうとした数週間の物語だ。
夫婦役が変わっている。
夫・モーガン・フリーマン。
妻・ダイアン・キートン。
黒人男性と白人女性の夫婦。
こういう組合せはいないはずがないが、どこか特別なものを感じさせるものがあった。
実際物語の中で幾つかの二人の若い頃の挿入エピソードがあるが、それは白人と黒人の結婚の難しさを謳ったものでもあった。

その周囲の反対を押し切って二人が新居に購入したのが舞台になった「眺めのいい部屋」。
部屋の外には小さなバルコニーがあり、そこからはブルックリン・ブリッジの姿が少しばかり望まれる。
とっても素敵なニューヨークらしいアパートメントなのだ。
二人はここに半世紀住み続けてきたのだが、5階、エレベータなしという環境では、そのうち階段を上がることも困難になるのではないかという老いの不安が二人にその部屋を売り出させる動機となっていたのだ。

この映画を観ていて、これはかなりキツイ物語だなと感じた。
住み慣れた自宅を手放すということは、ただ単にモノとしての家を手放すことではない。
年老いた人たちにとって、そういう住処は自分たちの人生を刻んできたキャンバスのようなものだ。
壁の色。
柱の傷。
窓枠。
そして窓からの眺め。
その一つ一つに人には伝えきることの出来ない思い出があり、思い入れがある。
売ることを考えたキッカケになった5階までの長い階段でさえ半世紀に渡って毎日昇り降りした生活の一部なのだ。

物語が進んでいくに従ってアパート売却の行方が気になってくる。
自分だったらどうだろう?
あの人に売るのか?
それとも。
というようなことを考えながらどんどん引き込まれていく。
そして結論は....。
いかにもアメリカ映画らしい終わり方に少しばかり拍子抜けすることもなくはないが、ニュークを舞台にした映画の雰囲気はウディ・アレンの映画のようで心地良かった。

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