<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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今ではバンコクで白タクを利用することなど全くない。
自分自身が宿泊するサービスアパートメントでは白タクは屯しておらず、移動にはもっぱら近くの駅からスカイトレインを利用する。
スカイトレインの走っていない方向であれば、路線バスか、あるいはトゥクトゥクを利用するのだ。
しかしこの時、バンコク初心者の私は土地勘もなく、頼りになるのはガイドブックだけ。
街の歩き方もよくわからない。
いざ出発とばかりにホテルから出て来るとすぐに私は白タクの運ちゃんに話しかけられた。
「ドコイクの?」
と、なぜか日本語で。

白タクは日本では違法だが、タイでも違法というようなことを聞くが結構たくさん営業しており、私のようなカモを見つけては声をかける。
しかも日本語で。
この白タクの運ちゃんは痩身でヨレヨレの白いシャツを着ていて怪しげな笑顔を向けてきたのだが、暑いのと慣れていないのとで私としてはどうすればいいのやら判断に苦しんだ。
でも、その笑顔が悪くなさそうだし、白タクの原則として最初に価格交渉をはじめたことから、私はその白タクに乗って手近な観光をすることに決めたのであった。
その結果として、あちらこちらの観光スポットを案内してくれたのだが、運ちゃんが話せる日本語は原則として、
「ドコイクの」

「イイコいるよ」
の2つしか無いことがやがて判明し、なんじゃこれは、ということになったのは言うまでもない。
運ちゃんはひっきりなしにそういうお店のカードを見せては、
「イイコいる」
と売り込んでくるのだが、私には全くその気がなかったので、
「いらない」
とその都度撥ねつけた。
しかし、数分もすれば再び、
「これどう?」
という感じで別の店のカードを見せては、
「イイコいるよ」
と言うのには参ったのであった。
その都度ニコニコしているので、微笑みの国とはこういう「あっち系娯楽の勧誘」で駆使され磨かれたものなのであろうか、と感心したものであった。

ある程度は真面目な面もあり、観光スポットはちゃんと回ってくれた。
しかし回った観光スポットも後にバンコクの地理に明るくなると、それらは王宮近辺を中心とする2km四方に集中していたことがわかった。
ようは近場をグルグル回っていただけなのだ。
バンコク都内は渋滞が激しく、その頃はまだスカイトレインも地下鉄もなかったので移動はすべて自動車という時代だった。
だから、渋滞は慢性的で今よりもひどかったように記憶する、

結果的にフーゾク店への執拗な勧誘と、複数の土産物屋店への無意味な訪問を除けばボッタクられることもなく、平和裏に3時間ほどの白タクツアーは終わったのだった。
しかし、これも後日、現地の事情に明るくなってからこの白タクツアーは大変危険なものであることを知った。
というのも、微笑みの国バンコクでもタクシー犯罪は少なくないという。
とりわけメータータクシーや白タクでのトラブルは現地の新聞ならずとも、時々日本の新聞を賑わす事件を発生させている。
例えば、数年前にJALの客室乗務員が繁華街で拾ったタクシーでホテルに帰ろうとしていたところ、タクシーの運ちゃんが強盗に豹変しピストルを一発ズドンとされた事件が発生した。
この時は、確か客室乗務員は怪我をしながも機転を効かせて逃げることに成功したが、タイへの訪問に慣れているはずの客室乗務員がそのような犯罪に巻き込まれるのだから、必ずしも安全とはいえない。
できれば流しのタクシーは利用せず、ホテルやショッピングモールで正式に客待ちをしているタクシーを利用するのが得策なのだ。

私が利用した白タクは白タクなのであったが、ロイヤルホテルという中の下のホテルの玄関先で常に客待ちをしているタクシーだったので、ある意味安全だったのかもしれない。
もし宿泊客に何かあれば、彼はそのホテルの前で客を捕まえることができなくなるからだ。
どうして彼がロイヤルホテルの前でいつも客待ちをしていたのかを知っていたというと、あくる日も、そのまたあくる日も、私の顔を見つけてはニコッと笑い、
「イイコいるよ」
と言ってきたからなのであった。
3日目の朝にホテルをチェックアウトした時に彼は、
「エアポート?」
と言ってきた。
私は16:00発のシンガポール行きに乗る予定だったし、なんとなく彼がタイにおける初めての知人のようにも思えたので、
「OK、あとでな。」
と英語で言って別れたのだが、結局はホテルに戻らずあるお寺の前でタクシーを捕まえてドンムアン空港に向かったのであった。
その捕まえたタクシーは流しのタクシーなのであったが、運転手が「超」安全運転をするので、「もしかして」と思ったのだが、ただ単に「超真面目」だっただけで、犯罪性はまったくなかったのであった。
犯罪性があったというと、高速道路を使わずにトロトロと一般道を走って空港へ向かい、
「乗り遅れんるんちゃうやろか。急いで~」
と言っても言葉が通じず、イライラさせたことはある意味悪気はなくともお客さんへの犯罪であったと言えるかもしれない。

つづく

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