<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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約30年前。
大学を卒業して初めて就職した会社は建築設備の会社で週休1日制。
つまり休みは日曜祝日と年末年始、盆休み。
それだけなのであった。

当時、週休二日制の会社はほとんどが大手で私の就職した中小企業はだいたいが土曜日も仕事。
従って日曜日が非常に貴重で、日曜日の終わりを告げる淀川長治さんの「さよなら、さよなら、さよなら」に続く日曜洋画劇場のエンディングテーマを聞くたびに憂鬱になったものだった。
尤も小学生の時から大学まで土曜日はちゃんと授業があったので「土日休み」なんてのは特別な環境でもあった。

就職してわかったのは定時には帰れないということであった。
勤務時間は一応9:00から17:00という決まりがあったものの、私は新築の現場で資料を作成したり現場の設備の測定をしたりするのが仕事であったため始業時間が8:00か8:30ということが少なくなく、終業時間は有って無きが如しだった。

「○○君。今日は騒音測定手伝ってくれるか」

と現場所長から言われると、その日の終業時間はだいたい11:00頃になるか、帰れないかのどちらかであった。
騒音測定は設備から発生する音を測定する作業なのだったが、周囲の自動車や電車などの生活騒音が大きな昼間はデータがとれないので畢竟夜間の仕事となる。
こういう夜間の仕事がなくても、図面やデータの整理が19:00,20:00までかかることが多く、残業は毎日2〜3時間あった。
つまり月あたりの残業時間は50時間以上が普通で100時間を超えることも特別ではなかった。
しかも私の任される現場は神戸市や京都市にあることが多かった。
このとため大阪の堺市にあった自宅からは片道1時間30分ほどかけての通勤でだったので、朝は遅くとも自宅を午前6時30分には出発、帰宅は早くて21:00頃なのであった。

家はまさしく「寝るだけの場所」であったわけだ。

そんな仕事も慣れというのは恐ろしいもので、辛いとか苦しいとか感じなくなり、やがて楽しいに変化するという信じられない精神的境地に達した。
ただし、それはもしかすると「建築」という仕事の一部に携わっていたからかもわからない。
建築で作られる「建物」は向こう何十年と地域に姿を留める。
「あの建物は僕が建てたのだ。但し、ほんの一部やけど」
と認識することができる仕事だったからかも分からない。
それと現場事務所で仕事しているうちに色んな業者の人々とファミリーのような感覚になってくる建築という仕事の特質も影響していたと思う。

また残業の多さだけではなく休みも少なかった。
当時の建築設備の仕事は忙しく、平日は新築現場を任されるのだが日曜日や夜間は客先が休んでいるときしか出来ない設備工事なんかもあり、そういうところと掛け持ちすると休めないことになる。
私は最長1ヶ月間働きっぱなしということがあったが、同僚には3ヶ月連続勤務という強者もいた。
こうなると、たまに休んだりすると風邪を引いたりするので注意が必要だ。

ここ数日、国会の中継放送をラジオで聞く機会がって耳を傾けてると、電通の事件などを例に上げて労働環境の議論が飛び込んでくる。
「勤務超過で心の病で斃れる人がいるのでなんとかするのが政府の仕事だ」みたいなことをぎゃあぎゃあ言い合っているのだ。

そんなとき思い出すのは30年前の20代の日々。
毎日毎日仕事ばかりしていたあの頃を思い出す。
同じ現場で働いていた同い年の元請け会社のエンジニアは、
「大学出てから半年で200万円ほど溜まりました。でも、使う間ないんですよね。」
と言っていた。
東工大を卒業したエリートだったが気のいいヤツで私のような芸大卒のヘンなやつにも対等に付き合ってくれたのが今も思い出される。
遅くなったらビールを飲んで仕事をしたこともあった。
現場所長が飲みに連れて行ってくれたことも多々あった。
職人の親方連中からは仕事の仕方を教えてもらうこともあった。
事務所では真剣な仕事をしていたが笑いもすくなくなかった。
休みは無いが、それなりに充実していたと思っている。

今の20代の務める会社はほとんどが週休二日制。
長期休暇を取れる会社も少なくない。
でも、残業が50時間、100時間と増えると斃れる人が出てくる。

思うに、これはもしかすると残業時間の問題ではないのではないか。
私の20代の頃と今を比較すると土曜日の仕事だけでも少なくとも労働時間は32時間も多い。
でも20代で倒れました、というのは聞かなかった。
これは若い人の体力や気力が失われているからこんことになるのではなく、社会が硬直化して陰険になっているからではないだろうかと思えてしかたがない。
つまり「楽しく残業」できない雰囲気が蔓延しているのではないか。

ルール遵守。
労基も煩い。
サービス残業させるくらないら家に帰って仕事してくれたほうが総務や労務は責任を取らずに済む。
形式に厳しくなって人間性を失って、管理職はまさに管理だけやってて感情無視。
畢竟「楽しくない」環境が完成するということだろう。

国会中継の中身そのものがなんとなく陰険なので、労働環境も同じではないかと思うことしきりなのであった。


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