<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



遠い昔。
子供の頃の思い出。

子供の頃、私は公団住宅に住んでいた。
間取りは六畳間、四畳半、三畳の板の間、そしてキッチン、風呂、トイレ。
このうちの三畳の板の間をサラリーマンを辞めて起業したばかりの父が事務所に使っていたことがあった。
私は幼稚園に入るかはいらないかというような年齢の時で詳細は覚えていないのだが、ねずみ色の事務机と黒い電話が置かれていた。
実際にそこで父が仕事をしていたという記憶はないのだが、色んな人が訪れていたことは本人から聞くまでもなく母の証言からも伺える。

その訪問者で最も困ったのは「ヤクザ」だったという。
辞めた会社の顧客を父がとったとかで、その会社の部長級のオッサンがヤクザを連れて我が家に文句を言いにきたことがあったのだという。
さすがの母もこれには恐れをなしたようで、
「こわかったよ」
と今でも時々話しをするのだが、私の父は今もそうだが法学部出身者らしく法律知識を駆使してヤクザもろとも追い払ってしまったという。
実際に法律を盾に脅したのかどうかは分からないが、金でケジメを付けたのかも知れず、結果的に愛結したということは、父の度胸は大したものであった今になってよくわかるエピソードである。
で、その時の私はといえば、母に抱きついて離れなかったのだという。
子供心にも怖かったに違いない。

私の父は大学出のくせに若いころは喧嘩っ早く、私が生まれる前はヤクザを殴りつけて警察沙汰になり、本人が学生時代インターンでお世話になっていた弁護士の先生にお世話になり大目玉を食らうこともあったらしい。
先生は後に首相になった岸信介と同窓で、先生自身は大阪弁護士会の会長もやったことのあるエライ人だったのだが、面倒を見ていた学生、つまり私の父はヤンチャで結構手を焼いたのではないかと思える。
この弁護士の先生は私の名付け親でもあるところを見ると、父は生涯頭のあがらなかったのは祖父とこの先生だけだったようだ。
頭は悪くないくせに、喧嘩早い父はそれはそれで昭和30年代を生きる若き男としてはなかなか面白いところもあったのだろう。
男というものはエピソードがないよりも有る方が、なんとなく良いように思えるのは私だけではあるまい。

そういう意味において、シンガーソングライターで作家のさだまさしのお父さんも結構面白い人だったようだ。

小説「かすていら」は著者のさだまさし自身が危篤の父を見舞いつつ往時を思い出す、私小説なのだが、これが実に面白い。
父の死に直面しながら悲壮感は一切無く、父と息子の男としての生き方が著されていて、なんとも清々しい気持ちになるのだ。

無論さだまさしのお父さんも普通の人ではなかった。
生い立ちそのものが劇的でさえ有る。
ヤクザとの格闘と親交。
悪徳不動産屋との駆け引き。
破産。
引越し。
雲隠れ。
などなど、波乱に富んでいる。
これがあの「親父の一番長い日」の親父のモデルかと思うと笑えてくるのだ。

ハチャメチャな親父とそれを支える母、長男である著者と弟、妹の家族。
そしてこの家族をとりまく知人や友人が実に素晴らしく、実に人間味が溢れている。

「かすていら」は甘く奥行きと厚みのある暖かな人間模様を描いた傑作な物語だと思った。
さだまさしの歌のように涙と笑いが溢れているのだから。




コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (京都の船長)
2013-07-17 12:57:44
今まで黙っておりましたが中2からのさだファンです。
最近の楽曲はフォローしていませんが。ベスト盤「天晴」を近日入手予定(笑)
「かすていら」はNHKBSでドラマ化されて今放送中。遠藤憲一の親父はなかなか好演です。
http://www.nhk.or.jp/drama/castella/
7/27深夜にはNHK総合で「今夜も生でさだまさし」のオンエアがあります。たぶん「かすていら」の話も出るでしょう。
http://www.nhk.or.jp/masashi/

以上、50年の人生で行ったコンサートは、やしきたかじんとさだまさし、京都の船長でした。
 
 
 
まいど (監督@とりがら管理人)
2013-07-19 22:39:35
船長さん、まいどです。
船長さんがさだまさしのファンとは知りませんでした。そしてまた生涯で行ったことの有るライブがさだまさしとやしきたかじん(ひらがなばっかり)というのも歌より喋くり優先というお笑い好きに通じるものがありますね。
最近はさだまさしほどの詩を書く人がおらず、歌がつまらないでしょ。
 
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